095

 先が凸凹のハンマーで、花崗岩のブロックの表面をコンコン叩く。


 コンコン……。

 コンコンコンコン……。

 コンコンコンコンコンコン……。


「ふう、親方、こんなもんカ?」

「ん? おう、いい感じじゃねぇか。大分早くなったな。コツを掴んだんじゃねぇか?」


 そりゃ、これだけコンコンすればな。


 表面を荒らさないと、つなぎの三和土たたきの食いつきが悪いらしい。すぐに崩れちゃうんだそうだ。

 だから肉叩きみたいなハンマーでコンコン叩いて表面を荒らしてるんだけど……終わらねぇよ! ブロックがどんだけあると思ってんだ! 三日掛けて、まだ十分の一も終わってねぇよ! ようやく一軒分くらいだよ! ちょっと早くなったところで、全部コンコンするのに一ヶ月近く掛かる計算じゃねぇか!

 石工技能スキルを生やしたいからロキシーにやらせてるけど、あまりの物量に気力がもう限界です。

 せっかく豚領主親子の尻を叩かなくて良くなったのに、次は延々と石を叩かなければならないなんて……なんという宿業。ロキシーは叩くという宿命からは逃れられないというのか?

 まぁ、なんとなくコツが掴めたから、ちょっとは早くできるようになったけど、どうにかしてもっと早くできないものか……カイゼンは日本のお家芸だしな。海外ではそれを効率化って言ってるだけなんだけど。


 よし、相手が物量で攻めてくるなら、こちらも物量で対抗だ! 泥沼の消耗戦だ! よろしい、ならば戦争だ! 苗木たちにもコンコンさせる人海戦術……樹海戦術だ!


「親方、このハンマーに予備はあるカ?」

「あん? 細目こまめのビシャンか……どうだったかな? 昔使ってたやつなら倉庫にあったと思うけどよ」


 このハンマー、ビシャンって言うのか。語源が全然分からんな。叩いた音はコンコンでビシャンビシャンって感じじゃないし。


「それで構わン! 出来るだけ多く用意するのダ!」

「んー、うちは大工だからな。そんなに使わねぇから二本しかねぇんだ。本職の石工のところならそれなりの数があるんじゃねぇか? 弟子の分に、予備もあるだろうしな」

「よし、すぐに掻き集めるのダ!」

「しょうがねぇな。知り合いの石工に声かけてみるか。おうっ、野郎ども! 手分けして石工の所から細目のビシャンを借りてこい! ロキシーちゃんのお願いだ!」

「「「へいっ、喜んで!」」」


 どこぞの居酒屋店員かよ。こんなむさ苦しいオッサン店員ばっかりの店は嫌だ。しかも返事したときの笑顔が無駄に嬉しそうだし。ボディビルダー並みに暑苦しい。

 どうせなら、ボタンが弾け飛びそうなくらい胸がパッツンパッツンで苦しそうなお姉ちゃん店員ばっかりの店にしてくれ。通うから。むしろ店に住むから。ボタンが弾け飛ぶサービスはおいくらですか? 記念に持ち帰っても?


 それはそれとして。


「ロキシーちゃん言うナ!」



 ふう、いい汗掻いたぜ。実際には樹液の一滴も流れてないけど。

 結局、五本追加で六本しかビシャンが集まらなかったけど、六倍なら一ヶ月が五日に短縮できるはず。実際、今日だけで残り八割ちょっとくらいだし。

 並列で経験値が貯まるなら、技能スキルも六倍の速さで生える……はず。生えたらいいなぁ。

 とりあえず、今日は赤い彗星の二倍の速さでビシャンビシャンしてやったし、明日も引き続きビシャンビシャンしてやるつもりだ。連邦のモビ◯スーツは化け物か!? そうです大魔王です。

 現場で苗木に作業させるわけにはいかないから盆地まで石材を運ばなきゃならないのは面倒だけど、亜空間を経由すればなんてことはない。マジで時空間魔法バンザイ!


「戻ったゾ、変わりはない……カ?」

「違う、そうじゃない! もっと手首のスナップを利かせて!」

「こ、こうだべか?」


 パシンッ! パシンッ!


