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国が絡んだ案件に時間がかかるのは、異世界だろうと元の世界だろうと同じらしい。『囁きの森』へ来るまでに一ヶ月もかかってしまった。
しかも二十数名という大所帯。荷馬車もゾロゾロ着いてきてるし。どうしてお役所というところは、物事を大げさにしてしまうのか?
まぁ、悪いことばかりじゃないけどさ。おかげでこっちもお迎えの準備ができたし。
「むむむ……あれが囁きの森……皆の者、くれぐれも気をつけるのじゃ! 何かおかしいと感じたら、直ぐに退却するのじゃぞ!」
「「「ハハッ!」」」
隊列の先頭を歩く
こうして見ると、ちゃんとした賢者なんだよな。中身がポンコツだとは思えない。
いや、実際はまだ成人してない少女だった。ポンコツじゃなくて未熟。なら、少々足りないところがあっても仕方がない。特に胸とか。大丈夫、君の冒険はまだこれからだ!
「……不気味ね。あそこから土を持って帰るだけでいいのに、とても難しいことのような気がするわ」
「森に入る前から飲まれてはいかんのじゃナオミ。今回は調査のみ。危険は極力避けて、できることだけをすればいいのじゃ」
隣で馬を歩かせている俺と、背中に張り付いているエリザベスにしか聞こえないくらいの小声でナオミがこぼして、それをエリザベスが窘める。言葉だけを聞いてると、どっちが年上か分からんな。
まぁ、まだナオミも若いし、勇者だからといって、いつも勇猛果敢である必要もない。若さに任せて猪突猛進するだけのバカよりはマシだろう。
「よし、今日は森へは入らずにこの辺りで野営するのじゃ! 日が暮れるまではまだ時間があるのじゃ! 焦らず作業を進めるのじゃ!」
「「「ハハッ!」」」
エリザベスの号令で、兵士たちが一斉に動き出す。
馬車の荷台から荷物を引き出して天幕を張る者、馬からハーネスを外して休ませる者、食事の前準備として簡易な竈を作り始める者。
いちいち指示を与えなくても、各自がやるべきことを自分で判断して動いている。皆有能だな。
いいね! そんな感じで俺に楽をさせてくれ。私は勤勉という言葉が大好きです! ただし自分が対象の場合を除く!
そして、私は怠惰という言葉が大好きです! ただし自分が対象の場合に限る! さぁ、仕事をしてるフリしてサボるか!
「それでは賢者様、勇者様。私は周囲の警戒をしてまいります」
フリーになればこっちのものだ! 誰の目にも触れないから、サボってても見つからない! 完璧!
「ああ、待ってエグジー、アタシも行くわ。リズ、ここはお願いね」
「やれやれ、仕方ないのじゃ。あまり遠くに行くでないぞ?」
なんでだよ、サボれないじゃん! おまえ真面目か!?
真面目か。勇者だもんなぁ。
やれやれ、仕方ないな。美少女のお誘いとあらば、断る選択肢はない。
うむ、ものは考えようだ。ナオミとのお散歩デートだと思えば、野営地の周りをブラブラするのもやぶさかではない。それで親密になってネンゴロになってブラブラがラブラブになって……ムフフ。
「承知しました。お供致します」
「ええ、行きましょう」
エリザベスを降ろして、ナオミと一緒にお馬さんでパカパカと集団から離れる。作業中の兵士たちから視線が飛んでくるけど、同行しようという奴は出てこない。
この集団の最高戦力二人だからな。ついて来ても足手まといにしかならないってことを理解しているんだろう。
うむ、感心感心。デートの邪魔をするやつは馬に蹴らせても良いと昔から言われているからな。竜巻旋◯脚!
