100
領主館の玄関ホールへ入ると、奴隷子ちゃんとデ……ふくよかなオバサマが掴み合っていた。それぞれの両手の指を絡めあった力比べの体勢になってる。手四つって言うんだっけ? オールドスタイルのプロレスで試合開始直後によくやるやつだ。
奴隷子ちゃんはシンプルな膝丈ワンピース、オバサマは襟やら裾やらがやたらビラビラしてる派手な臙脂色のドレス……どっちが
ホールの隅では、執事のオッサンとメイドたちがオロオロしてる。駄目だよ、もっと声援を送らないと。ショーが盛り上がらないだろう? 観客もショーの出演者だよ!
「最近あの人とマートンの様子がおかしいと思っていたら、こんな小娘に誑かされていたなんて! 貴女、許しませんわよ!」
よし、そこで毒霧だオバサマ!
……出さないのかよ、つまらん。まぁ、つばを飛び散らかして喚いてるから、ある意味毒霧攻撃と言えなくもないか。
「お、おらはご主人さまのお役に立とうと頑張ってるだけだで! 誰も誑かしてなんかいねぇだよ!」
よし、奴隷子ちゃん、ロープに振ってドロップキックだ! ダウンさせたら寝技に持ち込め! ポロリもあるよ! ギャラリーは大興奮だ!
……うーん、体格差はいかんともし難いか。押し込まれて腕が下がってる。ロープに振るどころじゃないな。
「や、やめなさいラム! その子とはそんな関係じゃない!」
「おやめください母上! 彼女は預かっているだけです!」
豚領主とその息子が必死の顔で弁明してる。けど説得力ねぇよ、なんだよその格好?
紐ビキニパンツは百歩譲っていいとして、両乳首に洗濯バサミって……そこも開発してるのかよ! 奴隷子ちゃんに任せてたら、変態が悪化してるじゃねぇか!
しかも親子でお揃いって、こんな嫌なペアルック初めて見たよ! そんな格好で玄関まで出てくるなよ!
「そんな格好で何を言ってますの!? 言い訳が出来るとお思い!?」
「うっ」
「ぐぅ」
うん、俺もオバサマに全面的賛成。良かった、常識的な人がこの館にもいたんだな。魔窟かと思ってた。
けど、このままだと奴隷子ちゃんが押しつぶされるかもしれない。あの質量は脅威だ。奴隷子ちゃんが肉に埋もれる前に助けてやらないと。
「騒がしいナ、何事ダ!」
「「「ロキシー様!」」」
返事が揃うとか、お前ら仲良しか? 仲良しか。スキンシップしまくりだもんな。仲が悪かったら只の虐待だ。
「おい豚どモ、ここへ来て
「「ははっ!」」
速っ!? なんか、シュバッって音がしたぞ!? こいつら、実は身体能力高いのか?
まぁいい、それは後で確認だ。
「これはどういう状況ダ! 豚、説明しロ!」
「ははっ! コレクションルームにて娘を調教しておりましたところ、我が妻に踏み込まれました! 妻が娘を追い出そうと玄関ホールまで引きずって来たところで、もみ合いになったところにございます!」
ふむ、見たまんまだな。調教してたのかされてたのか、そこは疑問が残るところだけど、説明は簡潔で分かりやすかった。やっぱ豚領主は有能だな。……これで変態でさえなければなぁ。
「うむ、よく分かっタ! 褒美ダ、受け取レ!」
パチィン!
「あふん! ありがとうございます!」
頬を張られるのがご褒美とか終わってる。マジで嬉しそうなのがマジで終わってる。
そして羨ましそうな顔をするな豚息子。この似たもの終わってる親子め。
「あ、貴女! わたくしの夫に何をしていますの!? 夫は領主なのよ! それを叩くだなんて、不敬罪ですわ! 縛り首よ!」
オバサマが奴隷子ちゃんを解放してドスドスと歩み寄ってくる。マジで床から振動が来てる。床の大理石が割れそうだ。
「ふん、それがどうしタ! アタシはもっと偉大なお方に仕えているのダ! 領主ごときに
「なっ、ごときですって!?」
オバサマが真っ赤な顔で俺を掴もうと両手を振り上げる。クマのポーズだな。オバサマ出没注意。
いいだろう、受けて立つ!
ガシィッ!
今度は
ふむ、なかなかの腕力アンド圧力じゃないか。見掛け倒しじゃないな。
けど、俺を押しつぶせるほどのパワーはない。俺はこう見えてパワーファイターなのだ。
「くっ!? こんな小娘を押せないなんて!?」
「小娘ではなイ、ロキシー様と呼ベ!」
本来なら、いくら俺にパワーがあっても質量差は覆せない。相撲なら寄り切られて土俵を割るところだ。小兵の悲しさよ。
だがしかし、俺はこう見えて頭脳派でもあるのだ。
身体の一部である靴の裏を吸盤状にして、ツルツルの大理石の床に吸い付いているから動かないのだ! タコって言うな! いつもキレイに磨いてくれているメイドの皆さん、アリガトウ!
「ギギギィ……負けない、負けないわ! 夫と息子はわたくしのものよ!」
「よせラム、やめるのだ!」
「母上、おやめください!」
「いいえ、やめませんわ! 貴方たちに
ふうむ。このまま力尽くで排除するのは簡単だけど、それじゃ解決しないよなぁ。怪我人が出て騒ぎが大きくなるだけだ。
第一、オバサマの言っていることは正論だ。こんな得体の知れない大魔王と奴隷少女が、いつの間にか屋敷の中に住み着いてるんだからな。まるでGだ。駆除したくなる気持ちは分かる。
だがしかし! 大魔王がオバサマごときに駆除されるわけにはいかない! Gとは違うのだよ、Gとは!
「ふム、随分と入れあげているではないカ。それほどまでにコイツラが大事カ?」
「当然ですわ! 夫婦、親子なのよ!」
「でハ、何故コイツラの言葉を聞かなイ?」
「え?」
お、ちょっと力が緩んだ。動揺を誘えたっぽい。ここが畳み掛けるポイントだな。揺さぶるぜ! ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート!!
「何度もやめロ、違うと言っているのニ、何故話を聞かなイ?」
「そ、それは……」
オバサマの目が泳いでる。右へ左へ忙しい。クロールかな?
「そ、そんなの、言い訳に決まってますわ! 妻で母親のわたくしにはお見通しなのですわ!」
「ほほウ? まるで全て
「当然ですわ、家族ですもの! っ!? あっ!?」
スキあり! オバサマが勝ち誇って余裕を見せた瞬間に、亜空間から召喚した若木で全身を拘束だ! 喰らえ、
むうっ、想像以上に体積がデカい!? くっ、かなり細めに変形させないと拘束しきれない!
「ああっ! 何よコレ!? 卑怯よ、解きなさい!」
「いいヤ、聞けないナ。お前がコイツラの話を聞かないようニ」
「ぐっ……」
ふう。なんとか拘束できたけど……簀巻きにするつもりが網巻きになってしまった。ボンレスハム……いや、ハムはここまで肉がはみ出してないな。拘束した枝というか蔦が、肉に埋もれて見えなくなってるし。強いて言うなら、ブロック売りの成型焼豚? 臙脂色だし、ちょっと美味そう。
まぁ、なにはともあれ、これで落ち着いて話ができる。はず。話さえできれば、あとは話術
さて、どう料理してほしい
----
百話&★二千記念のSSをサポ限で近況ノートにアップ!
自己満足の塊です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます