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「ほらほら! 守ってばかりじゃアタシには勝てないよ!」
オバサンがシャリムを攻め立てる。『責め立てる』だったら、興奮するお姉さんもいたかもしれない。熟女✕少年だからな。一定の需要はあるだろう。
決闘は滞りなく始められて、滞りなく進行中だ。
予定通りの急ごしらえで土むき出しな闘技場で、予定通りの観戦者たち。俺が観覧席で高みの見物を決め込んでるのも予定通りで、序盤はシャリムが守勢なのも予定通り。
オバサンは鞭か鎖でも使いそうな雰囲気だったのに、決闘では普通に剣を使っている。両手持ちで長め幅広な剣。普通かよ、つまらん。まぁ、これは予定通りじゃないけど、想定の範囲内だ。許してやる。
防具も普通の革鎧で、ところどころに鉄で補強が入ってる。これにはちょっと文句を言いたい。
初日のあのレオタードは何だったんだ! あの格好で闘うんだと思っていたのに! なんでお前は面白くない方向に期待を裏切るんだ! お笑いを舐めてるのか!?
まぁ、力任せの攻撃重視って戦闘スタイルは想定の範囲内だし、スピードもテクニックも想定の範囲内。変な搦め手がないのは闘い易くていい。変なのは身内だけで間に合ってます。手に余ってます。
その身内の変なの……シャリムはというと、とても『らしく』ない全身金属鎧を着込んで戦っている。分類的にはプレートメイルになるのかな? 中世西洋のアレ。兜付き。
多少スタイリッシュな感じにはなってるけど、間違ってもタイマンで身につける装備じゃない。
じゃあ、なんでそんなものを着ているのかというと、実はあの鎧は
つまり、とても脱ぎやすい。そこが
とはいえ、パーツが細かく分割されていて、動き易さは従来の鎧と比べ物にならない。素材も合金だから、そこまで重くない。流石はギー、伊達にオッサンはやってない。
とは言え、それでも金属鎧だ。全部で二十キロ近い重さがある。長時間の戦闘になればスタミナを消耗するし、体力的に苦しくなるのは間違いない。
その金属鎧を着て、もう三十分近くシャリムは闘っている。
オバサンの振り下ろす剣を槍の先端近くで受け流し、オバサンの体勢が崩れたのを見計らって、大きく距離を取るシャリム。
「ふう。そろそろでしょうかね?」
「ふん、何がだい? 体力の限界かい? 降参するなら早くするんだね! アタシの一撃を喰らったら喋れなくなるかもしれないからねぇ!」
シャリムが槍を地面に突き立て、鎧の胸の留め具をひとつパチンと外す……おっと、ヤる気か?
「いえいえ、この鎧を着て、貴女の攻撃を一回も喰らわずに長時間凌ぎ切ったんです。体力的には問題ないということが、使者殿にもご理解いただけたことでしょう。ですので、次は戦闘力について見ていただこうかと思いまして」
「何だって!? 今までは単なる小手調べだったって言うのかい!?」
「ええ、本番はまだまだこれからです。ではいきますよ?」
シャリムはわずかに右足を引いて立ち、軽く両手を広げる。
「
シャリムが穏やかにその言葉を発した瞬間、全身の鎧片が周囲へ弾け飛ぶ!
「くうっ!?」
鎧片を喰らったオバサンが吹き飛び、尻餅をつく! そこへ更に追い打ちの鎧片が襲いかかる! オバサンが慌てて転がり、それを避ける!
うむ、あのポーズとセリフは俺が指導した! どうせならトコトンまでと思って! 毒を喰らわば皿までよ!
おばあちゃんが言っていた。アンタはお調子者だから、調子に乗り過ぎて羽目を外さないようにねって。ごめん、やりすぎちゃったかもしれないよ、おばあちゃん!
けどさ、俺が教えたのは掛け声と共に脱ぐってやり方だけだったんだよ? 素早く脱ぐだけ。鎧の構造的に、あんな風に飛び散るはずがないんだよなぁ?
アレを再現したのは間違いなくシャリム、その『脱衣』
闘技場が破片の巻き起こした土煙に覆われ、それが風に流され晴れていく。
その中央に立つのは、上半身裸で綿パンにサスペンダー姿のシャリムだ。
「では、これからはずっとこちらのターンです。覚悟はいいですか?」
「はん、言うじゃないか! けど分かってるのかい? 鎧を脱いだアンタは、一撃喰らえば終わりなんだよ!」
オバサンが立ち上がり、大剣を大上段に構えてシャリムに斬りかかる! 体重と速度の乗ったいい一撃だ。
しかし! その剣が当たる寸前でシャリムの姿が消え、次の瞬間オバサンの背後に現れる!
