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 どういうことじゃ!? どうしてここまで儂らの情報が魔物に漏れておる!?

 確かに、大魔王の配下が王国に入り込んでおるやも、という懸念はあった。【変態】技能スキルでヒトになりすまして潜入しておるやもしれんとな。

 それに、エグジーの言うておった【千里眼】という技能。それで覗き見されておるかもという可能性もじゃな。

 無論、その両方ということも考えられる。

 ともかく、大魔王には儂らの内情がある程度漏れておるやもという懸念はあった。そして、それはおそらく正しいじゃろう。

 そこまでは予想の範囲内じゃ。

 じゃがしかし、何故この魔物……魔物じゃよな? 見た目通りの小娘ではあるまい?

 その魔物に、何故儂らのことが知られておるのじゃ? もしや此奴こやつ、大魔王の仲間か!?

 いや、この口ぶりでは仲間ではないようじゃが……いやいや、そう見せかけて実は仲間ということも……むう、判断材料が足りんのじゃ。


 はっ!? この紅茶! 皇国産の高級茶葉! もしや皇国が!?

 あり得なくはないのじゃ。あの国の貴族は腐っておるからの。金さえ積めば魔物だろうと大魔王であろうと、手を組むことは十分に考えられるのじゃ。

 むう、やはり皇国は信用できんのじゃ。


 いや待て、落ち着くのじゃ。証拠はない。断定するのは危ういのじゃ。

 全ての糸を大魔王が裏で操っている可能性もある。王国と皇国を仲違いさせるためにの。

 既に教国とは袂を分かっておるのじゃから、これ以上の……っ! まさか、それも大魔王の策略か⁉

 敵対する勢力を策で分断するのは兵法の初歩じゃ。あり得なくはない。

 だとしたら、だとしたら、既に儂らは奴の術中にあるということか⁉

 いつから? どこまで?

 なんという策略、なんという深謀遠慮!

 大魔王ボン=チキング……恐るべし!


 じゃとすれば、この小娘も大魔王の仲間と考えたほうが良さそうじゃな。

 油断はできん。気合を入れねばの!

 表面上は友好的じゃが、どこまで本気か分からん。

 こちらの握る情報を無条件に垂れ流すのは危ういじゃろう。世界の命運と、どこまで秤に掛けるか。綱渡りじゃな。

 こういうやり取りにナオミは向いておらん。儂がやるしかあるまい。


 やれやれ、厳しい話し合いになりそうじゃな。



 あー、暇。

 ロリ美少女がキャッキャウフフしている(大魔王フィルタあり)のを見るのは癒やされるけど、話を聞いてるだけっていうのは暇すぎて眠たくなっちゃうよね。始業式の校長のお話を思い出すなぁ。嘘です校長の話なんて欠片も覚えてません思い出せません!

 でもロリトークに男が混じるのは法律違反だし(大魔王憲法)、見てるしかないんだよねー。

 いや、聞いてるよ? ちゃんとエグジー、ロキシー、テーブル擬態の苗木ちゃんの三人体制で聞いてる。右から左に抜けてるけど、抜けたのを他の二人で拾ってるから問題ない。拾ったのがまた抜けて、永遠のパス回しになってるけど問題ない。後でロリ先輩に聞き直せばいいんだし。


『他人事みたいに考えてないで、ちゃんと聞いていなさい! ですの!』


 あっ、はい。

 またロリ先輩に怒られた。おかしいなぁ、俺が上位者のはずなのに。

 一度【眷属化】についてじっくり調べたほうがいいかもな。

 ヤギママに囓られる理由が分かるかもしれないし。あれは食欲か。


 女勇者ナオミは……真面目に聞いてるな。しかもロリ先輩とロキシーを警戒しながら。器用だな。

 大丈夫だよ、ロリ先輩は闇魔法でヒトを狂わせるだけの毒キノコ魔王だし、ロキシーはブタの尻を叩くだけの調教大魔王だから。

 何も大丈夫な要素がないな。むしろ不安しかない。身の危険がレッドゾーンだ。

 まぁ、知らなければ問題ないだろう。知ってしまうから不安になるのだ。

 知る権利より知らない幸せ。皆で幸せに、無知になろうぜ! 鞭ならお任せ!


