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「あ……う……それは……」
「『はい』と『承知致しました』以外の返事を聞く気はなイ」
「うくぅっ!」
まだ抵抗するか。軽く締め付けて脅してるのにまだ屈服しないとか、なかなか根性あるじゃないか。
眷属化のお知らせも聞こえてこないし……おっと、通知をオフにしてたんだっけ。これじゃ眷属化したかどうか分からないじゃん。設定変更っと。
――眷属獲得の通知をオフにしました。
おや? 変更したらオフになった? つまり、オンだったってこと?
ん〜……あっ、以前設定したのは技能獲得の通知だったな! つまり技能獲得時だけってことか! 個別に各種の通知設定があるってことだな?
うーん、便利なような、不便なような。カスタマイズ厨にはありがたい機能かも? 俺の場合は面倒くさい七割、便利かも三割かなぁ。
まぁいい。それじゃ、眷属化の通知はオンにしておくか。
――眷属獲得の通知をオンにしました。
はい、これでOKっと。後で全通知設定を見直さないとな。
それはともかく、今は
大魔王らしく『処分』でもいいんだけど、そうすると豚領主と豚息子が反発しそうなんだよな。変態なりに、家族への愛情は持ってるっぽいし。
そもそも、そういう恐怖政治っぽいのは俺の柄じゃない。植物系大魔王の柄は唐草模様ですよ。もしくは豆絞り。
……ふむ、家族の情か。ドM豚の伴侶ってことは、もしかして? よし、そっち方向で攻めてみるか。
「女、喋ることを許ス。貴様、先程『家族のことは何でも理解している』と言ったナ?」
「ええ、言いましたわ。妻で母親ですもの」
「ほほウ?」
ここでニヤリと笑う
「おい、豚息子!」
「ははっ!」
「ここへ来てアタシの椅子になレ!」
「っ! ははっ、喜んで!!」
ビシッと気をつけをして返事をした豚息子が、本当に嬉しそうな顔で飛んできて、床に両手両膝をつく。それを本当に羨ましそうな顔で見る豚領主……マジで終わってるな、この親子。
その豚息子の椅子に腰をかける俺……耐えろ俺、これは演技だ! 染まってはいけない! 座るのは豚息子にじゃない、己の肝を座らせるのだ!
パシィンッ!
「高すぎル! アタシの足が遊んでしまうだろウ! もっと小さくなレ!」
「あはぁんっ! ありがとうございます! 仰せのままに!」
ケツを一発叩いて豚息子椅子の高さを下げさせる。足をプラプラさせるようなお子様ではないのだ。美少女がやってたらホッコリしてしまうだろうが。
小さく身を畳んで亀になった豚息子の背に座り、脚を組む。そして焼豚婦人を見下ろす。
「マートン、貴方……」
呆然と息子を見つめる焼豚婦人。そして、見つめられて恥ずかしがりながらも、それすら喜びに変えて頬を染めるドMな豚息子。業が深い。
「見たカ? これがお前の息子ダ。お前の息子の本性ダ」
「そんな、嘘っ、嘘よっ! マートンは運動も勉強もできて、何処に出しても次期領主として恥ずかしくない自慢の息子なのよ! こんな、こんなっ!」
「だガ、これが現実ダ」
焼豚婦人の叫びに被せるように言い切る。
「貴女がっ! そうよ、貴女が何かしたのね! そうじゃなければ、マートンがこんな風になるはずがないわ!」
「そうだナ。キッカケはアタシダ」
「やっぱり! 返して、わたくしのマートンを返してよ!」
床に転がされたままの焼豚婦人が叫ぶ。耳まで真っ赤にする豚息子。オロオロするだけの豚領主。そして何かに期待して目をキラキラさせている奴隷子ちゃん……大物だな。
バシィンッ!
「あひぃ!」
場の空気を支配するために、豚息子のケツを一発叩く。コイツはゴリゴリだからケツ。プリプリだったら尻。アサダ式分類法というらしい。詳しくは知らん。
思惑通り、焼豚婦人の叫びが止まる。
「アタシはキッカケを与えただけダ。今ここでコイツがこうしているのはコイツの選択ダ」
「そ、そんなわけが」
パシィンッ!
