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「エグジー、大丈夫!?」

「ああ、心配ない。ちょっと甘噛みされただけだ」


 慌てて駆け寄ってきたナオミに向けて右手をプラプラさせて見せる。ちょっと赤くなった手の甲はユニコーンのよだれで濡れている。まぁ、赤くなっているのは【形状変化】の効果なんですが。


「……良かった、大丈夫そうね。びっくりしたわ」

「ふむ。馬は親しい者の髪を噛むことがあるらしいのじゃ。これもそのたぐいかもしれん」

「好意ってことか?」

「うむ」


 いや、ガッツリ噛まれたけどな! 皮剥がれたし喰われたし! その好意は食べ物として好物って意味の好意だ!

 喰われた分の皮は【形状変化】で他から補填したから、こうやって見せられる状態に戻ってるんだぞ! 本当なら肉、いや木肌が見えて酷い状態だったんだからな!


 いや、余ってない、余ってないぞ! 皮は余ってなかった! 無理して集めて補填したんだからな! いやぁ、お陰で肌が突っ張ってしょうがないなぁ。困った困った!


 とりあえずテーブルに戻るか。紅茶を飲んで気を落ち着けよう。

 ナオミがエリザベスの護衛を放り出してきてる件については触れない。そういう細かいことに突っ込む男は紳士じゃない。


 いやユニコーン、お前なんでついてくるの? もう俺の手の皮喰っただろ? 帰れよ! まだ喰い足りないのかよ!

 なぜそこで寝転ぶ? っていうか、視線が俺から外れないんだけど? あれか? 餌認定か? いつでもおかわり行けるようにか!?


「ほほう? 馬が無防備に寝転ぶのは、信頼できる仲間が居るときだけじゃと聞いたことがある。お主、相当気に入られたようじゃな」


 嬉しくねぇーっ! そいつ、絶対俺を餌として気に入っただけだよ! 仲間じゃねぇ、捕食者だよ!

 大体、他のユニコーンはどうした? 仲間っていうならそいつらだろう! 俺は馬じゃねぇ、豆だ!


「……そのユニコーンはハグレですの。群れには属していないんですの」

「ほう?」

「仲間と生き別れたか死に別れたか、それは分からないですの。でも、この森に来た時から、そいつは一頭だけだったですの」

「ふむ」


 うっ、ぐぬぅ。

 あの盆地大旱魃から逃げてきたんだとしたら、それは相当な困難だったろう。あの草一本生えていない山脈を越えてきたってことだからな。草食動物には過酷な旅だったはずだ。

 その困難に耐えきれなかった仲間はきっと……こいつは最後の生き残りってことか。

 もしかしたら、俺から故郷の盆地の匂いを嗅ぎ取ったのかもしれんな。それが懐かしくて俺に近づいてきたのかも。

 くそっ、そんなこと知ってしまったら無下にできないじゃないか! いずれ馬刺しにして食い返してやろうかと思ってたのに! もう無理、老衰で果てるまで見守るしかないじゃん! 最後の一頭ならば!


「まぁ、他にも群れがいるから、いずれ合流すると思うですの。馬は一頭じゃ生きられないですの」


 まだおるんかーい!



「ということで、また来るといいですの。森に入ればアタシには分かるですの」

「承知したのじゃ。次の機会には答えが出ることを望むのじゃ」

「ええ、アタシも早くこの件は解決してほしいですの」


 第一回ロリ会議は滞りなく……滞り……滞りなく終了した! そういうことにしておこう! 馬、まだ俺を見てるけど!

 まぁ、こんな問題が一回で解決するなんて思ってなかったし、ロリ会議は何回あってもいいと思うし。次は馬防柵作っとくし!

 ロリ同士は、それなりに仲良くなったと思う(大魔王フィルタ再び)。

 片方は偽ロリだけど、見た目がロリならそれでいい。視覚からの情報は全情報の八割って言うから、見た目がロリなら八割ロリってことだ。


「そうそう、手ぶらで帰らせるのは不本意ですの。森の出口に土産を置いておいたから持って帰るといいですの」

「ほう、土産とな?」

「ええ、最初に言った通り、この森の土は出せないですの。でも、代わりになる肥料を用意したですの。少しの量で大きな効果があるですの。農業に詳しい人に聞いてから使うといいですの」

「おお、それは助かるのじゃ!」


 はい。ぶっちゃけ化学肥料です。俺が【錬金術】で作りました。窒素、リン、カリウムをバランスよく配合したマルチな肥料です。

 農業に詳しい人ってくだりで、ふたりが俺をちらりと見たな。うん、俺が担当なのね? まぁ、やるけどさ。俺と俺の眷属のご飯でもあるし。

 けど俺、護衛の傭兵って立場でここにいるはずなんだけどなぁ? 傭兵って何?


