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 さて、ここからどうすっかな?

 魅了技能スキルを使うと豚領主の二の舞いになるかもしれないんだよな。変態が量産されてしまう。もう変態は間に合ってます。いっぱいいっぱい。

 闇魔法だと廃人になってしまうかもしれないしなぁ。廃人にしてから俺が操るって手もあるけど、そうすると豚領主と夜の営みをしなきゃいけなくなるかも……うおっ、サブイボが! その選択肢だけはナシだ! 振りじゃないぞ、絶対ナシだ!! 押すなよ、絶対押すなよ!?

 となると、やはり話術先生だな。舌先三寸で丸め込むしかない。レロレロ。


 とりあえずは場所移動しないとな。玄関でするような話じゃないし、そもそもこの豚親子を人目につくところへ出しておくのは問題がある。通報待ったなしだ。

 いや、家の中だからいいのか? 個人の嗜好の範囲内?

 いやいや、ここは領主館で公館だ。公の場だ。公共わいせつはよろしくない。わいせつは隠れてやるから興奮するのだ。

 執事とメイドさんたちが心配そうな、不審そうな、興味津々な視線を投げてくるけど、まるっと無視して豚コレクションルームへ移動する。理解できわかるけど、理解しろわかれ。追求するな。


 コレクションルームのソファに浅く腰をおろし、背もたれに寄りかかって脚を組む。美少女らしからぬ所作だけど、それでいい。偉そうに見えることが大事。見た目が大事なのだ。

 焼豚婦人マダムチャーシューを、縛り上げた分体が小さな足を出してちょこちょこと運んでくる。見た目はコミカルでかわいいんだけど、実際に運んでる立場からすると結構つらい。重い、痩せろ。

 白鳥は優雅に見えて水面下で足を動かしていると言うけど、俺はヘヴィー級な焼豚婦人の肉下で足を動かしている。どう考えても白鳥のほうが楽してるじゃねぇか! もっと働け白鳥!


「あうっ!」


 疲れたので、放り出すように焼豚婦人を床へ転がす。重い、痩せろ。現実で女に言ったら刺されるセリフなので、声には出さない。俺は自己保身に余念がない。命大事に。


「さテ。まずは自己紹介をしよウ。アタシはロキシー。とある偉大なお方のエージェントをしていル」

「偉大なお方ですって? ということは皇王陛下の勅使ですの!?」


 焼豚婦人が目を丸くして俺を見る。ああ、一般人ならそう思うよな。偉い人イコール王様だ。もしくは金持ち。権力か財力を持ってるのが偉い人。


「ふン、あの様な俗物と一緒にするナ。不敬であるゾ」


 変態で変質者のパンツ大魔王様だからな。そこいらの俗物とはレベルが違う。低俗さでは人後に落ちないと自負している。ザコとは違うのだよ、ザコとは!

 それに権力も財力もないしな! 威厳もないぞ! 家じゃヤギと赤ちゃんにアゴで使われてます! ……自分で言ってて悲しくなるから、これ以上考えるのはやめよう。


「陛下以上の存在? それはいったい……」

「お前が知る必要はなイ。 今はまだその時ではなイ」


 シャダイ構文で返答だ。つまり神返答レス


「……何も教える気はないということですわね。でしたら、何が目的ですの!? わたくしの夫と息子をどうするおつもり!?」


 見た目だけじゃなくて中身も太いな。この状況でまだ強気に出られるのか。今までにいなかったタイプだな。

 いや、危機感が足りないだけか? 結構いるんだよな、自分の状況を客観的に見られない奴って。自分だけは大丈夫っていう無根拠な自信。

 ちょっと脅しておくか。


「黙レ」

「あぐぅっ!?」


 分身で首を締め上げる。焼豚婦人の顔がうっ血して赤くなる。


「先程から無礼が過ぎるゾ。誰が喋っていいと言っタ? お前が喋っていいのハ、アタシが許可したときだけダ」

「イギギ……カハァッ! ゲホッゲホッ!」


 顔色が赤黒くなる寸前で解放する。チャーシュー表面の色の一歩手前。


「理解したカ?」

「ゲホッ……わたくしにこんなことをして、ただで済むと……」

「まだ理解できないようだナ」

「ンギィッ!?」


 今度は首だけじゃなく、全身を締め上げる。元から締まってるとか言ってはいけない。締めたくて締めていたのではない。今は締めたくて締めている。おかげで肉が凄いことになっている。絶対跡が残るよな、コレ。

 豚領主と豚息子が、心配そうな羨ましそうな、複雑な顔をしている。割合的には心配三割、羨ましそう七割ってところか? 頬を赤くしてるし。

 いや、そこは心配十割にしてやれよ、夫婦親子だろう! この正直者どもめ!


