097
飽きました。
もう、コンコンビシャンビシャンするのに飽きました。
だってさ、作った石材全部ビシャンビシャンしたのに、まだ石工スキルが生えないんだもんよ。どういうこと?
ほらほら、もう
ねぇ最適化先生、仕事してます? 寝てませんか? 締切はもう二週間前ですよ! 遊んでないで仕事してください!
ビシャンビシャンするだけじゃだめなのかなぁ? 石を切り出したり彫ったり磨いたりしないといけないのかも。もしくはフリーメイ◯ンを立ち上げたりとか?
秘密結社ねぇ……魔王軍とどっちが上だろう? 内情が世間に秘密って点では、どっちも同じカテゴリだよな。
あ、秘密結社が悪とは限らないか。某特撮シリーズのせいで悪のイメージが強いけど。いつも『イィーッ!』って気持ちよさそうな戦闘員たちの出てくるアレ。
いや、魔王軍も悪とは限らないよ? 特にうちは世界の平和と皆に優しい世界の構築を目指す魔王軍ですから! アットホームで明るい雰囲気の職場です! あなたも私達の仲間になりませんか?
メェ〜メェ〜ベェ〜
ヤギもいるし。めっちゃいるし。デカいし。
「あははっ! こらこら、そんなに集まられちゃ歩けないよ!」
アルプスの少女……じゃなくて男の娘もいるし。ヤギに
今日のクリスは、黄色いリボンの巻かれた麦わら帽子とチェックのネルっぽい長袖シャツ、濃紺のサロペットと長靴。手には軍手だ。めっちゃ牧場スタイルだな。
これがパリコレ並みに似合っちゃうから美少女……美少年? はズルい。ヤギに揉まれながら歩いているのに、まるでランウェイの上にいるかのような幻を覚える。この夏のトレンドは牧場スタイルで決まりだな。
「パパイヤさーん、次のヤギ連れてきたよー!」
「おう、それじゃそこに並べておいてくれ」
「はーい! じゃ、みんな一列に並んでー!」
クリスの
闇魔法や魅了
もしかして、感情や意思を言葉に乗せて送り込んでる? テレパシー的な何か?
ファンタジーならあり得なくもないよな。魅了した相手とは強いチャンネルで繋がっていて、意思を伝えやすくなっているとか。あり得そう。
けど、あの豚領主親子と強く繋がってるっていうのは否定したい! 心の底から強く否定したい! 繋がっているなら切断したい!
ベェ〜!
おっと痛かったか? すまんすまん。ちょっと力が入り過ぎたな。乳絞りの最中に他のことを考えるのは乳に失礼だよな。反省。乳バンザイ。
『オッパイに貴賎なし』というのはその界隈では有名な格言だけど、乳の出るオッパイだけは別格だと俺は思うんだよな。
なにせ、乳は赤ちゃんを育てるための神聖な飲み物だ。それを作り出すんだから、乳の出るオッパイはとても凄い! とても偉い! 乳神様と呼んでも過言ではない! 拝んじゃうよ俺は! へへぇ〜。
女の人はそんな神様を漏れなく宿してるんだよなぁ。すげぇなぁ。
「終わりましたよお嬢さん。あちらにお食事(藁)をご用意しておりますので、ゆっくりお休みください」
メェ〜。
一声鳴いて、素直に藁の方へ向かって行った。やっぱりこいつら、人語を解してるんじゃね?
「ぷっ! なんでお嬢さん? なんで敬語なの?」
「いや、女性は何歳でもお嬢さんと呼ばないといけないという風習の国があってね。なんとなくその流儀に
確か、ヨーロッパにそんな国があったはず。けどオッサンはそのままオッサン呼びだし、おばさんとかババァって意味の単語もあったように記憶している。という事はつまり、女を怒らせない配慮ってわけだな。紳士は女性を怒らせない。面倒くさいから。
けど、御婦人をお嬢さん呼びしてた芸能人が、実はセクハラの帝王だっていう噂もあったよな。お嬢さんと呼ぶ奴が紳士とは限らないということか。そういうことらしいですよ、お嬢さん?
