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――エンシェント・ドライアド(――・千百十一歳)、固有名『アマニータ』を眷属にしました。
――領域支配権を獲得しました。
「ううう……もうやめてぇ……これ以上は無理ですのぉ……」
虚しい勝利だ。
ロリが蹲っているこの構図からは、犯罪臭がプンプンする。いつまでこの手を汚せばいいのか。俺が手を、足を洗う日はくるのか?
妄想転生がどんな技なのかは誰にも明かせない。秘密の奥義で秘奥義だからな。
ひとつだけ明かせることがあるとすれば、妄想転生は真の悲しみを背負った者にしか習得できないということだ。
制服物をオカズに自家発電してたら姉がドアの隙間から覗いてたとか、エロいムービーデータがHDDから消えたと思ってたらホームサーバーに移動してて家族皆で観れる状態になってたとか、そんな悲しみ。
くっ、なぜあんな悲劇がっ!? あれから俺の家での立場はっ……くぅっ!
まぁいい、そのおかげで勝てたんだからな。きっとあの悲しみは今日のためにあったのさ。ハハハ。はぁ。
さて、調伏したロリB……ロリっ子のステータスでも見るか。なんか、眷属化したときに変なメッセージが見えた気もするし。
――――
名前:アマニータ
種族:エンシェント・ドライアド(――)
年齢:千百十一歳
HP:★★★★★★
MP:★★★★★
腕力:
体力:★★★★★★
知能:★★★★★
敏捷:
技巧:
技能:『読心』『闇魔法』『幻術』(『成長促進』)(『毒耐性』)(『言語理解』)(『病気耐性』)
称号:『狂乱魔王』『現役最古参魔王』
眷属:
特記:『ボン=チキングの眷属』
――――
やっぱ見間違いじゃなかった。『(――)』ってなに? 表示バグ?
エンシェント・ドライアド……ああ、俺と同じ植物系なのか。俺みたいに若木とか成木とかが無くて、オスメスも無いんだな。LGBTQのQってことか。性の多様化は異世界でも進行中らしい。
って、千百!? めっちゃ長生きじゃん! 歴史の生き証人だよ、生き字引だよ!
千歳前後ってどう略したらいいんだ? アラセン? アラサウ?
ってか、百歳以上オーバーしてるから、もうアラウンドじゃねぇよな。オーバーチトセ、オバチトだ。
こんなに年食ってるのにロリファッション……業の深さを感じるなぁ。濃い闇を抱えてそうだなぁ。ねっとりした粘着質なやつ。
ってか、ステータスは『これでもか!』ってくらいに尖ってるな。体力と知能に極振りじゃん。こんな変なステータス見たことねぇ。ただし俺を除く。
まぁ、植物系はこういうステータスになりがちなのかもな。動かないから敏捷や技巧、腕力は必要ないし。
成長すれば勝手に体力は上がるし、知能は……あれ? なんでこいつ知能があるの? 俺みたいに思考型技能は持ってないよな。実は考える葦なの? ちょっとパスカる?
この組み合わせなら、この囁きの森に人が入ると狂うっていう現象を説明できる。読心で相手の心を読んで、その心の闇を刺激する極軽い闇魔法をかけてたんだろう。常時かけ続けるなら、弱いほうが魔力の消費が少ないし。
ああ、だから俺には通じなかったのか。俺も闇魔法持ちだもんな。相殺してたわけだ。
ありがとうクリス、君のおかげだよ!
◇
「クリス、ありがとう」
「え? 急にどうしたのパパイヤさん?」
「いや、いつも助かってるから、感謝の気持ちを伝えておこうかと思って」
「そうなの? えへへ、ちょっと照れるね?」
うむ、今日も相変わらずの美少女っぷりだ。笑顔がハジケてる。
これで男じゃなければなぁ。
◇
幻術は……なんだろう? 俺、何か惑わされてる? 自分では分からんなぁ。
親父も『不惑(四十歳)になっても戸惑うことばかりだ』って言ってたし、まだまだ若造の俺ならなおさらだよな。きっと自覚がないだけで、何かに惑わされているんだろう。知らぬは本人ばかりなり。気をつけようね、旦那さん?
