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「最近、大魔王の動きが静かなのじゃ」


 毎日の日課になっている対策会議という名目のお茶会で、のじゃロリ賢者エリザベスがそうのたまった。

 いや、俺って元々そんなにうるさいタイプじゃないよ? ヲタクだしね。同志以外とはあんまり話さないタイプ。【話術】技能スキルが生えたのには、本人が一番ビックリしてるくらいだし。


「大顎魔王の調伏以来、何の動きも見せておらんのじゃ。静かすぎるのじゃ」

「動きが無いなら、それはそれでいいんじゃないの? 勢力をどんどん拡大されるよりはいいと思うわ」

「それはそうなんじゃが、向こうの動きが分からんというのは……不気味じゃ」


 ここでだんまりはダメだと【話術】先生が言っている。発言して誘導するシーンだと。話術先生、意外に腹黒で頼もしいです!


「あれじゃないか? 自分は動かずに、配下を使って暗躍してるってパターンじゃないのか?」

「そうじゃな、その可能性は高いじゃろう。だとすれば……厄介じゃな。儂の【天心通】が封じられたようなものじゃ」


 天心通っていうのはのじゃロリ賢者の固有技能名だっけ。気になる名持ちの動向が天の声を通じて筒抜けになるっていう、プライバシーガン無視の出歯亀技能。この覗き魔め! 見たいなら見たいって言えば考えてやるのに!

 その技能への対策で、通知設定を全部見直したからな。俺に関する天の声は、俺にしか聞こえないように再設定した。これでプライバシーは安心だ。

 っていうか、人の世界には天の声の設定をいじるって発想はないのかね?

 まぁ、あれは神の声って信じられてるからな。その声をあえて聞こえなくするとか、不敬にも程があるって感じなのかも。


「当面敵対する予定はないのじゃが……どうも気に食わんのじゃ」

「何が?」

「どうも、儂らの動きが読まれとるような気がするのじゃ」

「っ! それって、スパイがいるってこと!?」


 不味い! エグジーのことがバレた!?

 だとしたらヤバい。ここは即時退却か? 情報収集だけなら、密かに王都中へバラ撒いた苗木だけでも事足りる。危険を冒してまで留まる必要はない。


「あるいは技能じゃな。儂の天心通に類する技能か、遠くから見張る技能を持っている可能性があるのじゃ。エグジー、何かそのような技能を持つ者を知っておらぬか? 傭兵ならその辺の情報は集めておるじゃろう?」


 おおう、俺に振るのかよ? ってことは、俺はまだ疑われてない? それとも何かの誘導か?

 まぁ、話術先生にお任せすれば問題ないか。すぐに最悪の事態にはならないだろう。


「……【千里眼】っていうのを聞いたことがあるな。とにかく遠くまで見える技能らしい。昔、荒鷲魔王に追いかけられた仲間がいて、あの目の良さは技能なんじゃないかって話してた。確か、荒鷲魔王も大魔王の眷属になってたはずだよな?」

「ふむ、千里眼……なるほど、あり得るのじゃ。荒鷲魔王も、何度か皇国で目撃されておるのじゃ。王国まで来ていてもおかしくはないのじゃ」

「脅威ね。空の相手にはアタシでも手が出せないわ。ますます敵に回したくないわね。勇者が言っちゃダメなんでしょうけど」


 女勇者ナオミナイス。ちょっとおどけてくれたおかげで、場の空気が少し和らいだ。竦めた肩につられて動いたお胸様も柔らかだ。

 どうやらまだ俺は疑われてないっぽいな。

 あっ、そういえば俺、狂乱魔王ロリせんぱいから【読心】技能貰ったんだった。コレ使えば疑われてるかどうか分かるじゃん。


『ふむぅ、やはり技能という線が濃いか? いや、スパイという可能性も捨て切れんのじゃ。あるとしたら……大臣連中とその側近か。あやつらは腐っておるからな。自己保身のためなら国を売るくらいのことはしてもおかしくはないのじゃ。大魔王からの接触があれば、喜んで尻尾を振るじゃろう。要注意じゃな』

『技能ねぇ。遠くからの視線は感じなかったけどな。エグジーからの視線はよく感じるけどね。もう、いつもアタシの胸ばっかり見てるんだから。うふふ、剣を振るのに邪魔だと思ってたけど、こういう使い方ができるなら、大きいのも悪くないわね』


 おおっと、バレテーラ。

 しょうがないじゃん、揺れてたら見ちゃうじゃん。大きいことはいいことだ! 小さいのもいいけどな!


