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「ねぇマーリンさん、パパイヤさんはいつ帰ってくるの?」


 クリス? なんかいつもより声が低く……薄っすら黒いオーラが出てる感じだな。パパイヤ分が不足してきたか? 甘味が足りない?


「ふむ、何か御用がお有りですか? 彼は今、走竜の狩場を攻略中ですので、今しばらく帰還の予定はありません」

「むぅ〜、別に用事ってわけじゃないけどさ。ただ、会いたいなぁと思っただけ」


 ちょっとほっぺたを膨らませて上唇を尖らせるクリス……信じられるか? この美少女が実は美少年なんだぜ? どっちでもいいって言う奴らの気持ちが分かる気がしてくるようなしてこないような。

 おっと、やばいやばい。俺はそっちへは行かないぜ。変態はそんな安易な道へは進まないのだ! 茨の道を喜悦の表情を浮かべながら全裸で進む、それが真の変態道だ!

 って、それ、ただのドMな。


 まぁ、クリスの機嫌を損ねると、この地下都市の安寧が壊されかねない。魅了と闇魔法を暴走させられたら目も当てられない。こんな可愛い見た目で、この地下都市一番の危険人物なんだよな。

 クリス、恐ろしい子!


「ふむ……彼もしばらく働き詰めですからね。しばらく休養してもらいますか」

「ほんと!? パパイヤさん、帰ってくる!?」

「ええ、大魔王様に進言しておきましょう」

「やったぁ! マーリンさん、ありがとう!」


 おうっ、感謝のハグか。満面の笑みが眩しいぜ! そっちへ走る連中の気持ちが分かるかもしれなくもない。

 けど、抱きつかれても胸の感触がない残念感で現実へ引き戻されるんだよなぁ。まったく、現実ってやつは。


 あの領域は確かに広いんだけど、それにしても進捗が無さ過ぎる。どこに居るんだよ、領域支配者エリアボス

 ここまで見つからないと、俺から逃げてるんじゃないかって気がしてくるな。有り得なくはない話だし。

 今までの領域支配者は俺に向かってくる奴らばかりだったけど、逃げるやつがいてもおかしくはない。自分より強い相手とは戦わないっていうのも立派な生存戦略だ。野生動物なら、生き残るために逃げるという選択肢をとっても不思議じゃない。


 パパイヤだけじゃ厳しいかもな。もっと増員しないと。

 幸い、苗木レベルの分身なら大量にいる。一定間隔で配置させて虱潰しにすれば、確実に領域支配者を見つけられる。はず。

 ローラー作戦、追い込み漁だな。走竜の狩場を豆の漁場に変えてやろう。

 それであれば、別にパパイヤである必要はない。能力的にはどの分身も一緒なんだし。

 本体ですら同じ能力だからな。本体の存在意義なんてヤギとネコが住むのおうちであることくらいしかない。

 ……大魔王って何なんだろうな?



 くっ、クリスナナめ、マーリン様とベタベタして! あんなに露骨に媚びを売るなんて、はしたないとは思わないの? 羨ましい!

 い、いいえ! べ、別に大魔王の手下同士が仲良くしてたって、アタシには関係ないわ! アタシは監視、そう監視しているのよ! 魔王軍の幹部のことを詳しく知っておくのは重要なことだわ。


 マーリン様はお優しくて知的で物静かで、かと思えば槍聖アローズさんに引けを取らないくらいにお強いわ。

 完璧ね! 流石はマーリン様!

 い、いえ、そうじゃなくて、手強い相手だっていうことよ!


 大魔王様からアタシたちの世話を仰せつかっているらしいけど、それって監視よね。

 まぁ、四六時中というわけじゃないし、何かを強要してくることもないんだけど。ちゃんと線引きをしてるみたい。

 そういうのを『紳士』って言ってたわね。大魔王の幹部の心構えらしいわ。村の粗野な男たちとは全然違う。ラナさんが絆されるのも無理ないわね。

 ……あの胸はズルいわ。強力過ぎるライバルね。

 ち、違うの! 村の仲間が大魔王に取り込まれるのを心配してるだけよ!


 最近、ラナさんはみんなの服作りで忙しそうにしてる。昨日なんて、マーリン様とお揃いの服を仕立てて着ていたわ。嬉しそうな顔で。あの服、スーツっていうらしいわね。ラナさんはパンツじゃなくてスカートだったけど。

 なんて羨ましい! アタシにも作って欲しいわ!

 マーリン様もそれを優しげな目で褒めてらしたわ。アタシにもその目を向けてくれないかしら?

 ううん、そうじゃないの! その、そう! アタシが犠牲になることでみんなを大魔王の魔の手から守るのよ! 尊い犠牲になるのよ!


 そうね、アタシも何かお手伝いをしたほうがいいのかしら?

 ち、違うわ! マーリン様のお役に立ちたいとかじゃなくて、そう、それ! 怪しまれないためよ! より信頼を得て、もっと深い情報を手に入れるためなの! 大事なことよ!


 でも、アタシに何ができるかしら? 一応、一通りの家事はできるけど、この街っていつの間にかキレイになってるのよね。部屋にも街中にも、殆どゴミや汚れがないわ。

 料理もマーリン様がどこからか持ってきてくださるし。あれ、すごく美味しいのよね。あんなの真似できないわ。

 お洗濯なら……マーリン様のパンツを……ゴシゴシ……クンクン……うふふ……うふふふ……。

 やだアタシったら! それは駄目よ、そういうのはお嫁さんになってから!

 いやんいやん! うふふ、うふふふ!



 なんか、今日も見られてるな。いつにも増して視線が強い。

 警戒されてるよなぁ。もうそろそろ打ち解けてくれてもいいと思うんだけど……俺、何かしたっけ?

 いや、病気の間に服脱がせたり身体拭いたりしたか。恥ずかしいところを見られたんだから、そりゃ警戒もするよな。

 でも、あれをやったのはパパイヤだったから、マーリンが警戒されるのはちょっと違うよな。

 やっぱハゲだからか? 年頃の娘さんには受けないよな。大きな胸のお姉さんとは仲良くなれてると思うんだけどなぁ。

 まったく、若い娘さんはどう扱えばいいものか、イマイチ分からん。


 まぁ、なるようになるか。

 数少ない真っ当な、変態じゃない眷属だ。大事に育てよう。

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