079
「ところで傭兵殿?」
「はい、何でしょう賢者様?」
ん? 俺に話を振ってくるのか? また恋バナのイジりか? そろそろナオミが怒りそうだぞ?
「ああ、丁寧な言葉は要らないのじゃ。儂にもナオミと同じように話してくれていいのじゃ」
「そうかい? それじゃ遠慮なく」
話術を身につけたからか、この後の展開がなんとなく予想できる。
フレンドリーに接してきたときは、その裏に答えづらい質問をしようという意図が隠されてるはず。実は向こうも話術持ちだったり? 王侯貴族や商人なら持ってそうな
けど、ちょっとは距離を詰めておかないと、俺から惑星崩壊の相談を持っていけない。向こうから詰めてくれるなら、それに乗っておくのもアリだろう。
「おヌシ、相当な腕前らしいのう?
おっと、流石は賢者。チョロイン勇者様のようにはいかないか。
「何者と言われてもなぁ。今は傭兵としか」
「傭兵は傭兵なんじゃろうな。しかし先程も言った通り、ザルバもうちの騎士団も弱くはない。それを相手に大立ち回りを演じられるのじゃから、只者ではなかろう? 少なくとも名持ちではあるはずじゃ。しかし、この賢者たる儂がおヌシのような強者の事を聞いたことがない。ちと妙ではないか?」
あー、これはいかんな。やっぱ賢者だ、頭が回る。口先三寸で丸め込むのは難しいかもな。
「んー、
もし『看破』なんて技能を賢者が持ってたら、嘘を吐いた途端に疑惑を持たれてしまう。ここは正直に話すしかない。ただし、肝心な部分は伏せる。まさか俺が大魔王ですとは言えないからな。
「ほう……ふむ、『共有』か『譲渡』持ちということじゃな? しかし、思い当たる名持ちはおらんのじゃ。最近名持ちになったのかのう?」
「ああ、たしか、大魔王が現れるほんの少し前に名持ちになったんだったかな?」
これも嘘じゃない。名持ちになってから大魔王になったからな。
「ほうほう。ふむぅ、大魔王が現れる直前、のう……なにやら運命めいたものを感じるのじゃ」
「まぁ、傭兵団は開店休業だけどな。団長が身寄りのない赤ん坊を拾っちまってさ、今子守りの真っ最中なんだよ。なもんで、団員はそれぞれ各地に散っててさ。俺は砂漠で修行してたときにナオミと出会ったってわけさ」
おお、即興にしては見事な言い訳、しかも『修行』以外に嘘がない! 話術先生、流石です!
「凄いわね! 単独で旅ができるだなんて、みんな貴方並みに腕が立つの?」
凄い? ああ、そうか。この世界は魔物が溢れてるんだよな。一人旅なんて余程の腕がないと自殺行為だよな。
「まぁね。と言っても、
単独で動いてるのはエグジーとアーサーとパパイヤの三人だけ。種や苗木は随行してるけど。
あ、臭かった街の苗木ちゃんも単独行動か。でもあれは樹木形態だから、〇人とは数えないよな。一本だ。今日も豚領主の尻をペチペチしてる。不憫な子(涙)。俺だけど。
「なるほど、わかったのじゃ。しかし、それではいざと言うときにすぐ集まれんじゃろう? 傭兵団としては戦力が落ちるのじゃ。よく単独行動を許したのう?」
「まぁ、そこはね。便利な技能持ちがいるのさ。詳しくは団の秘密になるから教えられないけどさ」
「むう、そう言われては仕方がないのじゃ」
そもそも全部俺だから、意志の疎通は完璧なんだよ。さらに、時空間魔法があるから帰るだけならあっという間。
でも教えない。傭兵団だから、戦力を全部明かしちゃうと弱体化する、という名目で秘密にする。いい言い訳だ。
ふふふ、俺も大魔王らしく、黒くなってきたな。
まぁ、客観的に見ると、小さい女の子を騙くらかそうとしているだけなんですが!
何この卑小さ! ほんとに俺、大魔王なの? こんなスケールの小さい大魔王、見たことねぇ!
「しかし、それほど優秀な技能を持つ傭兵団なら、是非ともこの件に手を貸してもらいたいのじゃ。こちらとしては、対大魔王の切り札としてナオミには万全の状態でいてもらいたいのじゃ。援護してもらえるとありがたいのじゃ」
「うーん、どうかなぁ? 俺の一存ではなんとも。連絡してみるけど、期待はしないでいてくれよ?」
「うむ、頼むのじゃ!」
さて、どうしたもんかね?
