093

「こ、ここは?」

「ここが何処か、お前たちが知る必要は無イ! 領主に指示された通り、家を建てるのダ!」

「は、はい! 承知いたしました!」


 豚領主の街ゴッツから大工さんや石工さんたちを拉致……じゃない、領主命令で招集して、盆地の一角に集落建設だ。五十人ほど連行、じゃない、移送してきた。

 もちろんお昼ご飯は出すし、その日の仕事が終わればゴッツの自宅に帰宅してもらう。ブラックはだめ。


 引率はロキシー。豚領主と息子は奴隷子ちゃんに押し付けてきた。きっと今頃ペチペチやってるはず。

 まだちょっとぎこちなかったけど、豚親子は喜んでたからいいのだ。これでいいのだ。眷族同士、仲良くやってくれ。俺はもうお腹いっぱいだから遠慮したい。


 建材はいくらでも亜空間経由で運べるし、錬金術で作り出すこともできる。あとは人手と人件費さえあれば、それなりの集落というか、村を作り出せるはず。

 村ができたら、そこにネコ耳たちとクリスたちを住まわせるつもりでいる。初顔合わせだな。

 ネコ耳たちは、俺に恭順する方向で話が進んでる。まだ確定してないけど、命綱の水を俺が握ってるから、反抗しても干物になるだけだ。恭順するしかないよな。

 種族も文化も違うから最初は上手くいかないだろうけど、そこは大魔王の強権でもって無理やり纏めちゃうつもり。ときにはブラックに行かないとね!


 集落の場所は森の中だ。昔、火事で焼けちゃったところ。丁度いい感じに開けてるし外部から見つかりづらいしで、村を作るのに都合がいい。

 あんまりよろしくない可能性だけど、ヒトとの交渉が決裂して戦争になっちゃうって未来も、なくはない。

 そんなときに、隠れ里なら見つかりづらいからな。争いに巻き込まれる危険が減るし、俺の避難所にもなる。


「では早速整地か、ら……うぅ、ぐっ……」

「うぐぅ、頭が……」

「うっぷ、吐き気が……」


 うおっ!? 何だ、どうした!? 半分くらい倒れちゃったぞ!?

 立っている連中も息が荒いな……まさか病気か!?

 ここは外界とは隔絶した秘境だからな。外界にない未知の病原菌が蔓延っている可能性は否定できない。

 俺や眷属は病気耐性があるから平気だけど、大工さんたちは常人だ。病気にやられたとしてもおかしくはない。

 ぬうっ、このままじゃまずいな。どこかに収容しないと。

 とはいえ、ゴッツに戻すと病気が蔓延する危険がある。ええい、仕方がない、亜空間で隔離だ! 後で徹底的にアルコール消毒しておかないとな。


 けど、ちょっと発症が早すぎる気がするな。到着してから、まだ十分くらいしか経ってないぞ? 病原菌が原因だとしても、潜伏期間たったの五分だ。感染から発症までが早すぎる。

 菌じゃない? 何かの外的要因か? ファンタジーだもんな。俺の知らない原因があってもおかしくない。魔素酔いとかな。

 ……魔素酔いか。有り得そうだな。

 この盆地は生物が少ないから、街と比例して魔素の濃度が低い可能性がある。急激な魔素の低下に身体がついて行けなくて……って、あれ、それって?


 ああっ、気圧か!


 ゴッツは平地、でもここは盆地。推定三千メートル以上の高地じゃん!

 高山病だよ、酸欠で倒れたんだよ!

 急に気圧の高い、酸素の濃い場所から気圧の低い低酸素の場所に連れてこられたから、適応できなくて酸欠で倒れたんだよ!

 良かった、変な病気じゃなくて。『仕事先で変な病気をもらってきた』なんて話になったら、ご家庭に不和を産んでしまうかもしれないからな。奥さん、落ち着いて!


 うん、亜空間内の大工さんたちは落ち着いたみたいだな。やっぱり高山病だったっぽい。いやぁ、申し訳ないことをした。報酬に少し色を付けてあげないとな。

 まぁ、予算は豚領主持ちだから、俺の懐は痛まないんだけどな。


 しかし、これは参ったな。これじゃ村を作れないぞ? 連れて行く度に倒れられるんじゃ、建築どころの話じゃない。

 ちょっとずつ高地に慣らして……とかやってると、かなりの長期間拘束することになるしな。家に帰してあげられなくなる。家庭内不和再びだ。


 俺に建築や石工の技能があればいいんだけど……いや、獲得するのは多分出来る。数日頑張れば、きっと『最適化』先生がご褒美をくれると思う。

 けど、俺が何か技能をゲットすると、それがのじゃロリ賢者へ筒抜けになっちゃうんだよな。プライバシー皆無、赤裸々で全裸な垂れ流し状態。ちょっと特殊過ぎる性癖だよな。せめてネクタイと靴下は履きたい。

 なんとか賢者への通知をオフにすることができれば……


 ――技能獲得の通知を無効にしました。


 できるんかーいっ!


 そんな機能があるなら早く言ってよ天の声ちゃん! 俺がどれだけ悩んだと思ってるの?

 さては、俺が全裸で悩んでるのを見て楽しんでたな? まったく、困った子猫ちゃんだぜ。


 ――技能獲得の通知を有効にしました。


 わーっ、ウソウソ! 貴女はノーマルです! アブノーマルなのは私です! 全裸じゃなくて半裸がいいです!


 ――技能獲得の通知を無効にしました。


 ふぅ。まったく、本当にシステムメッセージなのか? どうも、時々ひどく人間臭いときがあるんだが?

 まぁ。気にしてたらきりがない。そして俺は考えるのをやめた。これ以上考えてたら、また天の声さんがプッツンするかもしれないからな。やれやれだぜ。


 さて、それじゃ自分で技能を獲得する方向で動くとして、まずは本職の技を見たいな。お手本があるのと無いのとじゃ、完成度に大きな差が出そうだし。

 そのためには、この大工さんたちに家を一軒建ててもらうのが一番なんだけど……もうゴッツの街でいいか。

 塀の外に一軒建ててもらって、それを参考に俺が家を建てて技能を覚える。そういう流れなら問題ないだろう。


 建てた家は亜空間に取り込んで森に移築すれば無駄には……って、アレ? 最初からそれで良くない?

 ゴッツの塀の外に村を作って、それを亜空間に取り込んで丸ごと移築しちゃえばいいんじゃない?

 くっ、俺としたことが、こんな簡単な方法を見落としていたなんて! 不覚、なんたる無様!


 まぁいいか。

 通知のオンオフが出来ることを知れたし、建築関連技能を覚える機会もできた。悪いことばかりじゃないさ。

 やっぱり、人生前向きじゃないとね。後ろ向きじゃ道に躓いちゃう。コケると痛いからな。

 まぁ、俺に前後はないんだけど。木だし。

 何処へ向かっても、常に前向きで後ろ向き。それが大魔王なのさ!

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