「が……あ……ゲハァッ! ゴホッゴホッ、ゲホッ!」


 今度は顔色が赤黒くなったところで解放する。まさしく焼豚色。

 ……焼豚ってどうやって作るんだったっけ? なんか、鍋の中に吊るして炙ってたような気がする。鹿肉でもできるかな? いや、その場合は焼豚じゃなくて焼鹿になるのか? でも鶏チャーシューっていうのもあったよな。ということは、とりあえず炙ればオーケー? あー、クック◯ッドが見れたらな!


「理解できたカ? できたらハイと答えロ」

「ゲホッゲホッ……は、はい……」


 無い物ねだりしても仕方がない。今は焼豚婦人の調理に集中しよう。創作料理ってことで。

 あーあ、涙と鼻水でひどい顔になってるな。化粧も溶け落ちて、もはや変顔ギャグにしか見えない。売れない芸人でもここまでのメイクはしないだろう。しないよな? いや、するかも?

 返事はしたけど、まだ屈服はしていないっぽい。不満そうな目で睨んでる。まぁ、そう簡単には屈服しないか。俺もするとは思っていない。まだ話術先生が活躍してないし。調理で言えば、まだ下ごしらえだ。


「さテ、アタシは心優しイ。先程のお前の質問に答えてやろウ。まず偉大なるお方の目的だガ……当面の目標ハ、この皇国の支配ダ」

「「「えっ!?」」」


 おい、なんで豚領主と豚息子まで驚いている? お前らには話して……話して……話してないな。眷属にしてからは、この領地の運営改善しか指示してなかった気がする。

 あと調教。したくなかったけど、しなきゃならなかった……仕方なかったんだ。

 奴隷子ちゃんだけがウンウンと頷いている。いや、君にも話してないよね? なんで理解った風なの?


「この皇国ハ、偉大なるお方の逆鱗に触れタ。故に滅ぼス」


 できるだけ表情を変えず、平板な声で話す。

 美少女が、さも当たり前のように、常軌を逸した内容を喋る。これは中々にインパクトが強いだろう。


「とはいヱ、皇国民を皆殺しにするつもりはなイ。偉大なるお方にモ、アタシにもナ」

 

 やろうと思えば、多分できる。けどそんな面倒なこと、する気にもならん。

 ロキシーの言葉に、豚一家が安堵のため息を吐く。あんな風でも、住民や国のことは大事なんだな、豚領主。正直、意外だ。もっと利己的で刹那的かと思ってた。普段の、あの言動を見てるとなぁ。


「しかし、皇王とやらとその一族、官僚どもには退場してもらウ。この世から永久ニ、ナ」


 ここでニヤリと悪い笑顔。ローアングルからの光魔法照明で演出もバッチリ。

 今度は三人が揃って息を飲む。お前ら仲良しだな。


「この街はそのための橋頭堡ダ。ここからジワジワと人知れず勢力を拡大シ、十分に根を張ったところで一気に皇国を転覆させル。そういう計画ダ」


 喋りながら、ゆっくりソファから立ち上がる。早すぎても遅すぎても駄目。演出効果が十分に発揮されるタイミングでだ。

 コツ、コツ……と、ここも早すぎず遅すぎずの速さで焼豚婦人のもとへ歩いていく。

 そして頭の近くにまで寄り、手を後ろに組んで焼豚婦人を見下ろす。腰は曲げない。目線だけを下に向ける。


「我らに従ヱ。拒否は許さン」


 うむ、我ながら中々の悪役ムーブではなかろうか? やはり大魔王たるもの、これくらい傲慢でないと。

 なんか、初めて大魔王(とその仲間)らしい行動をしている気がする。

 いかん、ちょっと楽しくなってきた! くせになったらどうしよう!?

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