「あふぅっ!」
焼豚婦人が何か言おうとするのを、また豚息子のケツを叩く音で遮る。漏れる豚息子の鳴き声は無視だ。
「おい豚息子、母親に顔を見せてやレ」
「は、はいぃ」
俯いていた豚息子が顔を横に向ける。おっと、身じろぎでバランスが。でも大丈夫、体術
あー、酷いな。惚けて耳まで赤く染まった締まりのない顔だ。口は半笑いでよだれが垂れてるし、鼻の穴は開いて息が荒い。目も焦点が合ってない、イってる目だ。ようするにアヘ顔ってやつだな。男のアヘ顔に需要はねぇよ。見るに耐えん。
「見ロ、これが強要されている顔に見えるカ? これは紛れもないコイツの本性ダ。アタシはそれを解放してやっただけダ」
「そ、そんなはずは……」
パシィンッ!!
「あへぇっ!!」
「見ロ! これがお前の息子の本性ダ! 次期領主という重圧に押さえつけられていタ、コイツの本当の姿ダ!」
「マートン、貴方……」
ケツを叩かれて歓喜の白目をむく豚息子と、その様子を見て呆然自失の縛られた焼豚婦人。絵面が酷い。ここが地獄か。生み出しているのが自分だけに、何処にも救いを求められない。誰か助けて!
「受け入れロ。コレがお前の息子ダ。コレ
「あ、う……」
焼豚婦人の心の揺れはそろそろ限界っぽい。もうひと押しかな? 飛んでしまえ。そして、堕ちろ。
「おい、豚! お前もココへ来て尻を出セ!」
「ははっ!」
シュバッって音が聞こえそうな速さで豚領主が飛んできた。待ち構えてたな? 顔が期待に紅潮しているじゃねぇか。
息子と同じ体勢で待機する豚領主。鼻息が荒い。相当興奮しているようだな。床の絨毯がなびいてる。
そして、焼豚婦人の拘束を解く。もう暴れることはないだろう。ないよね?
パァンッ!
「んふぅ!」
無駄にプリプリした豚領主の尻を一発叩く。歓喜の声が漏れる。聞こえない、俺には聞こえない!
「コイツも同じダ。領主という仮面と重責を取り払っタ、コレがコイツの本当の姿ダ」
本当か? 自分で言ってて嘘くさいんだが? ただの変態じゃね?
まぁ、話術先生がそれっぽく変換してくれるだろう。先生、お願いします! マジでお願いします!
「貴方……」
焼豚婦人がフラフラと立ち上がる。顔は豚領主の尻に釘付けだ。そんなに見つめるほど良いものじゃないぞ?
「受け入れてやレ。家族だろウ? さァ」
俺も立ち上がり、焼豚婦人へと歩み寄る。そして耳元で囁く。くっ、ちょっと背伸びしないと届かん!
「叩いてやレ」
焼豚婦人が身体をビクンッと震わせる。そしてゆっくりと、錆びついた鉄の扉のような動きで俺に顔を向ける。
目は大きく見開かれて、頬が僅かに赤い。
俺は何も言わず、小さく頷く。
焼豚婦人は、またゆっくりと顔を豚領主の尻へと向け、フラフラと歩み寄る。
そして……
スパァアンッ!!
「んほぉおっ!」
「はあぁあぁんっ!」
豚領主の尻へ容赦ない一撃! 悶える豚領主! そして、ビクビクと身体を震わせる焼豚婦人! なんて嫌な絵面だ!
頬を赤くして顔を天へ向け、熱い吐息を漏らす焼豚婦人。目は潤み、唇の端は笑みの形に吊り上がっている。
脚が内股になり、モジモジと身体を捩っているのは、まぁ、そういうことだろう。追求はすまい。
――ヒューム(メス・四十歳)を眷属にしました。
よし、堕ちたな。
話術先生、お疲れ様でした!
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