傭兵団を名乗った以上、仕事の依頼をされたら受けるのが自然だ。現にエグジーは受けてるしな。
けど、これって自分の首を締めることになりかねないんだよなぁ。だって、大魔王討伐のための作戦だし。
だからといって、ここで断ると変に怪しまれることにもなりかねないし……。
んー、受けるか! ちょっと距離を詰めて、頼み事をしやすい状況を作っておくのも悪くない。
いざとなれば、盆地を捨てて他の土地に移動してもいいんだしな。もうあの盆地の外に足、いや根を伸ばしてるんだから。
「団長から『報酬と条件次第で受けても良い。ただし参加できるのは四人のみ』って返事があったぜ。四人っていうのは俺を含めての人数な」
「なっ!? まさか『念話』!? 何という希少技能持ちなのじゃ!」
ほう、この世界には念話があるのか。まぁ、俺のは念話じゃなくて意識の共有なんだけどな。全俺がリアルタイムで繋がってます。ええ、豚領主の尻を叩く感触もリアルタイムで共有してますよ。くぅっ!
「使えるのは仲間内のみだけどな。おっと、団長が賢者と勇者にご挨拶をしたいそうだ。今から来るってよ」
「何、今からじゃと? 近くにおるのか?」
「こうやってさ」
時空間魔法発動! うーん、何度見てもこの穴は不思議だよなぁ。立体的なのに穴としか表現できない。
そしてハリー登場。ネコ耳は隠して普通仕様です。普通だなぁ。
「なっ、どこから!?」
「これは!? こんな技能、見たことがないのじゃ!」
剣先をハリーに向けないでナオミ。それも俺なんだよ。ちょっと玉がヒュンッってなるから。
というか、時空間魔法って知られてないのか? 賢者が知らないってことは、もしかして魔物専用だったり? 使ったのは不味かったかな? まぁ、後の祭りだ。なんとか誤魔化そう。
「おっと、ナオミ、心配要らない。うちの団長だ。剣を降ろしてくれ」
「はじめまして。まずは招待なしで訪問した無礼をお詫び致します。そちらの美しいお嬢様が勇者様、可愛らしいお嬢様が賢者様とお見受けします。はじめまして、私は当傭兵団の団長を務めておりますハリーと申します。以後よろしくお願い致します」
胸元に右手を当てて軽く腰を曲げる。顔はあるかないかの僅かな微笑みだ。見事な紳士の礼だろう? いっぱい練習したからな。中身の変質者を隠すための練習は欠かさない。表に出るとおまわりさんが来ちゃうから。
「これは失礼した。私が今代の勇者を任せられているナオミ=コナーズだ」
ナオミが余所行き仕様の言葉使いになってる。まぁ、初対面から馴れ馴れしいのはどうかと思うしな。流石はお貴族様だ。TPOは
あれ? どうした賢者、動きが止まってるぞ? そんなに時空間魔法がショックだったか?
「賢者殿?」
「っ! は、はじめまして! あたし、賢者をやってます、エリザベス=ハーパーです! あの、不束者ですが、末永くよろしくお願いします、おじ様っ!」
いや、末永くってなんだよ? ってか、語尾が変わってるじゃん。声のトーンも一段上がってる。あの『のじゃロリ』は演技か? こっちが素? それともこっちが演技?
「ええ、よろしくお願いします、勇者様、賢者様」
「は、はいっ!」
あー、顔が真っ赤だな。そういうことか。一目惚れって本当にあるんだな。ヒトが恋に落ちる瞬間を初めて見ました。ナオミもビックリしてる。口が丸だ。
ってか、ハリーはオジサンだぞ? いいのか?
いや、確かにイケオジだけどさ、見た目は君の父親でもおかしくない年齢設定だぞ? パパと呼ばれても援交を疑われないくらいのパパ感だぞ?
っ! まさかこの娘、枯れ専か!? 前世では存在を
まぁ、無いとは言えないか。大人の男に惚れるのは正常と言えなくもないしな。年齢差がありすぎるだけで、合法ロリより現実的だ。
しかし、アローズといい豚領主といい、異世界は拗らせたやつらが多いなぁ。
パンツ大魔王が言えた義理じゃないけど、この世界、大丈夫か?
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