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 ふむぅ、やっぱりこの娘が三男っぽいな。

 しばらく張り込みをして分かったことは、三男は普段はお嬢様として生活をしていて、お城へ上がるときだけ三男になってるってことだな。あと、やっぱりアンパンとコーヒーが欲しい。

 なんでそんなことをしているのかは、まだわからん。もうちょっと張り込みを続ける必要があるな。


 あくまでも張り込みですよ、張り込み。覗きじゃないから。仕事(?)だから仕方ない。いやぁ、他人のプライバシーを侵すのは良心が痛むなぁ!

 ということで、今日もじっくり拝見させてもらおうか。乙女(?)の日常を、余すところなく!


「坊ちゃま、おかえりなさいまし」

「うむ、変わりはなかったか?」

「はい、何も」

「そうか。では着替える」

「お手伝い致します」


 お、帰ってきたか。今日もお城への御勤めご苦労さまです。三男モードのときは相変わらずのイケメンですね。けどお前に用はない。早くお嬢様に変われ。

 三男を中年メイドさんが出迎えて、そのまま私室へと移動する。

 お姐さん、実は変わりはあるんだよ? 屋敷内のレンガや天井板は、いたるところで俺のお種さんと入れ替わってるからね。お風呂場と脱衣所もね! 死角なし!

 いや、これも仕事だからさー。やりたくないんだけど、仕事だからしょうがないよねー。困ったなー、やりたくないんだけどなー。フヘヘ。


 まぁ、マジな話。あんまりやりすぎると、また変な称号を付けられるかもしれないからな。覗き魔とか。過剰にやりすぎるのはヤバい。

 でも風呂場と脱衣所は必要。必要なんだ! 俺のモチベーション的に!


 中年メイドさんが先に部屋へ入って、開けっ放しにしていた木の窓を閉める。部屋が一気に暗くなった。その足で、ベッド横のサイドテーブルの上に置かれたオイルランプに火を入れる。火打ち石を持ち歩いているのか。メイドの嗜み?

 ドアを閉めた三男が、早速服を脱いで全裸になる。脱いだ服は中年メイドさんが集めて籠へ入れる。

 粛々と作業しつつも、中年メイドさんの視線が三男の股間へ伸びているのを俺は見逃さない。あんたも好きねぇ。


 特にエフェクトもなくスルスルと肉体の変化が起きて、三男がお嬢様になる。へへぇ〜、ありがたやありがたや。南無南無。

 なんというか、ランプのオレンジの光に照らされる白い裸体が艶めかしい。エロスを感じる。


「……最近、妙に視線を感じることがあるのよね。何処かに魔道具でも仕込まれているのかしら?」

「いえ、毎日隅々まで掃除しておりますが、怪しいものは何も」

「そう。気の所為ならいいのだけれど、少しでも怪しいものがあったら報告して。今が大事な時だから」

「……かしこまりました」


 話しながらも、中年メイドさんがテキパキと下着や服を着せていく。もっと時間をかけてもいいんだよ? もっと視聴者(俺)にサービスしてくれ!

 ああ、着替え終わってしまった……まぁ、そのシンプルな白い部屋着のワンピースも悪くないけどね。いずれクリスたちにも作ってあげよう。

 しかし、お嬢様は意外に勘がいいな。

 いや、女は男が思っている以上に視線に敏感だというから、それかもしれない。身体も口調も女になってるし。

 男はチラ見のつもりでも、女にはガン見と思われてるらしい。それくらい女性は視線に敏感ということだな。

 つまり、見るならガン見。それが正解。

 だって、見ないなんてことはできないからな! それは男のさがだから! オッパイバンザイ!


 それはそれとして、ちょっと聞き捨てならない単語が出てきたな? 魔道具だって?

 それって『魔法の効果を道具で再現しました』ってアイテムのことだよな? あるの?


 あ、そういやギーが燃える槍を作ってたな。あれは魔道具って感じじゃないけど、道具に魔法効果が付いてるという意味では魔道具だ。

 ひとつ実例があるなら、第二、第三の例があってもおかしくはない。ってことは、あるんだろうな魔道具。

 ふむ、覗きの魔道具か……けしからん! 実にけしからん!

 覗きとは己の技術と機転と度胸で行うものだ! 安易な道具に頼るなど言語道断、変質者の風上にも置けん! その魔道具は俺が預かってやる! 有効活用してやろう! よこせ!


「夕食までしばらく休むわ。誰も近づけないように」

「承知致しました。夕食のご用意ができましたらお声がけさせていただきます」

「ええ、よろしくね」


 中年メイドさんが部屋のカーテンを閉めて、三男が脱いだ服を入れた籠を持って、一礼してから部屋を出ていく。所作が本職のそれっぽくていい。

 ドアが再び閉められると、また部屋の中を照らすのはランプの心許ない明かりだけになる。オイルの質がイマイチなのか、光量は微妙に安定していない。ゆらめきがエロス。


 お嬢様はベッドへ向かうと、そのままゴロリと仰向けに寝転がる。

 ほほう、横になっても形がほとんど崩れておりませんな。素晴らしいハリだ。実に良いものをお持ちで。バンザイ。

 お嬢様がジッと天井を見つめる。ひたすら見つめる。実は木目の本数を数えてる?

 いや、そのベッドの真上の天井板、実は俺なんだ。そんなに見つめるなよ、照れるだろう?

 あっ、実はバレてるのか!? いつもの天井と違った? それはいかん、今すぐ逃げるべきか? それともしらばっくれるべき? どっちだ!?


「もう少し、もう少しよ……あと少しでアイツの首に手が届く……それまでの我慢よ」


 ほっ、どうやらバレてはいないっぽいな。これからもお嬢様の寝顔をじっくり観察できそうだ。向こうも俺を見ているし、おあいこってことで。

 そう、お前が天井を見つめる時、天井もまたお前を見つめているのだ! バイにーちぇ。ウソ。


 しかし、何やら不穏な発言だな。お嬢様には、何やら穏やかじゃない目的があるらしい。

 屋敷にいるときはそんな素振りはないから、三男になって(戻って?)外出しているときに何かやっているんだろう。

 厨二病でなければ、だけど。十四歳だからなぁ。黒歴史を量産している可能性もなくはない。


 うーん。これは屋敷内だけじゃなくて、お城にも監視を送り込む必要があるか?

 お嬢様の目的と行動が分かれば、こっち側に引き込むための糸口が掴めるかもしれないしな。糸口さえ掴めれば、それを引っ張って布をほどいて全裸に! 全てを赤裸々、オールレッドヌードに!

 いや、半裸も捨てがたいな? エロス。

 仮に厨二病だったとしても、それを脅しの材料に使えるかもしれないし。黒歴史はいつまでも祟るものなのだよ。覚えておきたまえ。経験者談。


 しかしなぁ、皇国の王様がいるお城だろう? 変態の国の中枢だぜ?

 行きたくねぇなぁ。行かなくて済む方法は何かないものか。

 無いんだろうなぁ。はぁ。

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