 この肥料、実はロリ先輩の胞子も混じってたりする。畑に撒いたら、いずれそこもロリ先輩のテリトリーになるって寸法だ。ロリ先輩の株分けだな。ロリ先輩二号。

 まぁ、栽培される芋も麦も俺の眷属だから、そこまでする必要はないような気もする。けど、念には念をだ。

 芋と麦は栽培されないと領域が広がらないけど、キノコの胞子は風で拡散できるからな。いずれ王国中にロリ先輩が溢れることになるかも? ロリ王国だ。


 こうして着実に王国内での勢力を広げていく……人知れず、じんわりと。そして、気がついたときには……にやり。

 ふはははっ! 完璧、完璧なシナリオじゃないか! 自分の深謀遠慮に惚れ惚れするね! 策士が策に溺れちゃうね! 蘇生はマウスツーマウスでお願いします! ただし美女美少女限定!


「それで、あのアマニータっていうのはどうだったの?」


 帰りの道中でナオミがエリザベスに訊く。うむ、俺も気になる。どう、お友達になれそう?


「油断ならん相手なのじゃ。あやつ、おそらく大魔王ボン=チキングと繋がっておるのじゃ」

「えっ、本当に!?」

「マジかよ!」


 どこでバレた!? さすが賢者、見破られるとは!

 っていうか、ロリ先輩とは仲良くなれてない? ロリ会談失敗か?

 あ、仲良くなるのが目的じゃなかったな。


「うむ。おそらく、向こうも本気で隠すつもりはないのじゃろう。それとなく匂わせて、こちらを牽制しておったのじゃ」


 マジか? ロリ先輩、そんな高度なことしてたの? 駆け引きってやつ?

 気づかなかったな。ってか、聞いてなかっただけだけど。


「だとしたら、これ以上付き合うのは危険かしら? 取り込まれるかもしれないわね」

「いや、少なくとも積極的に敵対する気は無さそうだったのじゃ。どうやら、あちらも本気で大陸崩壊の危機を回避したいようじゃな」


 まぁねー。せっかく転生したのに、惑星崩壊してバッドエンドじゃ意味がない。なんとかハッピーエンドに持っていかないと。ハーレムエンドでも可!


「だったら、もうしばらくはこの森へ通うことになりそうね」

「うむ、仕方ないのじゃ。おっ、アレがアマニータの言うておった肥料じゃな?」


 細い獣道の途中に、土のうみたいな麻袋が山積みされている。

 はいその通り、肥料でございます。別の苗木ちゃんを使ってここへ運び込みました。

 前日にキャンプした場所からは二キロくらいかな? もうちょっと近くても良かったかも。だって、


「ではエグジー、頼んだのじゃ」

「そうね。アタシは念のために周囲を警戒しなきゃいけないし。任せたわ」

「はいはい、了解だ」


 な? 俺が運ぶことになるんだよ。

 亜空間使えば楽に運べるんだけど、アレはハリーの技能スキルって事になってるから、俺が使うわけにはいかない。

 だから地道にハンドキャリーだ。結構重いんだよな、これ。一袋二十キロくらい? それが三十個ある。くぅ、萎えるぜ。


「重かったら、ほれ、あの付いて来ておるユニコーンに頼めばいいじゃろう」

「そうね。かなり懐かれてるみたいだし、頼めば運んでくれるんじゃない?」


 なんかナオミの発言に角がある気がする。焼き餅か? モテる男はつらいぜ。

 ちらっと後ろを見ると、確かにあのユニコーンが付いて来ている。

 っていうか、あれは餌を求めてるだけだと思う。そういう艶っぽい感情は無いんじゃないか? 目がマジだし。

 けど、この大荷物を運ぶのを手伝ってもらえるなら……って、逃げやがった! 働く気無しか! 食い逃げか!

 くそっ、あのメス馬め! いつかサクラ鍋にしてやるからな!

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