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「……おかしいわね」
笑っちゃう? そっちの『可笑しい』じゃないか。状況的に『変だ』のほうのおかしいだよな。
ふむ、そろそろ気付いたっぽい?
ちょっとお腹が空いてきたなー、森の中は陽が当たらないんだよなーとか思い始めた頃に、ナオミがポツリと呟いた。
朝から森に入って、今はお昼前くらい。もう三時間くらい歩いたかな? 先頭は俺で、その後ろに
いや、
「静かすぎるのじゃ。話に聞く『囁きの森』とは思えんのじゃ」
ナオミのつぶやきにエリザベスが言葉を返す。エリザベスも気付いたかな? ロリセンサーが反応したか?
うん、ふたりとも正解! ロリ先輩に頼んで、ちょっとした仕掛けを仕込ませてもらった。
でも残念、ちょっと気付くのが遅かったね。もう完全にこっちの術中なんだよ。
「っ! ナオミ、エリザベス! 後続の兵士たちがいない!」
「えっ!? いつの間に!?」
「なっ!? やられたのじゃ! 気を付けるのじゃ、何か仕掛けられておるのじゃ!」
足を止めて三人で集まる。互いに背中を預けて、言葉を発することなく周囲を見回す。
でも、一番背中を預けちゃいけない奴がひとり混じってるんだよねー。
ああ、遠くで小鳥が鳴いてるな。名前は知らないけど、アレは俺の天敵である虫を食べてくれるかわいいやつだ。見た目は雀っぽい地味なやつだけど、鳴き声もかわいい。
二人は緊張してるけど、俺だけホッコリ。癒されるわぁ。
「……何も起きないわね?」
「妙じゃな? ただ
「いや、それはないだろう。何かを仕掛けられているのは間違いない。その目的と手段は分からないけどな。ナオミ、エリザベス、俺から離れるなよ?」
「分かったのじゃ」
「ええ、頼りにしてるわ」
頼れる男を演出してみる。まぁ、自作自演なんですけど!
でも、小さい劇団ってそうだよね? 自分たちで脚本書いて演出して舞台で演じるんだから。全公演が自作自演。衣装だって舞台装置だって作っちゃう。
だから、立ち上がったばかりの弱小劇団『大魔王座』が自作自演なのも仕方がない。今は地方巡業でも、夢は大きく、目指せブロードウェイだ! 中野の。あ、なくなったんだっけ?
『意味不明のくだらない思考を送ってないで、早くお客を連れてきてほしいですの』
あーはいはい。ロリ先輩に怒られちゃったよ。ロリプンプンだ。
しょうがない、お仕事しますかね。弱小劇団の座長は辛いよ。
「多分、幻惑系の
「最初からってこと!? 全然気付かなかったわ。でも、いったい誰が?」
「この森の
彼を知り己を知れば、百戦
『孫子』だな。ヲタクなので覚えてます。『七大罪』とか『神曲』の一節とかも少々。ヲタクなので。カッコいい一節は必修科目です。
王国サイドからすると、今は相手のことが分からない『一勝一負』状態だな。
俺は全部知ってるんですけどね! だから百戦百勝、俺の一人勝ち!
「ここで立ち止まっていてもしょうがない。森の外へ出よう。幸い、太陽の方向は分かる。アレを頼りに歩いていけば、森の外へ出られるはずだ」
「うむぅ、太陽まで幻術で見せられていたらどうにもならんが……仕方ない、今はそうするしかないのじゃ」
おっ、流石賢者、鋭い!
実はその通り。今俺たちが見ている太陽は、ロリ先輩の作った幻だったりする。つまり、更に森の奥へ引き込まれるって寸法だ。
さぁ、おじさんと一緒に暗い方へ行こうね。ぐふふふ。
あー、お腹すいた。陽の光を浴びたい。
◇
「こ、これは?」
「なんと! まさかこんなところに、こんな立派な屋敷があるとは……」
更に森の奥へ引き込むこと一時間ほど。俺たちの眼の前に現れたのは、広く拓けた空間とその中央に建つ大きな屋敷だった。はぁ、やっと本物のお日様の光が浴びられる。
はい、この家は私が建てました!
正確には、地下都市にあったお屋敷を修繕改築して移築したんだけど。手の空いてる分身総出でトンカントンカンビシャンビシャンしました。実はビシャンがお気に入り。
「まさか、コレも幻術だったりしねえよな?」
「わからんのじゃ。しかし、誘われておるのは間違いないようなのじゃ。ほれ」
エリザベスが顎で示した先では、正面玄関の大きな扉がひとりでにゆっくりと開いていた。なかなかにホラー、あるいはファンタジーな現象だ。
実はあの扉、俺の分身の擬態なんだよねー。建具の蝶番付近に張り付いてます。他にも数体が擬態して張り付いてるから、あちこちで自動ドア的に開け締めできちゃいます。
まぁ、今回だけだけどな。今回の会合が上手くいったらもう用無しだから、屋敷ごと撤収しちゃうつもり。
期間限定イベントだから、こころゆくまで楽しんでね!
「罠かしら?」
「かもな。けど、罠にしてはちょっと迂遠に過ぎる気がしないか? 幻術が使えるなら、もっと単純に『道があるように見せかけた崖に誘い込む』とかでいいような気がするんだよな」
「確かにそうなのじゃ。じゃとすれば……やはりこれは何かの誘いかもしれんのじゃ」
「誘い?」
「うむ。相手は、おそらくはこの森の領域支配者だと思うんじゃが、儂らに何かを伝えたい、あるいは仲間にしたいという思惑があるように見えるのじゃ」
「領域支配者、魔物がアタシたちを仲間に!?」
「別におかしなことではないのじゃ。儂らも大魔王との同盟を考えておるのじゃからな」
「それはっ! ……そうね」
おおー、流石のじゃロリ賢者。伊達にロリロリしてないな。ほぼ正解だ。こっちの意図を的確に見抜いてる。
「なら、誘いに乗りましょう。リズ、アタシから離れないでね?」
「うむ」
「エグジー」
「おう」
「頼りにしてるわ。アタシたちを守ってね?」
「おう、任せろ!」
ナオミからの信頼はマックスだな。ジェームズ君やイーサン君のように、優れたエージェントは女の心を奪ってしまうものらしい。ふっ、罪なことだ。
大丈夫、別に取って喰おうってわけじゃないから。ちょっと世界平和のためにお話してもらうだけだから。
そう、ここからだ! このミッションはここからが本番なのだ!
ここが世界の運命の分かれ目なのだ!
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