 おん? なんだこの気配? 何かがこっちに近付いてくる。

 狼たちじゃないし、鹿共でもない。もちろんヒトでもない。初めての気配だな。


「どうしたのエグジー?」

「何かがこっちに来る。ヒトじゃない」

「「「っ!!」」」


 皆でビックリ。【気配察知】持ちは俺だけだからな。気付かなかったのも無理はない。


「心配いらない。俺が対処する」

「アタシも」

「いや、ナオミはここを。エリザベスを頼む」

「っ! 分かったわ。気を付けてね」

「ああ」


 このロリ会談は、なんとしても成功させねばならん。無粋な乱入者は排除だ。

 イエスロリータ、ノータッチ! ロリは見るだけ愛でるだけ!

 いや、本物のロリはのじゃロリ賢者エリザベスしかいないんだけどな。あとは偽ロリ。

 だから最優先で守るのはエリザベスだ。頼むよナオミ。っていうか、他の偽ロリは自力でなんとかできるから放っておいてよし!


 さて、何が来てるのか……おっ、見えた。馬? 白馬か。王子様は乗ってないな。

 いや! コイツ、馬じゃねぇ! 角が生えてる!

 ユニコーンか! 処女厨が現れた⁉

 なるほど、確かに今ここには乙女がつどっている。乙女香に誘われてきたか。

 だが残念だったな、本物の乙女はふたりだけだ! 残りのふたりはそれっぽく見せているだけの偽物に過ぎん!

 いや、ロキシーとロリ先輩も経験がないっていう点では乙女と言ってもいいのか? 授粉は経験に含まれる? 難しいな。


「ほほう、何かと思えばユニコーンとは。まだ生き残りがおったのじゃな」

「二〜三年前にどこからかやってきて住み着いたんですの。生き物の気配に敏感で、こんなに近くまで来るのは珍しいですの」


 ほう? なんだか覚えのある話だな? 確か、転生したての頃に移動していく角の生えた馬の群れを見たような気がする。あいつらのうちの一頭か?

 盆地じゃ見かけなくなったから何処へ行ったのかと思ってたら、こんなところにいたんだな。

 気配に敏感ってことは、【気配察知】かそれに類する技能を持ってるんだろう。

 ああ、それで俺とは出会わなかったのか。森の中では常にワンコたちと一緒だったからな。今も苗木ちゃんと一緒にお昼寝してるし。


「こいつ、危険はないのか? 敵意は感じないけどよ」

「大丈夫じゃないかしら? ヒトを襲ったって話は聞いたことがないわ」

「そうじゃな。逆にヒトを助けたという話はいくつかあるのじゃ。森で迷った乙女を背に乗せて人里まで連れて帰ったとかの」


 それ、乙女だったからですね。背中に乗せてお尻の感触を堪能していただけですね。なんとウラヤマケシカラン!


「アタシも襲われたことはないですの。放っておいても害はないですの」


 ふーん、ロリ先輩も乙女判定なのか。いや、キノコは喰わないってだけか。馬だしな。

 なら、まぁいいか。槍を向けるのはやめておいてやろう。人騒がせな奴め。

 うん? なんだ? 何故こっちに寄ってくる? 俺は男だぞ? 乙女でも乙男オトメンでもないぞ?


「あら、興味を持たれたみたいね?」

「ふむ。ユニコーン自体が珍しい魔物な上に、男に興味を持ったという話は聞いたことがないのじゃ。不思議な事もあるものじゃな」


 

 ふむぅ、この世界のユニコーンも処女厨らしいけど、実は男もイケる口か?

 このユニコーンはメスなのかもしれんな。エグジーはイケメンだから、牝馬ならタラシこめてもおかしくない。

 やれやれ、モテる男はツラいね。

 それじゃ首筋でも撫でて……


 ガブゥッ!


「痛ぇっ⁉」

「「エグジー⁉」」


 コイツ、噛みつきやがった⁉


 モシャモシャ。


 喰ってる、喰ってるよ! 俺の手の皮、喰ってる!

 知ってる! この流れ、覚えがあるよ!


 ――ユニコーン・ブランカ(メス・三歳)を眷属にしました。


 ほらな⁉ そんな事だと思ったよこん畜生!

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