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 テーブルに用意された椅子に座る。

 ロリ先輩アマニータの右側に俺、左側に女勇者ナオミ、正面がのじゃロリ賢者エリザベスだ。ロリ会談ポジション完成。


「まずは自己紹介ですの。アタシはアマニータ。この森を管理している者ですの」


 うむ。俺は支配領域が欲しかっただけだからな。管理運営はロリ先輩に丸投げだ。

 これでナオミとエリザベスはロリ先輩を領域支配者エリアボスだと認識しただろう。領域支配者と管理者が違うだなんて、普通は思わないだろうからな。常識の盲点を突いた奇策だ。フハハハ! まぁ、誰得な策だよってツッコミは歓迎する。


「これはご丁寧に。儂はエリザベス、賢者を名乗らせてもらっておる者じゃ」

「アタシはナオミ。勇者よ」

「エグジー。傭兵だ」


 簡単に全員が自己紹介を終える。でもひとりだけ嘘つきが混じってます。誰でしょう?


「そう。ではまず、貴女たちにひとつ言っておかなければならないことがあるんですの」


 んあ? 自己紹介が終わった途端、おもむろにロリ先輩が切り出した。これは予定になかったぞ? アドリブか?


「ほう? なんなのじゃ?」


 エリザベスの肝は、本当に据わってるな。ロリにしておくのが惜しいくらいだ。

 いや、このギャップがいいのかもな。ロリロリしているだけのロリはただのロリだ。

 おっと、ロリロリしているロリ先輩に睨まれた。余計なことは考えないようにしよう。無心だ、無心。


「では言わせてもらうですの。他人の家にお邪魔するときには『ごめんください』とか『こんにちわ』と声を掛けるべきですの。社会の常識ですの」


 ロリ先輩(魔物)に常識を諭された!? いや、確かに言ってなかったけどさ!

 っていうか、ここって俺の持ち家だからな。常識で言うとしたら『ただいま』だ。流石にそれは、ナオミとエリザベスの前では言えない。

 しかし失敗したな。ロリ先輩の言う通りだ。紳士たるもの『大将、やってる?』くらいは言うべきだった。

 あ、また睨まれた。無心無心。


「確かに、これは失礼したのじゃ。ヒト・・がいるとは思わなんだのじゃ」


 エリザベスが地味な嫌味を込めた反論をしている。ヒトの社会の常識だからな。ヒトが居ないなら必要ないだろうってことだよな。

 うん、正解。この館にヒトはいなかった。人外ばかり。君たちが初めてのヒトだ。


「まぁいいですの。遠路はるばる王国から来たお客様ですの。おもてなしするですの」


 おっと、ロリ先輩もチクリと反撃だ。さりげなく『お前たちがどこから来たか知っているぞ』と匂わせた。微香性。

 エリザベスの眉がピクリと動いたのを俺は見逃さない。ロリ観察中。事案スレスレだけど、カメラを持ってないからセーフ。

 ナオミは気付かなかったみたいだな。表情が変わらない。駄目だよ、こういう女の戦いにも慣れておかないと。


 ロリ先輩が目配せをすると、屋敷の方からカチャカチャという音が近づいてきた。

 そちらへ目を向けると……まぁ、なんということでしょう!


「ぷぴ、ぷぴ、ぴぃ」


 そこには、メイド服を着た幼い仔豚ちゃんオークがいるではありませんか!

 カップやティーポットの乗ったトレイを、落とさないように両手で持って運んでいます。なんと愛らしいことでしょう!


「ッ! オ、オーク!?」

「待てナオミ! アレはまだ幼生だ!」


 腰を浮かしかけたナオミを言葉で押し止める。大丈夫、あれは無害だ。むしろ有益だ。いや、至宝だ。めっちゃ癒やされる。


「んしょ、んしょ、ぷぴっ」


 危なっかしい足取りでテーブルに向かってくる。顔つきがめちゃめちゃ真剣だ。頑張ってお手伝いしているのが伝わってくる。頑張れ!

 仔豚ちゃんが危なっかしい手つきで俺、エリザベス、ナオミの前にカップを並べる。うう、ハラハラする!


「ぷぴぃ。どうじょ、ごゆっくい!」


 ひと仕事終えた仔豚ちゃんが満面の笑顔で言い、トテトテと屋敷の方へ走って帰って行く。おしりがプリプリだ。可愛いのう。ちょっとスズキさんの気持ちが分かったかもしれない。

 全員がほぉっとため息を吐く。いやぁ、緊張したな。


ごウ」

「「っ!?」」


 仔豚ちゃんを見送っていたナオミとエリザベスの間に、いつの間にかもう一人のロリメイドが!

 って、ロキシーなんだけど。今日のために出張してきた。決してブタ共の世話から逃げてきたわけではない。奴隷子ちゃんに押し付けてきてなどいない。アレは修行だ。

 ナオミとエリザベスは相当驚いたようだ。言葉もなく硬直している。声を掛けられるまで全く気付かなかったらしい。【隠密】全開だったからな。コレが本気の殺し合いなら、何もできずに暗殺されていたってことだ。さもありなん。


 ぶっきらぼうな言葉遣いとは裏腹の、洗練された動作でお茶を注ぐロキシー。見た目は完璧な美少女メイドだ。普段はブタの尻を叩いてるとは想像できまい。俺も思い出したくない。


「ごゆっくリ」


 全員にお茶を注ぎ終えたロキシーが、優雅な動作でロリ先輩の後方に下がって控える。

 テーブルの上には、薄っすらと白い湯気を上げるティーカップ。そして、いつの間にかクッキーの盛られた大皿も置かれている。


 どうだ!

