083
「最近父上の様子がおかしいと執事に言われて来てみれば、こんな少女を囲っていたとは……」
「囲われてねぇヨ!」
ペチンッ!
「なっ!? ぶったな! 父上にもぶたれたことがないのに!」
おっと、思わず手が出てしまった。こいつが背筋に悪寒が走るようなことを言うからだ。俺は悪くない。
「初めてが少女だなんて良かったじゃないカ。むしろご褒美だロ」
「な、なんだと! いや、そうなのか? うむ、そう言われるとそうかもしれないな……」
納得するのかよ、純真か!? 微妙に頬を赤くしてるんじゃねぇ!
なるほど、こいつは確かにあの豚領主の息子かもしれん。引き継がれてはいけないところが遺伝してしまっているらしい。なんて罪深い血筋だ。
「アタシはロキシー、さる偉大なるお方の
「父上に助言だと? ふむ、確かに最近犯罪が減って暮らしやすくなったという報告があったな。街も清潔になって臭くなくなったと聞く」
「そうだろウ。アタシの献策のおかげダ」
あの臭さには辟易することしきりだったからな。この街の人間は、よくアレに耐えられたもんだ。犯罪減少なんておまけだよ、おまけ。
「もうすぐ新しい作物も収穫出来る予定ダ。そうすれば領内はより豊かになル。全てアタシが調達してきたものダ」
「むう、あの芋と麦はお前が持ってきたものか。確かに物凄い成長速度だったな。どこで手に入れたものかと思っていたが、そうか、お前が持ち込んだ物だったか」
あの麦と芋、この暑さでも育つってところが凄いよな。麦って寒いところじゃないと育たないはずなのに。
ひょっとしたら砂漠でも海中でも育つかもしれん。とりあえず亜空間での無重力栽培を試してみるか。上手く行けば亜空間引き籠もり生活という選択肢も選べるし。
「ところで、そろそろ名乗ったらどうダ?
「む、これは失礼した。私はゴッツ領主ボーア=チョップスが嫡男、マートン=チョップスだ」
素直だな。こんな得体の知れない少女の言うことを真に受けるとか、こいつマジで純真か?
あの豚領主の名前はボーアと言うのか。今まで知らなかった。知ったところで何も変わらないけどな。あんなのは豚で十分だ。
で、こいつはやっぱり息子なのか。まぁ、話の流れ的にそうだろうとは思ってたけど。
息子の方は、ごく普通だな。特に太っているわけでも痩せているわけでもなく、中肉中背だ。あんまり豚領主と似てないな。髪の毛が若干薄くなりかけてるところくらいか?
「それで、お前が仕える偉大なお方とは何者だ? 皇王陛下か?」
「それは言えないナ。至高の御方とだけ言っておこウ」
自分で自分を至高の御方とか、俺も厨二が酷いな。内実がパンツ大魔王なだけに、現実とのギャップが特に酷い。
この世界に記録媒体が無くてよかった。有ったら、きっと記録して黒歴史を量産してしまったことだろう。止せばいいのに記録せずには居られない、それが厨二病。
「むぅ……得体の知れない者をこの屋敷に置いておくわけにはいかない。悪いが出ていってもらうぞ?」
「ほう、お前にその権利があるのカ? アタシは領主にお願いされてこの部屋に居るのだゾ?」
「むう、それは……」
気持ちは分かる。不審者が屋敷に住み着いてるとか、事故物件どころじゃない危機物件だ。更には、ついさっき変態にクラスチェンジしちゃったからな。事案物件だ。
けど、あの豚領主が離してくれないんだよなぁ。
領主ってくらいだから、この街では一番権力を持ってるはず。その領主が是非にとお願いするから、俺はここにいる。
むしろ、出ていっていいなら喜んで出ていくけど? もう豚の尻を叩くのはウンザリです!
この領地は既に俺の支配下だからな。どこかに苗木か種を埋めておけば、支配権を失う恐れもないんだし。
あれ? 俺、なんでここで豚の尻叩いてたの? もうここに居る意味なくない?
「分かっタ。お前の言うことはもっともダ。領主には『苗木は十分に育ったので出ていった』と伝えておケ」
「苗木? ああ、街のことか……い、いや待て! やはり父上にお伺いしてからだ!」
「退ケ! アタシはこの屋敷から出ていくんダ!」
なんだよ、今出ていけって言ったじゃないか! 俺はもう足を洗うんだ! いや、豚の尻を叩きすぎたこの手を洗うんだ! 消毒させてくれ、きっと何か付いてる!
「このままお前を追い出したら、もしかしたら父上に叱責されるかもしれん! だから少し待ってくれ!」
「知らン! その手を離セ!」
こいつ、意外に力が強い!?
亜空間に逃げ込むにしても、掴まれてたら一緒に連れて行ってしまう。なんとかこの手を振りほどかなくては!
「ええい、騒々しい! 誰だ、私のコレクションルームで騒いでいるのは!」
「っ! 父上!」
あっ、くそっ、豚領主に見つかってしまった!
まだ陽があるのにここへ来るとは。いつもは日が暮れてからなのに。まぁ、大切なコレクションのある部屋で騒いでりゃ、来るのは当たり前か。
「こ、この少女が父上のコレクションルームにいたので、追い出すところです!」
「少女? 何故少女がここに……っ! この感じ、貴女はっ! そう、そうなのですね! 分かります、分かりますぞ! 見た目が変わっても私には分かります!」
むう、豚領主め、俺の正体に気付いたか。察しのいい奴だ。
こいつ、頭や勘は悪くないんだよな。命令にも従順だし。おかげで街の改善も問題なく進んでる。表向きの領主としては不足ない。
問題があるとすれば、夜のご褒美が面倒くさいだけだ。もう、大問題。
「おおっ、神よ、感謝します! 私のために天使を遣わせてくださったことを!」
「神じゃねぇっつってんだロ!」
ペチンッ!
「あふん! ありがとうございます!」
「父上!? 貴様、父上にまで手を上げるとは!」
おっと、いつものノリで叩いてしまった。痛たた、そんなに強く掴むんじゃねぇよ!
「痛いだロ、いい加減に離セ!」
パチンッ!
さっきよりも強めに叩いてやった! マジで痛かったんだからな! 疑似知覚は融通が利かないんだぞ!
「あふん!? ……む? これは……またご褒美なのか?」
何っ!?
「ふむ、マートンよ。ついにお前も目覚める時が来たようだな」
おいぃ!? 何かっこよく言っちゃってんの豚領主! 目覚めるってまさか!?
「父上……そうか、そういう事だったのか。父上は既に……どうやら私ものようです、父上」
「うむ、流石は我が息子だ」
「ちょ、待てヨ」
まさか、この流れは……
「ロキシー殿、もっと私をブッてくれまいか?」
――ヒューム(オス・二十一歳)を眷属にしました。
ぎゃあああっ!! 変態が増えたぁ!
「ははは、マートンよ。ブッてもらうのは尻が一番気持ちいいぞ」
「黙レ!」
ベチンッ!
「あふんっ! ごちそうさまですっ!」
ああ、もうっ! 誰か助けてぇ〜っ!!
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