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「……察するに、皇国はもう駄目かもしれんのじゃ」

「えっ? どういうこと?」


 今日は疲れたってのじゃロリ賢者エリザベスが言うから、野営地で一泊してから帰ることになった。さっき夕飯を食べ終えて、今は食後の団らんタイムだ。会議用の大天幕の中で優雅にティーカップを傾けている。木製のティーカップなんてものがあるんだな。

 でも飲んでいるのは紅茶じゃなくて麦茶。ティーカップで麦茶を飲むっていうのが、なんか違和感。

 天幕の中にいるのはエグジー女勇者ナオミ、エリザベスの三人だけ。お茶会兼密談ってことだな。

 給仕は俺。残念ながら、ナオミもエリザベスも家事は苦手らしい。ふたりともお貴族様のご令嬢だから仕方がない。やんごとなき御方は家事などしないのだ。ただし大魔王を除く。


「あやつとの茶会で、皇国産の高級茶葉が出てきたじゃろう?」

「ええ、美味しかったわね。この麦茶も悪くないけど」

「あれは、貴族ならともかく、平民ではまず手に入らん品じゃ。つまり、あやつの手は既に皇国貴族にまで伸びておるということじゃ」

「なるほど……ということは、やっぱり大魔王の手先、かしらね?」

「じゃろうな」


 ほほう、素晴らしい推理だ。その通り、皇国をじわりじわりと蚕食中だ。

 見た目は子供、中身も子供のロリ探偵なのに、よくその真相へ辿り着いたな。さすがは賢者だ。中身は高校生なのに大人と言い張っている嘘探偵とはひと味違う。


「となると、こちらの情報流出の元は、やっぱり皇国ってこと?」

「ふむぅ。その線もある、というところじゃろうな。漏れているのが一箇所だけとは限らんのじゃ」

「うーん、面倒な話ね」

「全くなのじゃ」


 美女と美少女がふたりして眉間にシワを寄せている。

 いかんな、かわいい顔が台無しだ。乙女には笑顔が一番似合う。二番はアヘ顔。そそるぜコレは!

 ということで、おやつ投入だ。笑顔を貴女に!


「今考えても分からないことは、情報を集めてから考えるしかないと思うぜ? 少なくとも傭兵はそうするべきって、団長からは教わったな。ほい」

「おお、その通りじゃな! 流石はハリー様、勉強になるのじゃ!」

「それもそうね。それで、これは何? 紙?」

「スライスした芋を揚げて、塩と香辛料を少々振ったものだ。俺たちはポテチって呼んでる」


 おやつの定番だよな。

 塩だけでも良かったんだけど、乾燥パセリみたいな香辛料があったから使ってみた。【調理】技能スキルが『それもアリだよね!』って感じに訴えてたから、不味くはないはず。


「ほほう、これはなかなか! パリパリとした食感が良いのう!」

「ほんと! 強すぎないお塩と香辛料もいいわね! お芋の甘みが引き立ってるわ! いくらでも食べられそうよ!」


 うむうむ、そうだろうそうだろう。【調理】先生に間違いはない。たまに失敗するだけ。

 結構な早さで大皿のポテチが減って、その分ふたりの眉間からシワが消えて笑顔になった。『美味しいは笑顔の魔法』って、誰の言葉だったっけ? プ◯キュア?