 ロリ会談ということで、俺も手持ちのロリカードを切ってみたぞ! スズキさんも大満足だろう!

 まだブタ領主のところの奴隷子ちゃんとキキもいるけど、奴隷子ちゃんはブタ共の調教で忙しいし、キキはまだ赤ちゃんだから不参加だ。

 盆地のお嬢ちゃんマナとクリスは、ロリと言うにはちょっと大きすぎるかなと思って外させてもらった。あの娘たちは普通に美少女だからな。片方は男だけど。


 愛らしい小さなお花の咲き誇る楽園、秘密のロリ園を目指してみた……んだけど、ナオミとエリザベスにはあんまり受けなかったっぽい。額に汗を掻いて、まだ固まっている。ちょっとやりすぎたか?


「どうぞお召し上がりくださいですの。毒なんか入ってませんですの」


 ロリ先輩が優雅な動作で自分のカップを傾ける。けどそれ、幻だよね? 【幻術】で飲んでるように見せてるだけだよね?

 しょうがないから、俺が自分の前に置かれたカップを口元へ運ぶ。

 うん、いい香りだ。味も悪くない。口の中に紅茶の芳醇な香りと渋みが広がり、ほのかに爽やかなハーブ系の香りが混じる。いいお茶だ。

 なにせ、シャリムのところから頂いてきた高級茶葉だからな。

 先代領主がグルメだったらしいから、シャリムの領地は食べ物のレベルがかなり高い。その中から厳選された良いお茶をもらってきた。

 ナオミとエリザベスに頷いてみせる。毒は入ってないっていうアピールだ。もちろん最初から入れてない。そんな必要ないし。

 まぁ、入ってたとしても、俺には【毒耐性】があるから無意味なんだけどな。毒見役には致命的に向いてない。


 俺が頷いたのを見て、ようやくふたりも緊張が解けたらしい。眼の前に置かれたカップを口元へ運び、一口含んで目を見開き、嚥下してホッと息を吐く。うむ、緊張はほぐれたみたいだな。


「これは皇国のエルブランコ茶葉じゃな……美味なのじゃ」

「お気に召していただけて光栄ですの。わざわざ取り寄せた甲斐があったですの」


 そういう名前なのか? 俺はよく知らんのだよな。シャリムに『美味い茶葉が欲しい』って言ったら出してくれたものだから。

 っていうか、お前が取り寄せたんじゃねぇだろ。準備したのは全部俺だ。まぁ、今はそういう設定だから良いけど。あんまり調子に乗ってると『妄想百裂拳』だからな?


「さ、さて、それでは本日の御用向きを伺うですの。と言っても、おおよそは既に存じているですの」

「えっ?」

「ほう? ならば、早速返答を伺うとするのじゃ」


 ナオミはびっくりした顔をしているけど、エリザベスは表情を崩さない。まったく、どっちが年上だか分からんな。

 ともあれ、ようやく本題だ。ここからが本番。今までは茶番。お茶が美味い。


「まず、森の土の持ち出しは断るですの」

「そんなっ!」

「むぅ、なぜなのじゃ?」

「対価が提示されていないからですの。ただで持っていけると思わないでほしいですの」


 これは最初からロリ先輩と決めていた。

 人の欲は無限だからな。ただでもらえるとなれば、根こそぎ持っていかれるのは目に見えている。対価、あるいは代償が必要だ。

 それに、森の土イコールロリ先輩の身体だ。正確には、ロリ先輩の身体を維持するための栄養だ。削られて良しとするわけにはいかない。


「むう……それは、確かにその通りなのじゃ。持ち帰って、対価を検討するのじゃ」

「リズ、でもっ!」

「ナオミ、ここは任せて欲しいのじゃ」

「っ! ……分かったわ」


 魔物と取り引きをするというのが、ナオミの中で引っかかっているっぽいな。けど、それは今後も必要になってくるんだよ? だって、大魔王と交渉するんだからね。


「それではふたつめですの。砂漠を迂回するのでしたら、この森の外縁なら通ってもいいですの。水を汲んだり枯れ枝を拾うくらいは許すですの。ただし、木を伐るのは許さないですの。その時は覚悟するですの」

「そうか、承知したのじゃ」


 エリザベスが安堵の表情を浮かべる。これが最大の懸案事項だったからな。盆地への旅程が現実的になってきた。


「……大魔王はとんでもない力を持っているですの。くれぐれも気を付けるですの。でないと、気付いたときには手遅れになっているですの」

「っ!? 大魔王のこと、何か知っているの!? お願い、教えて!」


 おおっと、ナオミが椅子を蹴倒してロリ先輩に迫る! こういう大小の対決も良いな。何の大小なのかは、あえて言及しない。


「詳しくは知らないですの。けど、あの大魔王が異常で規格外であることだけは確かですの。何を考えているのかさっぱり分からないですの」

「そんな……それほどなの?」


 言ってる方と聞いてる方で、意味に大きな乖離があるような気がするのは気のせいか? 深刻度の違いかな? とりあえず、ロリ先輩とは後でゆっくりお話しないといけないな。俺のことを分からせてやろう。


「さて、それでは最後の話ですの」

「む? 儂らはもう話すことはないのじゃが?」

「あるはずですの。アタシにも、貴女たちにとっても最重要の話があるはずですの」

「最重要……というと、もしやアレか!」

「そう、世界の崩壊についての話ですの」


 ようやくだ。ようやくここまで来た。本当に長かった。ようやく目的地に辿り着いた!

 いや、違うな。そうじゃない。まだだ。まだ今はこう言うべきだろう。


 始まったな。

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