「違う違う、そうじゃない! 痛いだけでは駄目だ! 音と衝撃で相手を屈服させるのだ!」

「分かっただ! こう、こうだべ!」


 パァンッ! パァンッ!


「ブヒッ! うむ、いいぞ! まだまだロキシー様には及ばないが、お前は筋がいい! どんどん経験を積んで上を目指すのだ!」

「はい! おら、頑張るですだ!」


 パァンッ、パァンッ、パァンッ!


「よし、次は私です! 百人居れば百の尻があります! 尻に応じて叩き方も変えるのです! 尻叩きの道は長く険しいですよ!」

「はい! おら、くじけないですだ!」


 ペチンッ! ペチンッ!


「硬い尻は手のひらで包み込むように叩くのです! そうすることで衝撃が内部に浸透して逃げなくなり、音も大きくなります! さぁ、私を屈服させてみせなさい!」

「はい! 若旦那様!」

「違う、今の私は豚です! 口汚く罵るのです! 屈服させるのです!」

「はい! こうか? コレがいいだか、この豚め!」


 パチィンッ! パチィンッ!


「ブヒィッ! いいですよ! あとは繰り返しです! この道を極めるのです!」

「はい! 鳴け、この賤しい豚め!」

「どうした、左手が空いてるじゃないか! さぁ、私の尻も叩くのだ!」

「はい! これが欲しいだか? ならくれてやるだよ!」


 パチィンッ! パチィンッ!

 パァンッ! パァンッ!


「「ブヒィ〜ッ!」」


 この三日間で見慣れた光景だ。

 奴隷子ちゃんが豚領主親子を調教している。いや、奴隷子ちゃんが調教されているのか? どっちでも変わらないか。双方熱心に励んでいるようだし、同意の上なら問題無い。

 奴隷子ちゃんの年齢的には問題しかないような気もするけど、俺が無いと言ったら無いのだ!


 奴隷子ちゃんは生まれついての奴隷だったそうで、もう一〜二年売れ残っているようなら、問答無用で娼館へ売られることになっていたそうだ。クリスと似たパターンだな。

 奴隷子ちゃんの母親も奴隷娼婦だったそうで、客とアレして生まれた三番目の子が奴隷子ちゃんらしい。らしいというのは、乳離れしてすぐに奴隷商へ売られたので何も覚えていないからだそうだ。母親や兄弟(姉妹?)についても、奴隷商が話してくれたから知ったのだそうだ。

 当然、顔も覚えていない母親とは全く会っていないのだとか。この世界の闇だなぁ。


 パチィンッ! パチィンッ!

 パァンッ! パァンッ!


 その奴隷子ちゃんが領主に買われ、あわや生贄という目に遭いながらも、今は領主親子の尻を活き活きと叩いている。不思議な縁だなぁ。犯罪的な絵面だなぁ。


「あっ、ロキシー様! おかえりなさいですだ!」

「おお、ロキシー様! お見苦しいものをお見せして申し訳ありません!」

「本当にナ」


 豚領主親子が慌てて蝶ネクタイの歪みを直す。ってか、蝶ネクタイ以外はチ◯コケースだけじゃん。ほぼ全裸じゃん。蝶ネクタイを直したところで変態には変わりねぇよ。

 ってか、なんでそのチ◯コケース、そんなにデカいんだよ。水牛の角みたいなデカさだけど、お前らのブツはヨー◯ピアンシュガーコーンに十分収まる大きさだろうが。見栄張るな!


「それで、留守中に変わったことはあったカ?」

「はい、訓練の甲斐あって、この娘の尻叩きテクニックがかなり上達いたしましたぞ!」

「そういうことじゃねぇヨ!」


 バチィンッ!


「アフーン! ありがとうございます!」


 いかん、ついいつもの癖でご褒美を与えてしまった。くそ、実は俺も調教されていたというのか!?


「見ましたか、アレが本物です。尻でなくてもご褒美になるのです!」

「す、すごいですだ! おらも、いつかあのいただきまで……」


 違うから! これは俺じゃないから! 技能だから!

 子供はそんな尻山ツインピークスの頂上を目指しちゃいけません!

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