「はっ!? 何か悪い夢を見ていたような……えっ、眷属!? あっ、支配権が奪われてるですの! 返せ、アタシの森を返せですの!」
フハハハ、だが断る! お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの! 偉大なるタケシ理論によって、この森は既に俺のものなのだ!
「そのタケシというやつはクズですの! くっ、あんな訳のわからない技に屈してしまうなんて、最古の魔王の名が泣くですの」
まぁいいんじゃない? 美味しい料理に屈しまくる姫騎士様もおられるんだし。ロリが変態に屈するなんて、成人向け漫画なら定番といってもいい展開じゃないか。フツウフツウ。キミも屈しときなよ?
「何を言っているのかサッパリ理解できませんですの! こんな異常事態は初めてですの!」
アレ? そういえば、今も普通に思考を読まれてるな。俺は喋ってないのに会話が成立してる。
俺もこのロリB……ロリ子ちゃんを眷属にしたときに読心を獲得してるはずなんだけど、この技能は相殺されないのか? 闇魔法は相殺されてたのに?
「あら? そういえば……読心はアタシ以外に使える人に会ったことがなかったから、よくわからないですの。きっと、相殺できない技能なんですの」
むう、それはそれで困るな。読めるのはいいけど、読まれるのは困る。倫理コードに引っかかってしまう。放送できなくなるじゃないか。
俺が読むのはOK。むしろ、その無修正を俺にも読ませろ! モザイクも黒消しも無いやつを!
「……こんなくだらない思考をする生き物は初めてみましたですの。そこに寝ている狼たちのほうが、もっと真面目に考えて生きているですの」
いやぁ、それほどでも?
「褒めてないですの!」
まぁ、初めて会ったというのも当然だ。俺は俺、他に代わりのいないオンリーワンな存在だからな。四千以上の俺がいるけどオンリーワン。
そんな世界の矛盾を凝縮した存在、それが俺だ! 俺を越えられるのは俺のみ! ゆえにやつの機体番号はゼロにもどさ……
「ああ、もういいですの! 理解不能なことはわかったですの! ……ふう、コミュニケーションが取れているようで取れていないのが一番困るんですの」
ふむ、理解を諦めたか。でも諦めたらそこで試合終了だよ? つっても、もう試合っていうか闘いは終わってるんだけどな。
しかし、これだけ騒いでるのに起きないとか、このワンコたちも大概大物だよな。野生はどうした? 何を考えて生きてる?
『お腹いっぱい。うれしい。眠い』
シンプルだなぁ。
いや、生きるだけならそんなに難しく考える必要はないのか。俺たちが余計なことを考え過ぎてるだけなんだろうな。こいつらを見習って、もっとシンプルに生きるべきなのかも。
「ですのですの! 森の動物たちは、みんなこんな感じで真っ直ぐに生きてるんですの! それに引き換え、人間は余計なことばかり考えてるんですの。汚いんですの。だから追い出してるんですの」
ふーん。まぁ、いいんじゃね? 好きにしたらいいと思うよ。興味ないし、俺は困らないし。
「だと思いましたの。だから口先三寸……んんっ、対話で穏便に引き取ってもらおうと思ったんですの……それを、問答無用のあんな意味不明な攻撃で眷属にされて……納得できないですの! やり直しを要求するですの!」
あー、それはすまんかった。俺の早とちりの先走りだったか。平和的な領域支配者がいるとは思わなかったからさ。現に、今でも元領域支配者のヤギママには齧られてるし。
まぁ、再戦ならいつでも受ける! いつでも脱ぐ準備はできてるからな!
「……やっぱりいいですの。あの技は二度と喰らいたくないですの。何も覚えてないけど、心が全力で拒否しているんですの」
そうか。相手の心を打ち砕くとは、やはり妄想転生は最強だな。大きな犠牲を払っただけのことはある。
あのときの緊縛ブルマJKも浮かばれるというものよ。
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