「はぁ、息が詰まるわね。リズとエグジーとアタシだけでよかったのに」
「しょうがないさ。数が多ければ、それだけ広い範囲を調査できるっていうのも真理だからな」
「むぅ〜、それはそうだけどぉ〜」
美少女はふくれっ面も可愛くてずるいな。そのほっぺたは
最近はかなり打ち解けてきたからか、こうした年相応の顔をナオミは見せてくるようになった。親密度がかなり上がってる証拠だな。よしよし。
「実際、あいつらがいるから、こうして二人で動けるわけだしな。まぁ、リズがいても問題はないけどさ」
「そうね。そう考えると悪いことじゃないわね! まだ夕食までにはしばらくかかりそうだし、二人でのんびりしましょう」
ナオミの顔が若干赤くなっているのは、夕焼けのせいじゃないはず。
【話術】先生がさり気なくポイントを稼いでおられる。ハイスコア更新中。もういつでも落とせそうだ。ムフフ。
いやいや、焦るな俺。きっと『ここぞ!』というタイミングがあるはずだ、確実に落とせるタイミングが! そのときこそは!
「それにしても……不気味ね」
「そう、だな」
そうかな? 相槌を打ってはみたけど、俺には普通の森にしか見えん。今も苗木ちゃんがワンコ(狼)たちと一緒に寝てるし。
いや、寝てるのはワンコだけだな。俺(苗木ちゃん)はそのワンコをモフってるだけ。モフり放題。むふふ、ここか? ここがええのんか?
まぁ、王国人は何度も追い返されてるって話だからな。思い込みで不気味に見えるんだろう。刷り込みってやつだ。
俺は大丈夫。王国人じゃないし、既に森の奥深くまで探索した経験があるし。出てくる魔物だって、あのロリ先輩くらいじゃん? 余裕余裕。
『聞こえてますですの。その、無理やりこちらに思考を読ませる技、やめて欲しいですの』
おっと、もうここはロリ先輩の領域内だったか。そういや、森よりも少し広いくらいにまで菌糸を伸ばしてるって言ってたな。
俺の考えが読まれちゃったか。俺は隠し事ができない正直者だからしょうがない。心の窓は常にフルオープンなのさ! おっと、社会の窓は……うん、閉まってるな。セーフ。
『ああもう! 今日一日、こっちの苗木もくだらないことをずっと考えてたし、一度に大量のくだらない思考を送りつけるのはやめてほしいですの!』
ああ、俺は並列思考で別のこと考えてるもんな。その思考を無理やり送り込まれたら、流石のテレパスでも脳がパンクしちゃうか。テレパスキラーですまん。
仕方ない、苗木ちゃんは寝かせておこう。もう今日のお仕事は終わったしな。ワンコをモフモフしながらスリープだ。はぁ、至福じゃのう。
「どうしたの、エグジー?」
「ん? いや、ちょっと考え事してただけだ」
おっと、ちょっとロリ先輩と遊びすぎたかな? 身体が疎かになってたっぽい。ナオミに心配されてしまった。
大丈夫、ロリ先輩とはなんでもないから。上司と部下ってだけだから。心は繋がってるけど。
『その繋がりは切ってほしいですの』
またまたぁ?
「えー? あっ、もしかして怖気付いちゃった? うふふ、エグジーでもそういうことあるのね」
「ああ、まぁ、な。明日以降のことを考えてたら、どうしてもな。何が起きるか分からない以上、考え過ぎってことはないさ。常に最悪は考えておかないとな」
やっぱり【話術】先生は上手いなぁ。浮気旦那の言い訳なんか目じゃない受け答えだ。本当にゴルフ行ってたの? 出張って、どこに?
けど、ロリとロリの遭遇。その時にどんな反応が起きるのかは、誰にも分からない。それは確かだ。
ロリ融合かロリ分裂か、はたまた未知のロリ反応が起きるのか……最悪の事態で何が起きるのかさえも、全く予測不能だ。
唯一分かっているのは、スズキさんが喜ぶということだけだな。
「そう、ね。最悪……もしかしたら、みんな……」
「いや、誰も、何も失わせない。そのための俺だからな」
準備したからな。そのために苗木ちゃん
ふふふ、明日が楽しみだぜ。
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