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「むむぅ……来る度に大きくなっておるとは思っておったが、もう収穫とは……とんでもない成長速度なのじゃ」
「そうなの。手間もほとんどかけてないのにね。世界にはこんな作物もあるのね」
♪芋掘り芋掘り〜。今日はお茶会終了後に、実った芋の収穫をすることになった。
王都の勇者屋敷に植えさせてもらったジャガイモが収穫できるくらいに育ったんだよね。
植えてから一ヶ月くらいか? もっと早く育てることもできたけど、あんまり早すぎると異常と思われちゃうかもしれなかったからな。ちょっと控えめにしてみた。心持ち控えめ? くらい。
畑はそれほど広くない。庭の片隅、ほんの二十メートル四方くらい。半分はネコ麦を植えてあるから、芋エリアはざっと二百平米くらいかな?
「ああ、病気と乾燥に強くて成長が早い種類なんだ。麦のほうも似た感じだな。麦のほうは……収穫は十日後くらいか」
俺の眷属で【病気耐性】を持ってるからな。病気にはならない。俺が憑依すれば【毒生成】で無害農薬も散布できるから、虫にも強い。
土が乾いてるなーと思ったら【水生成】で給水すればいいし、そもそも【成長促進】があるから成長も早い。農作物としては究極に近いんじゃなかろうか?
「信じられんのじゃ。この芋と麦があれば、王国の食料問題はほとんど解決するのじゃ!」
「いやぁ、この芋と麦は確かに凄いんだけど、欠点がないわけでもないんだよな。成長が早くて実付きが良い分、地力を吸い上げる力も強くてさ。作る度に大量の肥料が必要になるんだよ。二回続けて作ったら、草も生えない荒地になっちまうくらいでさ。ここも、植える前に森から取ってきた土を鋤き込んだんだぜ?」
「ふむぅ、相応の代償は必要ということじゃな? しかし、森の土なんぞが肥料になるのか?」
おや? のじゃロリちゃんは農業にはあまり詳しくない?
いや、農業ってかなりの専門知識が必要な産業だからな。魔法や
「ああ、森の落ち葉が腐ったり虫に食われたりしてできた土には、植物に必要な栄養がたっぷり含まれてるんだよ。腐葉土っていうらしい。まぁ、ちゃんと処理しないと病気になることもあるらしいんだけど、この芋と麦は病気に強いからな。心配ない」
「ほほう? 前から思っておったのじゃが、お主なかなかの博識じゃな? ただの傭兵とは思えんのじゃ」
おっと、いかん! 前世知識を持ち出すと、この世界では博識扱いされてしまうらしい。変に疑われるのは不味い、誤魔化さねば!
というわけで【話術】先生、お願いします!
「……生まれたときから傭兵だったわけじゃねぇよ……」
……え? それだけ? 先生、それだけでいいんですか? もっと何か言わなくていいの?
「っ! す、すまんかったのじゃ! 儂としたことが、お主の過去にまで踏み込むつもりはなかったのじゃ、本当にすまんかったのじゃ!」
おや? のじゃロリちゃんには効果があったみたいだな。どういうことだ?
ああ、過去を連想させたのか。
『生まれたときから傭兵だったわけじゃない⇛昔は農家だった⇛恐らくは辛い事情があって傭兵に』という連想をさせたんだな?
なるほど、そういうこと。演技と想像を組み合わせた演出だったんですね、流石は【話術】先生、最高です!
まぁ、実際は、そんな過去はないんだけどな。エグジーになる前は苗木だったし、その前は種で魔王樹で魔草で、さらに前世はサラリーマン。農家要素一切なし!
辛い経験ならあったけどな。ウサギに丸かじりされるというサイコな経験が! ぐぬぅ、あのときの恐怖はまだ覚えてるぞ! 覚えてろウサギめ!
「いや、昔の話だ。気にしなくていいさ。今は団長に拾ってもらって良かったと思ってるし」
「そ、そうか。それなら良かったのじゃ。うむ、
その一緒にっていうのは、多分エグジーとは違う意味だよね? 傭兵団に入るってことじゃないよね?
ハリーが絡むとポンコツになっちゃうのは、のじゃロリちゃんの弱点だろうな。
……ふふふ、いざとなったら利用させてもらおう。俺って腹黒。
「ん〜っ、わっ!? うわぁ〜、すご~い、大きい! それに沢山!」
ナオミは俺たちの会話に交じることなく、マイペースで芋掘りを続けている。
太く硬い茎を握って抜く、そして大きい。うーん、エロス?
