080
さて、どうしたもんかねぇ。
この流れだと、大顎魔王を倒すのは既定路線だよな。討伐しなきゃ納得してもらえないだろうから。
その上で
けど、俺が領域支配者になったら、俺はもうそのエリアから動けなくなっちゃうんだよな。いや、実際には種の一個でも置いておけば問題ないんだけど、そうすると移動しているのが見つかった時の言い訳を考えなきゃいけなくなる。面倒臭いよな、それは。
あれ? ということは?
「なぁ、もし俺が大顎魔王を倒してしまったら、俺は大魔王討伐に同行できなくなるってことか?」
「まぁ、そういうことじゃのう。領域の外に出たら、支配権が他人に移ってしまうのじゃから」
「っ!? それは困るわ! エグジーには私の側に居てもらわないと!」
「冗談じゃ。しばらくは足止めされるじゃろうが、そんなに長い時間ではないはずなのじゃ。きっと皇国が支配権の移譲を要求してくるのじゃ。そうしたら高値で売りつけてやれば良いのじゃ。それこそ、自国で討伐隊を組んだほうが良かったと思えるくらいの額を、なのじゃ」
「まぁ、リズったら!」
ほう、リズちゃんはなかなか悪どいな。でも、子供がそんな黒い笑顔を浮かべるものじゃないですよ? 子供は裏のない笑顔があればいいのです。
……んん? あれ? よく考えたら、それって俺がやばくない?
「しかしリズ殿、その案では、私かエグジーの身に危険が及ぶことになりそうですが?」
「そ、それはっ! そうですね、この案はやめましょう! ハリー様の身に危険が及ぶことがあってはいけませんもの!」
「リズ、どういうことなの!?」
「……傭兵の誰かが領域支配者になったら、皇国は高い確率で暗殺を企てるのじゃ。そうすれば、金を払う必要が無いからのう」
そういうことだな。
まず俺を拉致してエリアの外まで運ぶ。そうすればエリア内にいる皇子に支配権が移る。その後は、生き証人である俺を殺して証拠隠滅だ。
「まさか!? そんなことをすれば王国と戦争になるかもしれないわ! いくら皇国でも……」
「もちろん、自分たちがやったとは言わないのじゃ。多分、大魔王の仕業とでもするのじゃろう。証拠さえ残さなければ、いくらでも言い訳ができるのじゃから」
リズちゃんは神妙な顔をしているけど、もちろんこの可能性については思い至っていたはず。賢者だもんな。
だから自国の騎士じゃなくて、傭兵である俺に話を持ってきたんだろう。傭兵なんて使い捨ての駒なんだから。失っても自国の戦力が減るわけじゃないから痛くない。
上手く行けば王国にお金が入って、大魔王までの行軍ルートが確保される。悪くても、どこぞの薄汚い傭兵がひとり消息不明になるだけ。損はない。
小さくても、やっぱり体制側の人間なんだな。考えることがエグいわ。とりあえずジト目で睨んでおこう。じー。
「と、とにかく、新しい計画を考えておくから、今日はここまでにするのじゃ! ではまたの、ナオミ。ハリー様、名残惜しいですけど、今日はお暇しますね。またお会いしましょう!」
あ、逃げた。ハリーが来なかったら、そのまま実行してたな、これは。完全に結果オーライだけど、ハリーが来たのは正解だった。
まぁ、いいんだけどさ。腐っても大魔王だから、暗殺者に殺られたりしないし。
俺に毒は効かない。拉致っても亜空間へ逃げる。刺しても斬っても、中身が木だから致命傷にはならないし、根が残っていれば再生できる。伊達に三回もまるかじりされてませんよ?
最悪、最初のプラン通りにエグジーが魔王を倒しても構わない。
けどまぁ、安全なプランがあるなら、そっちがいいなぁ。俺、小心者だから。
◇
とりあえず、大顎魔王とやらを探すか。どんな奴か知っておけば、今後の方針を決める参考になるかもだし。レッツゴーパパイヤ!
