086

 う……むぅ……はっ!? どうなった!? 俺、どのくらい寝てた!?


 ――只今の時刻は四月十二日、午前五時二十二分、本惑星消滅まで、あと四年五か月です。


 えっと? 意識が失くなったのは何日だっけ? ああ、十一日だったな。ってことは、半日ちょっとしか経ってないのか。意外に早く目が覚めたな。もう俺も歳かね? ゲートボール始めるか? ルール知らんけど。


 寝てる間に何か異常は……深刻そうなのは無いな。

 分身の数は変わってない。誰かに殺られたりはしてない。けど、東の森林を探索中の分身の葉は鹿に齧られてる。うぬぅ、鹿、許すまじ!!


 深刻そうじゃない異常はあちこちで起きてるな。はてさて、どれから手を付けていけばいいのやら。

 んー、悩んでもしょうがない、適当に片付けていくか。


 それじゃ、先ずはパパイヤとマーリンのところからだな。



「あー、おはようクリス。君はここで何をしてるのかな?」

「あっ! おはよう、パパイヤさん。見ての通り、添い寝だよ!」


 おおう、なんて屈託のない笑顔だ。自分の行動に一片の疑念も持ってないな。

 まぁ、美少女と同じ毛布にくるまって迎える朝というのはご褒美……って、クリスは男だった! 危ない危ない、可愛い笑顔と毛布から見える肩と鎖骨に騙されるところだった。

 ん? 肩と鎖骨?


「なぁクリス、お前、もしかして裸か?」

「うん、そうだよ! 最近、寝るときは裸なんだ!」


 うっはっ! 裸の美少女と朝チュンとか、それなんてエロゲ!?

 いやいや、落ち着け俺! だからクリスは男だってばよ! 裸の美少年と朝チュンとか、それなんてBLゲー!?


「マーリンさんが用意してくれた毛布が柔らかくて気持ちいいからさ、裸で寝ると気持ちいいんだよね」


 あー、俺の形状変化で作った毛布な。キキのために柔らかい毛布が欲しくて作った、綿毛布っぽいフワフワのやつ。

 赤ちゃんの柔肌にも安心だから、そりゃ気持ちいいだろう。裸になりたいっていうのも分からなくはない。人前で裸にならないならそれでいい。人前で裸になるのはただの変態だからな。つまり俺だ。


「まぁ、とりあえず服を着てくれ。聞きたいこともあるしな」

「うん! じゃあ、服取ってくるね。隣の部屋に脱いできたんだ」


 おうふ、何故毛布を胸から下に巻きつけるんだ? それは女性巻きだろう! 無駄に女子力……美少女力が高くて困る。

 うん? 隣の部屋?

 ってことは、来るときは隣の部屋から全裸だったってことか?

 露出狂かよ! いや、同じ建物の中だから裸族か? セーフ?

 いかん、クリスの変態化が進んでいるかもしれん。このままでは取り返しのつかない事に……なってもいいかも? 男の娘だしな。

 まぁ、ボスが変態だから、強くは言えないんだよなぁ。どうしたものやら。



「それで、どうやら俺は半日くらい寝てたらしいけど、その間に何かあったか?」

「うん、パパイヤさんとマーリンさんが急に倒れちゃったから、皆びっくりしてたよ。街の明かりも消えちゃったし、大魔王様に何かあったのかもしれないって、アローズさんが深刻そうな顔してた。僕もちょっと驚いたかな? でも心配はしなかったよ? パパイヤさんたちが強いのは知ってるから」


 謎の信頼感だな。ちょっとこそばゆい。

 ふむ、この地下都市の明かりは俺の光魔法で照らしてるからな。俺が寝てしまったから同時に消えてしまったんだろう。

 今はもう明かりが戻ってる。本体の盆地と同じ、早朝の白い陽の光が街を照らしてる。部屋の中に差し込む光がますます朝チュンっぽい。まぁ、鳥がいないから『チュン』は無いんだけど。

 クリスのTシャツショートパンツ姿もよく見える。この季節だと、その格好は寒くない?

 まぁ、この地下都市は気温が常に一定だから、平気だとは思うんだけど。

 一年中、暑くもなく寒くもなく、雨も振らないし乾燥してもいない。引きこもるには最適だな。あとはネットとPCがあれば完璧。俺も引きこもりてぇ!


「そうか。けど、明かりが消えたなら大変だったんじゃないか?」

「まぁ、ちょっとはね? でも、ギーさんの火魔法があったから、そんなに大変でもなかったよ? 夕御飯が焼いたお芋と干し肉だけだったから、それがちょっと不満だったくらい?」


 あー、それはすまんかったな。いつもはハリーが作ってたから、この街にはあんまり食材を置いてなかったんだよな。

 まぁ、笑いながら話してるのを見る限り、それほど深刻な騒ぎにはならなかったっぽい。なら良し!


「ラナさんは倒れたマーリンさんに縋り付いて泣いてたよ。もう大号泣。今もつきっきりなんじゃないかな? 好かれてるね、マーリンさん」


 うん、正解。

 別の部屋に寝かされてるマーリンの傍で寝落ちしてる。クリスみたいに添い寝するんじゃなくて、ベッドの上に肩から上だけ置いてる。……裸で添い寝でもよかったのに。

 いや、意識のないときに嬉し恥ずかしイベントがあっても意味がない。嬉し恥ずかしをリアルタイムで嬉し恥ずかしするからいいのだ! だからこれでいいのだ!

 実はもうマーリンも目が覚めてるんだけど、空気を読んでまだ寝たフリしてる。美女の寝顔を見て喜んでるわけじゃないよ?

 好かれてる……んだよなぁ? マーリンとお揃いのスーツ着て喜んでくれてるし。

 『変態』技能のおかげでほぼ人化できたから、その好意に応えるのはやぶさかでない。むしろオールウェイズウェルカム。むふふ……ぐふふふ。


 俺が日本人だからか、この世界の女の子はみんな美女美少女に見えるんだよな。まぁ、一部に『おや?』って人もいるけど。

 お姉ラナさんも例に漏れず美女だからな。惚れられて嬉しくないと言うと嘘になる。嘘はいけないよ、嘘は。

 誠実さがない? ヲタクにそんなものがあるか!

 ゲームじゃ推しを攻略したら全キャラ攻略するだろう? その後目指すのはハーレムエンドだ! 欲しいものは全部手に入れる! ヲタクの辞書に節操という文字はないのだ!


「あっ、何か緩い顔してる。いやらしいこと考えてたんでしょう? もう、しょうがないなぁ」


 おっと、クリスは勘がいいな。けど、ヤキモチを焼いてはいないっぽい。懐が深いな。

 うーん、クリスは攻略対象か? 対象かもなぁ。見た目は美少女だし。


 まぁ、誰の相手をするにしても、攻略は惑星崩壊の危機を回避できてからだ。

 ギャルゲーパートはメインストーリーをクリアしてから、じっくりねっとりとな。むふふ。

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