まさか狙って言ってるわけじゃないよな? 誘ってないよな? DTだったら勘違いして暴走しちゃうところだぞ?
んん? そういやジャガイモって、芋が大きくていっぱい実るから引き抜けなくて、普通は掘り返して収穫するんだけど、ナオミは難なく引き抜いたな? 何をした?
「よく引き抜けたな? それ、普通は掘り返して収穫するんだぜ?」
「え? 普通に抜けたわよ? ちょっと力は必要だったけど」
ふむ? まぁいいか。きっと勇者パワーか何かだろう。ファンタジーならなんでもありだ。きっと、ジャガイモも女勇者に一本抜かれたかったんだろう。このエロDTめ。
「ほほう、確かに立派なのじゃ。数も大きさも、儂の知っておる芋の倍以上あるのじゃ」
「デカいだけじゃないぜ? 味のほうも保証するからな」
「ほほう、それは楽しみなのじゃ。どれ、それでは儂も掘るとするのじゃ」
のじゃロリちゃんも芋掘りに参加だ。最初から
◇
「ほうっ! これは美味いのじゃ!」
「本当に美味しい! エグジーって料理もできたのね!」
収穫したばかりの新ジャガを、早速調理してナオミたちに振る舞う。
作ったのは『ポテトオムレツ』と『じゃがバター』、『フライドポテト』の三種類。ポテトオムレツは、レモン型じゃなくて円盤型のヨーロピアンスタイルにしてみた。玉子と芋が層になってるやつ。
いや、本当にヨーロピアンなのかは知らない。なんとなくそんな感じだったから言ってみただけ。
今回は『焼く』『茹でる』『揚げる』と、あえて調理法を変えてみた。それぞれで風味も食感も変わるから、芋の奥深さを感じることができるだろう。さぁ、芋の沼へ嵌るがよい!
「まぁな。傭兵団じゃ俺は若造だったから、雑用はひと通り仕込まれたよ。特に料理は『腹が減っては戦はできぬ』って、念入りに団長に仕込まれたんでね」
「うむ、流石は団長殿なのじゃ! 名言なのじゃ!」
話術先生がバックボーンを捏造してくれる。頼れる先生がいてくれて、俺は幸せです! 楽ができるので!
のじゃロリちゃんが優雅にナイフとフォークでじゃがバターを口に運びながら、ハリーが言ったことにされた前世の格言を名言として持ち上げる。
きっと、ハリーが言ったことなら『ウ◯コチ◯チン』でも名言って言うんだろうなぁ。恋は盲目だなぁ。
「本当に美味しいわ。きっと塩との相性がいい食材なのね。市井の人たちは塩以外の調味料を手にいれるのが難しいそうだから、このジャガイモはきっと受け入れられると思うわ」
「ならいいんだけどな。けど、さっきも言った通り、これをずっと作り続けるのは難しいんだよ。どうしても肥料が、な」
「ふむぅ、森の土か……王都の周りにも森はあるんじゃが、おそらくそれだけでは……」
「足りねぇだろうな。最初はなんとかなったとしても、すぐに農地が広がって足りなくなるだろうよ」
なにせ、成長促進の効果で爆発的に増えるからな。数年どころか、半年毎に農地が倍々に増えてもおかしくない。
それに、芋や麦が増えたら、それ以外の作物も需要が上がるだろうからな。人は芋や麦だけを食って生きてるわけじゃないから。それを育てるための肥料も必要になる。
結果、生産性を維持しようとすると膨大な肥料が必要になる。
前世の世界じゃ、それを化学肥料で補ってたんだけど、この世界でそれをしようとすると、大量の錬金術師と科学知識が必要になる。そしてそれは無い。
俺はどっちも持ってるけど、提供する気はない。肥料生産装置にされるのは御免だ。
「となれば……行くしかなさそうなのじゃ。あそこなら手つかずの森の土が大量にあるのじゃ」
「……【囁きの森】、ね。どのみち、大魔王のところへ行くにはあそこか砂漠を通るしかないんだし、その下調べということなら……行きたくないけど、仕方ないわね」
よし!
ちょっと迂遠かと思ったけど、上手く誘導できた! これでロリ先輩とのじゃロリちゃんの顔合わせができる! ようやく惑星崩壊の謎が解明できるかも?
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