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 うーん、分からん。

 お城にまで苗木ちゃんを潜入させたのに、三男は普通に公務してるだけだった。真面目か。

 漫画やアニメとかなら、ひとりになったときに『お前、誰に説明してんだよ?』という感じで独白してくれるものなんだけどなぁ。三男はそうじゃないらしい。

 公務のときは必要なこと以外ほとんど喋らないし、館でも喋るのは使用人たちに指示するときくらい。本当に無口だ。あのときは極レアで溢してただけらしい。

 ボッチならもっと独り言を言えよ。独白しろ。俺に楽をさせてくれ。リアルは気が利かなくて駄目だな。


 仕方がない、【読心】技能スキルを使うか。

 いつまでも覗きをしていると、天の声さんが称号を押し付けてくるかもしれないからな。早めに終わらせたい。手遅れになる前に。

 ほ、本当はやりたくないんだからね! 貴女が心を開いてくれないから仕方なくなんだからね! などとツンデレ風に言い訳をしてみる。ツンデレならしょうがないよね。ツンデレなら全部許されるはず。ただし美少女に限る?

 というわけでレッツ【読心】! 君の全てを知りたいんだ、全部見せてくれ! お風呂の最中にごめんね! 肉体のほうもちゃんと見るから!


『殺殺殺殺殺殺殺殺殺……』


 うおぅっ!? 背中に寒気が!

 えっ、なに今の? もう一回……


『滅滅滅滅滅滅滅滅滅……』


 うひぃっ!? 気のせいじゃなかった!

 やべぇ、こいつ病んでる!? 澄ました顔して、考えてるのはSATSUGAIのことだけだよ! クラ◯ザーさんもビックリだよ! 身体洗いながら器用だな!


 うーん、これはいかんな。どうやら三男は心が壊れているみたいだ。

 厨二病でも、流石にここまで染まってはいないだろうしな。本物の心の病気だ。


 さて、これは困ったぞ?


 俺の眷属にするには、これまでの経験から、ふたつのパターンがあると思われる。

 ひとつは俺に供物として捧げられたパターン。芋や麦、毒花、そして奴隷子ちゃんがこのパターンだな。

 ゼブも多分このパターンだ。あのときは捧げられたっていうか、俺が拾った感じだったけどな。


 ふたつめは服従させること。ヒトや魔物はこのパターンだな。【話術】で懐柔したりとか。

 ヤギママや馬もこのパターンだと思う。あいつらは餌付けだったけど。喰われたけど。


 でだ。

 三男には、どっちも使えそうにない。

 誰も俺にお供えしてくれないだろうし、説得しようにも話が通じないだろう。

 いや、ゼブのときと同じことならできるかもしれないけど、アレには〝俺が拾ったことになるのか〟、〝ヒトにも通用するのか〟といった感じで、不確定要素が多い。

 失敗したら廃人がひとり出来るだけだし、成功したとしても俺が三男に憑依して皇国の面倒を見なきゃいけなくなる。そんな面倒くさいことはしたくない。仕事したくない。


 うーん、どうするべきか……【病気耐性】で心の病も治ったりしないかな? いや駄目か。変態は治ってないし。前例多数。

 他の皇子に候補を変更する? いや、どいつもこいつも皇王にするには問題があるからなぁ。心の病のことを考慮に入れても、三男が一番問題が少ないと思う。

 なにより、お嬢様モードは目の保養になる! これは大きいアドバンテージだ! 代えがたい!


 治すしかないか。

 殺意に凝り固まった心を癒やし、説得して俺の眷属に引き込む。

 これしかない。


 さて。

 となれば、どうやって三男の心を癒やすかだな。

 ここまで壊れていると、何を言っても届かないだろう。目的を果たすまでは、誰が何を言っても聞く耳を持たないんじゃないかな。

 目的を果たす……誰かを殺で滅するってことだよな。

 それを手助けすればいいんだろうけど、その相手が分からない。心を読んでも分からない。

 それを知るためにも心を開いてもらわないと……って、それができないから困ってるんだよな。

 うぬぅ、一体どうすれば……あっ、アレならいけるんじゃないか? いけるかも?



「にゃーん」

「? おや。お前、どこから入ってきたの?」


 俺ですよ!

 見よ、この艷やかな毛並み! しなやかな動き! そして愛らしい仕草! どこから見ても完璧な三毛猫だ! しかもオス!

 いやさ、ワンコでも良かったんだけど、この離宮の中にどうやって入ってきたんだってことになるかもしれないじゃん? そこまでザルじゃないんだよな、この離宮の警備。

 その点、ニャンコは液体だからどこにでも入り込める。離宮にいても怪しまれないって寸法だ。

 大魔王らしく黒猫ってことも考えたんだけど、黒猫はすでにキキがいるからな。キャラが被らないように三毛にしてみた。

 けど三毛猫って、確か圧倒的にメスが多いんだよな。なんでも、遺伝子的にメスにしか発現しない毛色らしい。オスの三毛は遺伝子異常でしか発生しないから、何万匹に一匹しかいないんだとか。

 だから幸運の象徴らしいですよ?

 さぁ、そんな極レアな俺を可愛がらせてやろう! チヤホヤするのだ! 撫でれ!


 おっと、脱線するところだった。

 本当の目的は別にある。決して、ナデナデしてもらったりダッコしてもらったりが目的ではないのだ。ないのだ!


 まず、心の癒しだ。ペットセラピーってやつだな。可愛い小動物を愛でることで、心の傷を癒やしてもらおうというわけだ。俺も癒やされてウィンウィンだな!

 人には心を開けなくても、ペットになら心を開くかもしれないしな。

 でも、三男モードのときは近寄らない。男に愛でられる趣味はない。


 そして、より接近することで三男の目的を探るのがもうひとつの目的。

 狙っているのは誰なのか、その理由は何なのか。

 それが分かれば、俺が手助けしてお膳立てしてやることができるかもしれない。それを取引材料にして眷属へ引き込むことも。

 独り言を言わない人でも、ペットにはつい話しかけてしまうものだ。それはどうしようもない人間の性なのだ。どんなに強面のおっさんでも赤ちゃん言葉が出てしまうものなのだ!


 というわけで、【変態】技能を活用してさらなる潜入捜査だ。作戦は第二段階へ入ったのだ!

 作戦名ニャンコ大作戦、開始! クリーチャーにはなりません! 多分!


「にゃーん」

「お前、人懐っこいわね。どこかの飼い猫だったのかしら? ふふ」


 よしよし、早速効果が出ているな? 口数が増えた。

 心の中はどうかな? ちょっとは変わったかな?


『斬斬斬斬斬斬斬斬……』


 まだ駄目か! 表面上は普通なんだけどなぁ。これは長丁場になりそうだ。

 まぁいい、今は取り入ることに集中しよう。それ、スリスリゴロゴロ〜。


「ふふふ、いい毛並みね。手触りが気持ちいいわ。それに、なんだか森の香りがする」


 そうだろうそうだろう。森の癒し成分フィトンチッドも分泌しているからな。お部屋に居ながら森林浴だ。

 ふむ、その癒し成分をベッドにもつけておいてやろう。大丈夫、毛は抜けないから。ゴローンゴローン。


「うふふ、何してるのお前。変な子ね」


 失敬な! これも医療行為なのですよ! ある種のお医者さんごっこです! 変なことじゃありません!


「うふふ、うふふふ……あら、お前オスなのね。可愛いのが付いてるわ」


 あら、見られちゃった。いやん。

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