「へぇ〜。じゃ、僕もパパイヤさんのことはお兄さんって呼んだほうがいいのかな? どう?」
「俺は別にどうでもいいかな。オジサンなのは間違いないんだし」
「そっか。なら今まで通りパパイヤさんって呼ぶね!」
うむ、よい笑顔だ。この笑顔にクラっとくるオジサンも多いだろう。いや、この笑顔で『オジサマ』と呼ばれたら、どんなオッサンも落ちそうだ。真っ逆さまにな。ふっ、罪深い子だぜ。
なんて話をしながらも、俺の乳搾りは止まらない。残りは八頭か、あと三十分くらいで終わりそうだな。
「ねぇ、余ったヤギのお乳ってどうしてるの? 毎日飲むには多すぎるよね?」
クリスには可能な限りのヤギを捕まえてもらったからな。全部で五十頭くらいか? でも、メスは子ヤギやまだ子供を産んでない若いヤギも含まれてるけど、オスは子ヤギだけ。男はいらん。
乳が出るのは全部で三十頭くらい。一日につき、その半分くらいから乳を分けて貰っている。翌日はその残りから絞るって感じ。
一頭につき五リットルくらいの乳が絞れるから、一日に七十五リットルくらい絞れることになる。結構な量だ。
当然、今いる眷属だけでは飲みきれない。
いや、オークたちに飲ませられたらすぐに無くなるんだけど、あいつらはヤギの乳との相性が悪いらしい。試しに飲ませたら、お腹を下して酷いことになった。大惨事だった。
なので、これだけ絞るとかなり余る。具体的には、毎日五十リットル以上余る。けど、捨てるのはもったいない。もったいないオバケに周りを取り囲まれて踊られるくらいもったいない。
「余った乳は、脂肪の濃い部分は生クリームとバターに加工して、それ以外はヨーグルトに加工してるよ。毎日食べてるだろう?」
「あー、あれってヤギのお乳からできてたんだ? なにかの粉を溶いたものかと思ってた。バターと生クリームもヤギのお乳からできてたんだね。知らなかったなぁ」
ヨーグルトは皆に毎朝食べさせてる。健康にいいらしいけど、詳しくは知らん。なんとなくだ。
ヨーグルトを作るのは簡単だ。人肌くらいに温めた乳に白い粉の吹いた果物の皮を入れて混ぜて、あとはなるべく冷やさないようにして放置するだけ。白い粉の中にいる乳酸菌が、乳を変質させてヨーグルトに変えるらしい。
漫画知識だからちゃんと出来るか不安だったけど、やってみたらあっさりできた。なんとかなるもんだな。これも調理スキルのおかげかもしれん。ファンタジーバンザイ。
「食べきれなかったヨーグルトは、チーズに加工してる。まだ作り始めたばかりだから熟成が足りなくて美味くないけどな。そのうち、いい感じになったら食わせてやるよ」
ヨーグルトに塩振って温めて、分離した固形分から水分を抜いて熟成させたらチーズの出来上がりだ。いや、搾りたてでも立派なフレッシュチーズなんだけど、寝かせたほうがよりチーズっぽい感じがするじゃん? 穴あきチーズ、食いたいじゃん?
「チーズかぁ。話に聞いたことはあるけど、食べたことは無いなぁ。出来上がりを楽しみにしてるね」
「ん? チーズ、食べたことないのか?」
「うん。村ではヤギも牛も飼ってなかったから。行商人のオジサンの話でしか知らないんだ。なんか、臭いけど美味しいって言ってたかな?」
「そうか……もしかして、村出身者は皆食べたことがなかったり?」
「んー、ギーさんはどうかな? 外から来た人だから、食べたことあるかも。他のふたりはないんじゃないかな?」
顎に指を当てて考え込む仕草があざとい。オジサン落ちまくり。
ふうむ。もったいないオバケ対策で作り始めたチーズだけど、そういうことなら作る価値は高そうだな。皆の初めてを頂こう。ぐふふ。いや、頂かれるほうだけどもさ。おあがりよ!
ちなみに、ヨーグルトを絞ったときに出る液体はホエイという良質のアミノ酸ドリンク、つまり出し汁だ。なので、日々の料理に利用したりオークたちに飲ませたりしている。ホエイだとオークもお腹は下さないっぽい。
けど、アミノ酸パワーなのか、最近のオークたちは体つきが締まってきてるんだよな。ゼブが追い越される日は遠くないかも? いかん、鍛えなければ! まだ俺の前に行かせるわけにはいかん! お前たちは俺の広背筋を見ていろ! ほら、バックダブルバイセップス!
「そっかぁ、いつもの美味しいご飯はパパイヤさんたちの見えないお仕事で作られてたんだね。いつも美味しいご飯をありがとうございます! えへへ」
頭をピョコンと下げて微笑むクリス……いいね、すごくいいね! 百億満点!
こちらこそ美味しい笑顔をありがとう! オジサンの胸はいっぱいです! ごちそうさま!
ベェ〜!
ああ、はい、お待たせして申し訳ありませんお嬢様。すぐ終わらせますんで、はい。
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