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 無いわー。これは無いわー。


 長男はアウト。配下っていうか、知り合いにもなりたくない。

 なんだよ食人趣味って。それ、人としてだめだろ。同族喰いとか、お前はカマキリか。見た目はアブラブタのくせしやがって。野菜食え。

 地下に食料庫とかいう名目の牢屋まで作っちゃってさ。そこに貧民っぽい子供や女性がいるのを見た時点で萎えたね。無い無い。

 『人の上に立つということは、すなわち人を食らって生きることである』とか、ちょっとこじらせすぎ。いい歳した大人がそんな厨二思想とか、もう救いようがないよね。

 俺が求めているのは本物の厨二(十四歳)であって、残念な厨二病患者ではないのだ。


 まぁ、実際には食人なんて行われてないんだけどな。長男がその気になってるだけ。

 料理長が羊を連れてきて、それを人の代わりに絞めて調理してた。犠牲になるはずだった人に、少しばかりのお金を渡して離宮から逃がしてた。ナイスだ料理長。


 だよなぁ。普通の人なら、人間なんて料理したくないよなぁ。絞めるのもイヤだろう。人殺しだもんな。

 長男がその羊料理食って『ふむ、大人は女でも臭みが強いな。やはり人肉料理は子供に限る』とか言ってんの。プププッ!

 それ、マトンですから! オレンジ果汁に漬けてジンギスカンにすると美味いやつですから!


 けど、これが皇王になったら本当に人を食いはじめるかもしれないんだよな。しかも、長男のこいつが一番王の座に近い。これはヤバい。

 そして本物の人肉の味を知った時、それまで偽物を食わされていたことに気が付いて、心優しい料理長は処罰されるだろう。もしかしたら調理される側に回ってしまうかもしれない。

 それはいかん! とても遺憾ですよ! 良識人は生きるべき!


 ということで、作戦決行の折りには、長男には闇魔法をプレゼントだ。遠慮せずに受け取ってくれ。

 それまで、もうちょっとだけ頑張ってくれよな、料理長。



 ふむう。

 長男に比べたら、次男はまだ普通だな。変態でもない。ただの薬物中毒者だ。

 これは大麻か? それともアヘン? 部屋の中に変な臭いの煙が充満してる。

 大人が五人くらい寝れそうなでっかいベッドがふたつ並べられてて、そこに半裸の男と女数人が呆けた顔で転がってる。この長髪ヒョロガリが次男っぽい。

 この甘ったるいようなゲロのような、変な臭いの煙の出どころはあの香炉か。確認するまでもなくヤバいやつだな。


 うーん、こいつも無いな。

 いや、薬物中毒っていうのは別にいい。どうせ傀儡にするんだから、薬漬けなのは手間が省ける。

 けど、眷属にしちゃうと【毒耐性】が付いちゃうんだよね。つまり、薬が効かなくなっちゃう。

 ジャンキーな次男はそれを望まないんじゃないかな? 気持ちよくなれなくなるからな。

 つまり、次男の場合はあちらの都合で俺の仲間にはなりたがらないだろうってことだ。利害の不一致。

 けど、長男と違って無理に処分する必要はないかな? ラリってれば幸せっぽいし、そのうち勝手に過剰摂取オーバードゥーズで逝ってくれるだろう。放っておいても問題無さそう。

 今回は御縁が無かったということで、次男様の今後のご活躍(?)をお祈りさせていただきます。

 あ、庭に俺の眷属の毒草を植えとくね。使い方次第で気持ちよくなれると思うから。



 さて……三男がいねぇな。


 四男は居た。まぁ、変態と言えば変態かな?

 オッパイマニア、というと変態としてはまだまだ序の口なんだけどな。世のほとんどの男がそうだし。反論はちょっとだけ認める。

 けどこの四男は、ちょっと毛色が違う。オッパイマニアと言うか母乳マニアだ。

 出産したばかりの女性を集めて、その母乳の味比べをするのが趣味みたいだ。

 うーん、まぁ、人に迷惑をかけるわけじゃなし、乳離れできていないだけと言えばそれまでなんだよな。まだ子供だし。


 ……ちょっとだけ羨ましい気もする。だって俺、母乳の味なんて覚えてないし。俺が赤ちゃんの頃は赤ちゃんだったからなぁ。

 それに、味に違いがあるのかなんて、普通は確かめる機会がないし。普通は母親のオッパイと粉ミルクくらいだろう。上流階級なら乳母がいるかもだけど。

 それでもふたり分だ。それをこいつは何人も……う、羨ましくなんてないんだからねっ!

 実はこいつ、権力の使い方をよく理解している? 支配者向き?

 惜しいな、血筋が良ければ俺の仲間にしてやったのに。


 五男も居た。

 こいつは、まだまだ子供だからか、特に変態っぽさはなかったな。ちょっとお尻にこだわりがありそう? ってくらい。

 隙あらば乳母や護衛の兵士の尻やケツを叩いてた。プリプリが尻、ゴリゴリがケツ。


 この程度は、子供にはよくあることだ。実は焼き豚婦人マダムチャーシューの同類という線もなくはないけど。

 焼き豚婦人と違うところは、老若男女関係なくって点だな。叩いたときの音と感触の違いを楽しんでいるらしい。パーカッション感覚?

 まぁ、これが変態だとしても、まだまだかわいいもんだ。大きくなって尻ドラム道を極めてくれたまえ。影から応援させてもらうよ。


 っていうか、三男だよ! どこにいるんだよ! 本命が見当たらないよ!

 おかしいなぁ、離宮内は隈なく探したんだけどなぁ?

 この離宮の南東端にある屋敷が三男の住居らしいんだけど、それらしい人物が居ないんだよな。

 こいつは衛兵……この子はメイド……料理人に庭師に執事。屋敷の広さのわりに詰めてる人数が少ないな。


 そしてお嬢様。ウェーブの掛かった亜麻色のロングヘアで結構かわいい。着ている服からして、上流階級の生まれなのは間違い無さそう。

 『もしかして、このお嬢様が実はお兄様だったり? 年齢も三男と同じくらいだし、実は女装趣味?』とか思ったんだけど、確認したらちゃんと女の子だった。

 どうやって、どこを確認したのかは秘密だ。ヒントはお風呂とだけ言っておこう。ごちそうさまでした。ピチピチでした。


 この子は多分妹だな。なにか事情があって、三男と同じ屋敷に住んでいるんだろう。

 もしかして、双子だったり? 兄妹が離れ離れになるのが嫌で一緒に住んでるとか? ありそうな話だ。

 でも、そうするとこの子も皇国貴族ということで……変態なのか。なんて残酷な現実。


 あれー、やっぱ居ないな?

 もしかして三男はお出かけ中か? 皇族だもんな。公務で出張中ってことも有り得る話だ。あの兄ふたりは仕事できなさそうだし。偏見だけど。

 仕方がない、ここでしばらく張り込むか。帰ってくるまで待たせてもらおう。

 幸い、この屋敷の庭には植木が沢山植わっている。豆の木が一本増えたくらいはごまかせるだろう。庭師が来たら隠れるし。伐られたくない。


 さ、それじゃ張り込み開始だ。ホシは必ず現場に戻る! そこを押さえるのだ!

 あー、アンパンと牛乳がないのが悔やまれるな。張り込みの必須アイテムなのに。

 今後のために作っておくか? うむ、そうしよう! まずは小豆の調達からだな。


「イーサン様、間もなく出仕のお時間です。お支度を」

「わかったわ。変わる・・・から少し待ってて」

「承知致しました。わたくしは表におりますので、終わりましたらお声がけください」

「ええ」


 お? お嬢様の部屋に執事が。

 ふむ? 出仕ってことは、お城に行くんだな? けど、変わるって、どういうこと? 化粧か?

 って、ああっ!? 服脱いで全裸になって、そんな嬉しいこと……んなっ!? オッパイが小さくなっていく!? 駄目だ、それは俺の大事なものだ! 返せ! 持って行かないで!

 ぬおっ!? お嬢様の股間に見慣れたものが生えてきた!? それはいらないです持ってます間に合ってますお嬢様には必要ないものです!


 って……お嬢様がお兄様になった!? さっきまでのたおやかなお嬢様はどこに!? 細マッチョなお兄様はどこから!? 早くその股間のマグナムを仕舞え!


 って、これ知ってる! 俺も持ってる! いや、マグナムじゃなくて!

 これ、いつもお世話になってる【変態】技能スキルじゃん!


 ってことは、もしかしてこいつが三男か!?

 三男は本物の【変態】持ちだった!?

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