「がっ!?」
そして槍の石突で一撃! オバサンは為すすべもなく吹き飛ぶ!
これぞシャリム・ソニックフォーム! その素早さは常人には捉えられない! 変態にしか見えない世界があるのだ!
まぁ、ぶっちゃけ『身体強化』技能だけどな。
身体強化の開発は、驚くほどあっさりできた。かかった日数はたった二日だ。
俺の分身総動員で開発したからな。四千体以上いる分身で、並列思考をフル稼働したらできちゃった。
『これでどうだ?』『こっちのほうが良くない?』『おっ、ちょっと手応えありかも?』『よし、その方向で進めてみて』『こっちは別アプローチでやってみるか』『他にも手があるかも』
なんて感じ。脳内オンラインセッションだ。
単純に計算して、四千体で二日なら延べ八千日だ。ひとりでなら約二十年くらい? それだけ修行すれば、余程相性が悪くない限り、技能のひとつくらいは覚えられるだろう。
あとはそれをシャリムに覚えさせればいい。むしろそっちの方が大変だった……って言っても、五日で終わったけどな。指導者としても優秀な俺。自画自賛。
まぁ、シャリムが優秀っていうのもあったかもな。覚えて以降は、どんどん身体強化を使いこなしてたし。
いや、お前の指導力じゃなくて、むしろシャリムの才能だろうって? 弟子の手柄を横取りするな? うっせぇわ! ちょっとは威張らせろ! 大魔王だぞ俺!
「確かに凄い攻撃です。しかし、当たらなければどうということはありません」
このセリフも俺が教えた! 坊やに言わせたかった! おばあちゃん、調子に乗りすぎてごめんなさい!
「ぐっ、がはっ!」
まるで分身しているかのような、残像が見えそうな速度でシャリムがオバサンを攻め立てる。さっきとは攻守逆転だ。
はたして、少年✕熟女に需要はあるのだろうか? 美人妻NTRものならアリだろうけど、ただのオバサンでは捗らないよなぁ。せめて美魔女であれば。
シャリムの攻撃は、全て穂先ではなく石突で行われている。しかも、突いているのは装甲が補強されている箇所ばかり。オバサンに深刻なダメージは一切ない。
鎧の隙間を穂先で突けば一撃で終わるのに、シャリムにはそれができないでいる。それは別に、シャリムが甘いってわけじゃない。そうせざるを得ないってだけだ。
というのも、全ては相手が貴族だから。いくら政府発行の決闘許可証があるって言っても、下手に殺すと面倒なことになりかねない。イチャモンつけられる恐れは大だ。なので、相手を殺さず、降参してもらうのが一番いい。
一方で、こっちはお取り潰しになっても構わないから、相手は殺す気で向かってくる。むしろ、殺したほうが後腐れがなくていいとすら考えているかもしれない。ずるいよなぁ。
面倒事を回避するために面倒な手間をかけなければいけない。貴族って本当に面倒くさい。
「くっ、舐めるんじゃないよ!」
オバサンが剣を横薙ぎに一回転、無理やりシャリムを遠ざける。
シャリムの速さならその剣を追いかけることもできたはずだけど、今回は素直に距離を置くことにしたようだ。
「確かに速いね。槍も正確に同じ場所を突いてきている。良い腕してるよ」
ようやくできた僅かな時間でオバサンが語りだす。この時間で呼吸を整えればいいのに、喋らずにはいられないらしい。オバサンがおしゃべりなのは全世界(異世界)共通なんだな。
「こんなに手加減されたのは何年ぶりだろうねぇ。こんなに腹が立ったのは何年ぶりだろうねぇっ! そういうことなら、ここからはこっちも手加減抜きだよっ!!」
激昂したオバサンが吠える!
と同時に、オバサンを中心に風が渦巻く! それは徐々に勢いを増し、闘技場を覆う旋風、いや竜巻になった!
これ、風魔法か! オバサン、魔法使いだったのか! 確かに三十歳過ぎても未経験って感じだしな! あれ、それは男だけか?
まぁいい。ともかく、向こうも本気になったってことだ。
こんなこともあろうかと、ポテチとスポドリを用意しておいて良かった!
さぁ、もっと俺を楽しませろ!
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