「それは良かった。けど、寝る前だからオカワリは無しだぜ? それ、食いすぎると太るからな」

「「っ!?」」


 おっと、ポテチに伸びたふたりの手が止まった。俺のスタ◯ドが発動しちまったか? ウリィイィィッ! いや、瓜じゃなくて芋だけど。

 世界が違っても、やはり女の子か。『太る』という言葉には敏感らしい。


「芋と油は体を動かす燃料になりやすいらしいんだよ。けど寝る前に食うと、消費されなかった燃料が贅肉に変わって体に溜まるんだってよ」


 そして世界は動き出す。ふたりの手がそっと膝の上に戻される。


「そ、そうよね。食べ過ぎは良くないわね。残りはリズが食べていいわよ?」

「いやいや、儂はもうお腹いっぱいなのじゃ。ここは体の大きなナオミに譲るのじゃ」

「いやいや、リズは育ち盛りなんだから、もっと食べたほうがいいわよ!」

「いやいや、ナオミは護衛で疲れておるじゃろう。消費しておるから食べても平気じゃよ!」

「いやいや」

「いやいや」


 なんかコントが始まったな? 見ていて面白いけど、ふたりの笑顔が引きつっているのはいただけない。これでふたりの友情に亀裂が入るのもどうかと思うし、助け舟を出すか。


「食いすぎたらって言っただろ? その程度の量なら平気だよ。ふたりとも明日はまた長距離移動するんだから、食った分はちゃんと消費されるさ」

「「じゃあ遠慮なく」」


 ハモった。仲良いな。俺が心配する必要は無かったか。

 今度は取り合いで友情に亀裂が入りそうだけどな。



 で、どうよロリ先輩? なんか掴めた?


「今回は進展無しですの。お互い、腹の探り合いしかできなかったですの」


 ロリのまさぐり合いか。需要は大きそうだな。是非映像化したい。


「探り合いですの。卑猥な想像を垂れ流さないでほしいですの。心が汚れるですの」


 なんだつまらん。

 まぁ、今回は顔合わせのつもりだったからな。今後への道筋を付けられただけで成果は十分だ。具体的に話を詰めるのはこれからってことで。

 けどさ、ロリ先輩はエリザベスの心を読んでたんだろ? 一方的に探れたんじゃねぇの?


「まぁ、そうですの。あちらがこちらを警戒しているってことは分かったですの。あと、アタシが貴方と繋がってるってこともバレてるみたいですの」


 ああ、うん。それは本人から聞いた。すごいよね、推理力が半端ない。賢者の称号は伊達じゃないってことか。


「まぁ、強い敵意はなかったみたいですの。だから、次回以降はもっと突っ込んだ話ができると思うんですの」


 ほーん。ならいいか。

 でもそうすると、この屋敷はもうしばらくここに建てておく必要があるな。

 まぁ、特に使う予定もないし、撤収はいつでもいいか。

 けど、馬防柵は用意しておかないとな! あのユニコーンが来ないようにな!


「けど、あのユニコーンからも敵意は感じなかったですの」


 そうだろうよ! あったのは敵意じゃなくて食欲だっただろうからな! 草食動物の恐怖は植物にしかわかんねぇんだよ! キノコにはわかんねぇよ!


 はぁ。とりあえず、次回のロリ会談はもうちょっと先になるだろうし、今日は引き上げるか。仔豚ちゃんも連れて帰らないといけないし……って、あれ?

 仔豚ちゃん? あらら? 居ないぞ? 何処行った?

 マジか!? やばい、まさか森で迷子に!? 探さないと! 親御さんに申し訳が!!


「ぷぴぃーっ! あはは、はやいはやーい!」


 んお? 森の中から仔豚ちゃんの声が? 良かった、近くに居たんだな。一時はどうなることかと。

 って、馬! お前か! 仔豚ちゃんを背に乗せて並足で!

 いや、確かに仔豚ちゃんは乙女だけども、ヒトもオークも関係なしかお前! 守備範囲広いな!


 くっ、駄目だ、近寄れない! 仔豚ちゃんは取り戻したいが、近づくと齧られる……どうすれば……。


 ブヒヒィ。


 笑った!? 今あの馬、笑ったぞ!?

 っ!? まさか、狙ったのか!? 意図して仔豚ちゃんを攫ったのか!? 俺を齧るために! 人質として!

 なんて奴だ、汚い手を使いやがって……この人でなしめ!


「ユニコーンですの」


 ロリ先輩は黙ってて!

 やはり俺と貴様は不倶戴天、ここで雌雄を決するしか!


「メスですの」


 ロリ先輩は黙ってて! もう!

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