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「くっ、裸になったから何だって言うんだい! 露出が増えて怪我しやすくなっただけじゃないか! このまま竜巻で押しつぶしてやる!」

「いえいえ、そうでもありませんよ?」


 そう言ったシャリムの姿がかき消える。俺には気配察知があるから追えてるけど、常人には本当に消えたように見えただろう。

 そして消えた時と同じく、唐突に現れるシャリム。その両手は突き出されており、拳が握られている。


「風と同じ向き、同じ速さで移動すれば、無風状態と同じです」


 その拳が開かれると、大小様々な石がパラパラと落ちる。


「っ!? まさか、竜巻に巻き上げられていた石を掴み取ってきたっていうのかい!?」

「ええ。この程度、脱衣拳を会得した僕には朝飯前です」

「脱衣真拳!?」


 そう、会得しちゃったのだ。

 はい、ステータス、ドン!


――――

名前:シャリム=ハシム

種族:ヒューム(オス)

年齢:十五歳

HP:★★

MP:★★★

腕力:★★

体力:★★

知能:★★★

敏捷:★★★

技巧:★★

技能:『真・脱衣』『忍耐』『気配察知』『槍術』『身体強化』『光魔法』『体術』(『成長促進』)(『毒耐性』)(『言語理解』)(『病気耐性』)

称号:『脱衣真拳継承者』

眷属:

特記:『ボン=チキングの眷属』

――――


 いやぁ、強くなったなぁ、シャリム。ステータスは体力やHP、敏捷が少し上がった程度なんだけど、身体強化のお陰で数値以上に強くなってる気がする。称号のせいではないはずだ。ないと信じたい。

 たぶん『真・脱衣』と『身体強化』、『体術』の組み合わせが『脱衣真拳』になったんだと思うんだよね。身体強化と体術だけなら、多分『拳豪』とか『拳聖』とかになったんじゃないかな? それで十分だと思うんだけど、現実は甘くなかった。全ては真・脱衣のせいだと思う。

 名前が『脱衣拳』なのも・脱衣だからだろう。これが『神・脱衣』なら『脱衣神拳』になったのかも。知らんけど。


 これはアローズやライアンにも身体強化を覚えさせるべきか? 変態系技能スキルが無ければ妙な称号は生えないはず。……生えないよな? ……ちょっと保留にしておこう。まかり間違って変な称号が生える可能性が、なきにしもあらず。


 まぁ、強くなることはいいことだ。それだけで選択肢が増える。

 問題があるとしたら、眷属に変態系技能が生えると、それが俺にまで生えてくるってことだな。


 ああそうだよ、俺にも『真・脱衣』が生えちゃったんだよ!


 称号も生えたよ、『脱衣真拳開祖』だってよ! 俺が創ったことになっちまったよ、変態拳法!

 いや、俺、全然脱いでないじゃん! ってか、着てもいないよ? だってこのスーツ、俺の樹皮と葉っぱを変形させたものだもん。最初から全裸だよ? 生まれてこのかた、服を着たことなんてないよ? 脱ぐものないじゃん!

 なんでかなぁ? ちょっと判定に疑問を感じちゃうなぁ。天の声さん、ちゃんと検証してる? なんとなく仕事してない? プロ意識ある?


「くっ、バケモノめ! けど、荒れ狂う複数の竜巻に揉まれても同じことができるとは思えないね! まだまだアタシの優位は変わらないよ!」

「そうかもしれません。でも、コレを見ても同じことが言えますか?」

「えっ?」


 シャリムの手に、いつの間にか剣の鞘が握られている。それをカランと地面に転がす。


「あ、アタシの剣の鞘!? いつの間に!?」


 オバサンは自分の腰と眼の前に転がされた鞘を見比べ、シャリムはニヤリと笑う。


「お見せしましょう、脱衣真拳、その力の一端を」


 そう倒置法で言ったシャリムがニヤリと笑い、その姿がまたしても消える。

 始まったな、終焉が。

 俺も倒置法を使ってみたくなったので使ってみた。

 再び同じ場所に現れたシャリムの手には、今度は革の手袋が握られている。右手用だな。当然、オバサンの手から引き剥がしたものだ。

 オバサンが、自分の右手とシャリムの手に握られている物の間で視線を往復させる。


「そ、そんな!? 剣を握ってるのに、何も感触がなかったのに!?」

「分かりましたか? 脱衣真拳の前に防具は無意味です。自らは脱いで強くなり、相手は脱がせて弱くする。それが脱衣真拳です」


 そう言ってシャリムの姿が消えては現れ、その度にオバサンの体から装備が外れていく。

 これが真・脱衣。ついに他人にも脱衣が行えるようになってしまった。もう変態を通り越してただの犯罪者だ。


「くっ、やめっ! ああっ!」


 始まったのは、オバサンのストリップショーだった。オバサンがドンドン脱がされていく。

 それ、誰得? 見るに耐えないんですけど? 終焉っていうか、終末なんですけど?


「終わりです」


 シャリムが手に持った……あれはオバサンが胸に巻いていたサラシか? それを捨てる。オバサンはもうパンツ一丁だ。色気のないかぼちゃパンツのみ。ブーツも靴下も脱がされている。

 剣だけはしっかり握っているのが、何かのパフォーマンスみたいだ。マジで誰得?

 剥かれたオバサンの胸の先っぽを光らせているのは、シャリムなりの情けだろう。良かった、これで地上波に乗せられる。いずれ星型に光らせる方法を教えてやらないとな。


「最後の一枚は脱がない、脱がさない。それが脱衣真拳です」


 そうなの? 俺、今も全裸だよ? 脱衣真拳開祖の称号は返上してもいい? 不適だよね? ね?


「もう一度言います。終わりです。僕にはこの竜巻をノーダメージで切り抜けられる可能性がありますが、貴方には無理でしょう。相打ち覚悟の守り勝ち戦術は破綻しました。僕の勝ちです」

「うぐぐ……それでも、それでもアタシは! アタシたちは!」


 ありゃ、まだオバサンはやる気かね? 剣を握り直した。

 けど、もう隠し玉はないみたいだし、やけっぱちになってるだけだな、あれは。

 シャリムは、その答えを予想していたみたいだ。苦笑している。


「できれば降参していただいて穏便に済ませたかったのですが……残念です」


 ドスッ!


「っ!? カハッ!?」


 一瞬でオバサンの至近に現れたシャリムの右拳が、オバサンの鳩尾に突き刺さる。

 スピードの乗った一撃を喰らったオバサンの手から剣がこぼれ落ち、次いでオバサン自身も膝から崩れ落ちる。

 が、それをシャリムが右腕一本で支え、ゆっくりと地面に横たえる。この紳士め。いや、胸の先と股間を光らせた変態紳士め。星型の次はいいねマークだからな。連打だからな。

 竜巻が霧散し、闘技場に吹き荒れていた暴風が嘘のように凪ぐ。オバサンは完全に気を失ったらしい。


「見届人殿、御覧の通りですが?」


 シャリムが観覧席に座る見届人に声をかける。呆然としていた見届人が、その声に我を取り戻し、そして苦々しい顔をして一言。


「この決闘、現領主シャリム=ハシム殿の勝ちと認めます!」


 この宣言に、固唾をのんで見守っていたメイド三人娘が喝采の声をあげる。

 いや、シャリムの裸を凝視してただけか。このエロ娘どもめ。鼻血を拭け。


 ともあれ、これでやっと終わりだな。やれやれ。

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