おっ、アレがナオミの言ってたトカゲか?
……って、恐竜じゃん、ラプトルじゃん! ジュラシッ○パークシリーズレギュラーのあいつ!
マジモンの生きた恐竜だよ、テンション上がる! 男の子で恐竜が嫌いな奴はいない!
よし、パパイヤを樹木モードにして観察だ。でもパパイヤは実りません。豆なので。
なんか、記憶にあるラプトルと色が違うな? あの映画じゃ青かった気がするけど、こいつらは明るい茶色、ライオン色だ。まぁ、サバンナならそっちの方が保護色になるか。自然の摂理ってやつだろう。
よく見ると、薄っすら縞模様がある。おしゃれ〜。草に紛れるには良さそうだ。これもサバンナ仕様の自然の摂理ってわけか。
群れで狩りか? 狙ってるのは……こっちも恐竜……か?
なんか、恐竜っていうより鹿? キリン? とにかく、フォルムが恐竜じゃないな。
いや、首から上は竜脚類っていうの? ブロントサウルスっぽいんだけど、胴体と脚が細い。まんま馬とか鹿とかの身体だ。大きさもそれくらいだし、尻尾も細長い。でも、耳もたてがみもない。
サバンナみたいな平原に草食動物が適応すると、こういう身体になっちゃうのかね? 速く走ることに特化しちゃった、みたいな。これも自然の摂理か。
とりあえず、仮に
もしかしてこのサバンナ、恐竜(?)の楽園なのか?
くぅ、俺の少年ハート刺激しやがって! 珍しくいい仕事するじゃねぇか、ファンタジー!
ラプトルたちが低い姿勢で三方向からジリジリ距離を詰めてる。ああ、あっちは風上なのか。臭いで勘付かれないようにってことだな? うむ、狩りっぽい!
あっ、馬竜の一匹が気付いたか? 首を伸ばして周囲を見回してる。ああ、長い首はこのためでもあるのか。
まだ見つけてはいないみたいだな。キョロキョロしてる。
ラプトルたちは動きを止めて草の中に伏せてる。はぁ、見事なもんだな。全員の呼吸が合ってる。
あっ、もしかして
おっ、ラプトルがまたゆっくり詰め始めた。匍匐前進っぽい。二本足で器用なもんだ。
ピィ―ッ!
あっ、気づかれた。馬竜の鳴き声ってヤカンっぽいな。お湯が沸きましたよってか?
ラプトルが走り出した! 一斉に動き出したな。やっぱ技能を持ってそう。
狙いはあの仔馬竜か。弱いものが狙われるのはファンタジーでも同じなんだな。
馬竜の群れも走り出した。おー、速い! やっぱ馬型だな。走るならあの形が適してるってことか。
でも仔馬竜はまだ速くないな。回り込まれた。それを避けて逃げた先にもラプトルがいる。さらにそれから逃げた先に、また別のラプトルが。
仔馬竜はグルグル回りながら、どんどん逃げ場を失っていく。
あっ、ラプトルの一匹が仔馬竜の後ろ足に喰い付いた! 一気に仔馬竜のスピードが落ちた。別のラプトルが首に喰い付いて、仔馬竜が引き倒された。
もう終わりだな。ラプトルたちが群がってる。南無。
はぁ、テレビで見るライオンの狩りみたいだったな。けど、生は迫力が違う。すげぇな、自然。良い勉強になりました。仔馬竜ちゃんに冥福の祈りと感謝を。
さて、それじゃ魔王の捜索を再開しますか。まぁ、恐竜の楽園のボスってことなら、どんな奴なのかは大体予想できるけどな。
恐竜で大顎って言ったらアイツだろ? 映画でも大活躍な二足歩行のあのレックス。
本物のアイツを生で見ることができるのか。くぅっ、燃える! やってくれるぜファンタジー!
オラ、ワクワクしてきたぞ!
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