100万PV記念SS:紳士の子育て日誌1

短いです。

本編とはほぼ絡まない話です。


――――


「ほら、パパって言ってごらん。パ、パ」

「……」


 なんでそんな不思議そうな顔をするんだいキキ?


 おかしいなぁ、もうそろそろ喋ってもいいんだけどな?

 いや、普通の赤ちゃんならまだ喋れる歳じゃないんだろうけど、キキはもう一歳児以上の大きさになってるからな。【成長促進】の効果だ。

 転生前の甥っ子は、このくらいの大きさのときは『おいちゃ』とか『しっこ』とか言ってた気がするんだけどな?

 もう歯は生え揃ってるし知能もそれなりにあるから、もう言葉を喋り始めてもおかしくないんだけどなぁ。

 なのにキキは、最近は『うー』や『だー』すら言わない。ずっと黙ったままだ。寡黙系キャラなのか?

 うーん、俺がキャラ作りで寡黙系オジサマハリーを演じていたせいか? もっとペラペラ喋るキャラのほうが良かったか?

 いや、英国紳士は寡黙なほうがかっこいい。言葉は少なく、包容力と経済力は豊かに。それが紳士というものだ。

 あ、経済力は無いな。溜め込んだ貴金属を売って換金しておこう。


 それはさておき、キキの発語だ。何も話さないのはちょっと、いやかなり心配になる。

 もしかして何かの病気か?

 いや、【病気耐性】があるから、滅多なことじゃ病気にはならないはず。遺伝病ですら直してしまうからな。

 だとすれば、やはり環境によるものか? コミュニケーション不足?

 そういや、子供に構いすぎるのも発語が遅れる原因って聞いたな。お世話しすぎると、必要がないから要求を口に出さなくなるんだとか。

 うん、多分それだな!

 うちの子は可愛すぎるから(自社比)、ついつい構ってしまうんだよな。オムツも泣く前に交換しちゃうし、お腹を空かせる前にご飯をあげちゃうし。それが良くなかったのかもしれん。

 まぁ、今更それを変えるのもどうかと思うから、ここはやはりコミュニケーションだろう。沢山話しかけて発話を促すのだ!


「パパはな、共産主義を否定するつもりはないが、自由競争のない市場に健全な成長はないと思うんだ」


 いやいや、赤ちゃんとする話じゃねぇよな? キョトンとしてるじゃん。可愛い。

 ちょっと英国紳士的な知性を前面に出しすぎたか。政治経済はまだ早いよな。


「アイドルは推せるときに推せというが、パパはずっとキキ推しだからな? ほら、『キキ無限恒久永遠推し!!!』ピンズだ」


 待て待て、そもそもアイドルも推しも分からねぇっての。まだ歌も踊りもできないし、今はまだ子役だ。ってか、デビューもしてねぇよ。

 ピンズは家事の合間に作ってみた。鍛冶聖ギーも、まさか安全ピンを作らされるとは思わなかっただろう。いや、珍しがって嬉々として作ってたけど。


 ふむ、アイドル……歌と踊りか。発語を促すキッカケとしてはアリだな。楽しい気分になれば自然と声が出るだろうからな。グルーヴでヒートしてシャウトしちゃうに違いない。

 よし、分かった!

 つまり、俺が歌って踊れるアイドル紳士になればいいのだ! 金輪際現れない一番星になれば良いのだ!

 そして武道館だ! ドームだ! レコ大だ! グラミーだ!!


「キキ、パパは頑張るからな。一緒にレッドカーペットを歩こうな」


 よし! そうと決まれば、まずは武道館の建設からだ! スモウレスラーが百人乗っても大丈夫なくらい立派なのを建てるぜ!


 おや? なんでそんな残念そうな顔をするんだいキキ?

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