 とりあえず、俺は疑われてないみたいだな。良かった良かった。

 しかし、のじゃロリ賢者は相当大臣連中のことを嫌ってるな。そこまで腐ってるのか? 腐ってるなら土に還して栄養にする?

 おっと、なんかサイコパスっぽい思考だな。いかんいかん、心はいつまでも清くあらねば。DTの心は忘れない。

 うーん、一度大臣連中に接触してみるか? 特に必要はないんだけど、こういうときのカムフラージュにはなるかもしれないし。

 人は真実ではなく欲しい答えを求めるものだって言うからな。分かりやすい売国奴がいれば、それ以外の答えは追求しないだろう。

 俺の正体をバラすにはまだ早い。ギリギリまで隠さねば。


 何故って?

 それは、そのほうがカッコいいからだ!


『何故!? 何故なのエグジー!?』

『済まないナオミ……俺のことを恨んでいい。次に会うときは戦場だ……あばよ』

『待って、行かないでエグジー!』


 みたいな展開、やってみたいじゃん?

 よし、汚大臣様にコッソリ接触しよう。なに、採掘したまま死蔵してる貴金属を手土産にすれば、いい感じに転んでくれるだろうさ。



「ほらほら、そんなことじゃ大魔王の軍と戦う前にバテちまうよ! 兵士は一に体力、二に体力さ! 走れ走れ! ほらそこ、転んだなら脇に避けな! 後続の邪魔だよ!」


 オバサンがヤマーンの街の兵士を鍛えている。いや、なんでまだ居るの?


「皇国の汚点ですね。彼女たち、ここの統治権を得るための裏工作で、皇都の家屋敷や家財を抵当に入れてしまったそうなんですよ。勝てば領地持ちだから、もう帰る必要がないと思ったんでしょうね。しかし負けてしまったので、どこにも行く宛がないそうです。仮にも爵位持ちとその親族を放浪させるわけにもいきませんから、彼女にはこの街で武官として働いてもらうことにしました」


 なんじゃそりゃ、自業自得やんけ。

 個人的には放り出してしまえと思わないではないけど、シャリムは優しいからなぁ。街のためなら闇落ちも辞さないくらいだし。

 まぁ、実際は闇に落ちるどころか病みから這い上がってきたわけだけど。今や超健康優良美少年だ。これで変態でさえなければ。


「恥ずかしい衣装の子爵のほうは何をしておるんじゃ?」

「恥ずかしい……とりあえず与力の文官として働いてもらおうと思っています。元皇都住みの貴族ですから、それなりの能力はあるはずですので。実際、ここの統治権を賭けた競争には勝ち残っているわけですしね。今日は役所で職員と顔合わせをしているはずです」


 あの子爵ファッションモンスターが有能?

 いや、でも確かに、あのオバサンという存在があったにせよ、貴族間の工作合戦には勝ってここに来てるんだよな。そう考えると無能ではないのか? 服のセンスはないけどな。


「ふむぅ。まぁ、シャリムがそれでいいならワシは何も言わん。じゃが、くれぐれも秘密は漏らさんようにの?」

「はい、もちろんです先生」


 シャリムは頭が回るし、人望もある。あの豪快オバサンやファッションモンスターも使いこなせるだろう。大魔王配下という秘密も、上手く隠すに違いない。

 むしろ、秘密が漏れるとしたらアーサーからか? お爺ちゃんだからな。ちょっと漏れちゃうのはしょうがない。心にオムツを履いておこう。


「ほらそこの坊や、いつまでも寝てるんじゃないよ! あんたは特別訓練だ、今晩アタシの部屋に来な! 朝までシゴいてあげるよ!」


 怯えた新兵の顔見て舌なめずりすんなやオバサン。多分そいつ、まだ十代だろう? 何をシゴくつもりだ? ナニか。朝までか。元気ね。


「……兵士を潰されんようにの?」

「……善処します」


 頑張れシャリム。

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