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「でしたら、実力を示していただくしかありませんな!」
こういうケースも想定されていたのかもしれない。
「元より、領地貴族はその実力でもって外敵から領地を守ることを期待されております。ならば、より実力のある者が領主となるのが道理。その道理をご自身の手で証明していただきましょう!」
そう宣言して、使者は皇都へ引き返していった。
あー、つまり?
「僕の代わりになる予定だった貴族がここへ来るのでしょう。そして、その者と僕が決闘し、勝った方がこの地の領主となるということです」
なるほど。
なるほど?
「随分と都合のいい申し出じゃのう。それに応じる必要はあるのか?」
向こうは勝てば領地が手に入るけど、こっちは勝っても何のメリットも無いじゃん。現状維持だけ。ずるくない?
「応じるより他ありません。あちらは皇王の認可済みですからね。拒否すれば反逆の意思ありとして軍が派遣されることもありえます」
ふーむ。
まぁ、軍が派遣されたところで、俺と俺の分身がいれば負けることはないと思う。種や苗木を動員した飽和魔法攻撃のワンサイドゲームで終わりだろう。
でも、そうなると、いよいよ
負けることはないだろうけど、多くの犠牲が出るだろう。主に皇国側に。
それは面倒なんだよなぁ。被害が拡大すると、遺恨が後々まで残ることになる。それはその後の統治に影響が出るし、
順調に進んでいる王国との和睦にも影響しそうだし、今は
「となれば、次に使者が貴族を連れて戻ってくるまでに、確実に勝てるくらいお主を鍛えるしかないのう」
「望むところです! 先生、お願いします!」
早ければ半月くらいか? それでどこまで鍛えられるかだな。
おっと、使者の馬車に種を紛れ込ませておかないとな。皇都の情報は優先的に得ておきたいし。
でも貴族の実情はあまり知りたくない。タダの変態ならいいんだけど、闇の深い変態だったら困る。真っ当な変態に戻してやる義理もないし、そんなSAN値も残ってない。それなら知らないままでいい。変態は間に合ってます。もういっぱいいっぱい。
◇
「っ!? これは!?」
「聞こえたかの? これでお主も名持ちじゃ」
いや、半月じゃ大した成果が上がらないと思ってさ? 手っ取り早く強くするために名付けしてみたわけよ。名持ちになると全体的にスペックが上がるしさ。
息子さんは人外になることも覚悟の上で
さて、それじゃ息子さん改めシャリムのスペックはっと。
――――
名前:シャリム=ハシム
種族:ヒューム(オス)
年齢:十五歳
HP:★
MP:★★★
腕力:★★
体力:★
知能:★★★
敏捷:★
技巧:★★
技能:『脱衣』『忍耐』『気配察知』『槍術』(『成長促進』)(『毒耐性』)(『言語理解』)(『病気耐性』)
称号:
眷属:
特記:『ボン=チキングの眷属』
――――
ふーむ。ステータスは、偏りがあるけど概ね予想の範囲内だな。つまらん。
どうやら、本来は頭脳派だったらしい。それを俺が筋肉に極振りしたトレーニングをしちゃったから、腕力だけが上がっちゃったっぽい。
真っ当に育てたら、本来は魔法使い系だったんだろうな。これからはそっちも伸ばしてみるか。魔法の覚え方はのじゃロリ賢者に聞いてみよう。
槍術を覚えてるから、魔法と槍で戦うスタイルもいいな。魔法剣士ならぬ魔法槍士。
そして……やっぱ持ってたか、変質者系
しかも、この並びを見る限り、一番最初に獲得した技能っぽい。親も持ってた疑惑があるから、もしかしたら遺伝するのかもしれん。嫌な一族だ。
「まぁ、脱衣神拳とかじゃなくてよかったか?(ボソッ)」
「っ! 先生、なんですかその脱衣神拳というのは!?」
おっと、独り言が漏れてしまったか。お爺ちゃんだから漏れるのは仕方がない。
というか、シャリムの食いつきが凄い。脱衣だからか? 身体に流れる血がそうさせるのか?
「うぬぅ、聞こえてしもうたか。いや、ワシも詳しくは知らんが、そう呼ばれる武術がかつて大陸辺境の島国にあったそうじゃ。NINJA(笑)と呼ばれる戦士が
「NINJA(笑)……なんて凄い」
「まぁ、与太話じゃよ」
本当に与太話だよ。あのゲームの忍者だけだよな、あんな変な性能なの。一九〇〇年代の外国人が、如何に日本を曲解していたかという代表例だ。
まぁ、それすらも受け入れて昇華しちゃうのが日本人なわけで、そこから発展した『裸◯活殺拳』なんて与太が更に生まれちゃうわけだけど。
「先生!」
「む、なんじゃ?」
「その武術、なんとか習得する方法はありませんか!?」
いや、何言い出してんだコイツ? 与太話だって言ったじゃん。
「そうは言われてもな。ワシも話で聞いただけじゃ。詳しいところは知らんのじゃよ」
「そんな……そう……ですか」
めっちゃ落ち込んだな。何がそこまでコイツを駆り立てるのか。
まぁ、創作武術だからなぁ。悪いけど、俺にはどうしようもないよ。
「ジジイが坊ちゃまをいじめてるわ……今日の夕食にタワシを入れてやろうかしら」
「ダメよ、それじゃ坊ちゃまに気付かれるわ。寝室で髪の毛を燃やして臭くしてやりましょう」
「でも……項垂れる坊ちゃまも可愛いわね。ゾクゾクしちゃう」
メイドが、メイドさんたちが不穏な会話をしている!? 二人目の地味な嫌がらせは本当に地味に嫌だ! そして三人目には貴族の血が流れているに違いない!
ちょっとフォロー入れておこう、俺の平穏な生活のために!
「あー、どのような理屈で成り立っている武術なのかは聞いたことがある。たしか、周囲の気を肌で吸収して身体を強化し、大気の流れを肌で感じることで相手の動きに先んじるのであったかな? 故に脱げば脱ぐほど強くなる、ということらしいのう」
「気、ですか?」
「まぁ、魔素のことじゃろうな。魔法の元じゃしの」
それは◯神活殺拳のほうだけどな。ミンメイ書房情報。
あれ? それって身体強化じゃないか? 魔法の力で身体能力を上げるんだから。
ということは、あのゲームのNINJA(笑)って身体強化を使ってたってことか? アレも魔法のある世界だったしな。
ん? 何か考え込んでるな。分かりづらいところでもあったかな?
「……先生! 僕、その武術を開発したいと思います!」
「なぬっ!?」
「僕の中の何かが叫んでいるんです、今こそ一皮剥けるときだって! 今までの殻を脱ぎ捨てて、本当の自分に生まれ変わるときだって! それが脱衣神拳だって!」
いかん、発症している! 自分探しという、厨二病に次ぐ痛い病気が! いい歳した大人でも発症すると言われている自探病が! 変態風の味付けをされて!
戻ってこい、それは幻だ! 本当の自分はいつも自分と共にある、探しに行く意味はないんだ! 変態も自分の中にあるぞ!
そもそも、生まれ変わったら草になって大魔王になるかもしれないんだぞ! そのうえ、世界を救うなんていう重荷を背負わされるかもしれないんだ!
……それなら俺と責任を分け合えるな。俺の負担が軽くなるかもしれない。
「いいじゃろう、ワシも協力しよう。なに、それでお主が強くなるなら相談役としての面目も保てるというものじゃ」
「先生! ありがとうございます!」
身体強化、一緒に覚えようじゃないのよ。俺のために。
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