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 さぁ、やってきました『走竜の狩場』! 最近出番がなかったパパイヤの活躍の場です! 早速踊っちゃう? イエーイ。

 ふーん、なんかサバンナっぽいな。草原のところどころに木がチョロチョロと生えてる。森って密度じゃない。やっぱり草原だな。ところにより、にわか樹木。

 あっ! あの木、マメ科っぽい! 俺の仲間か!?

 あー、ちょっと違うなぁ。枝の生え際に棘が生えてる。なんか針槐はりえんじゅっぽい? 俺はこんなに刺々しくないもんな。フレンドリー大魔王。

 ってか、あちぃっ! 砂漠よりマシだけど、気温が高い! 皇国って暑いところばっかりじゃん。そういう国なのか? 俺の中でアフリカ赤道直下なイメージ確定。


 ここの領域支配者エリアボスはでっかいトカゲらしい。っていうか、このエリアは凶暴なトカゲの楽園だって聞いた。ナオミに。

 サバンナの王様ならライオンじゃないの? って思わなくもないけど、ファンタジーではあんまりライオンって出てこないんだよなぁ。せいぜいキメラの素材にされてるくらい? 象や虎、狼はよく出てくるのに、なんでだろうな?

 まぁ、この世界もファンタジーのルールに従ったんだろう。律儀なこった。


 さて、それでは散策を始めますか。

 皆さん準備はいいですかー? 大魔王の侵略が始まりますよー。



「アヤツ等はアテにならんのじゃ。このままでは時間を浪費する一方なのじゃ。それは大魔王の勢力拡大を許し、我ら人類が滅びを迎えることに繋がるのじゃ。だというのに、あの愚物共は!」


 初っ端からのじゃロリ賢者さん、激オコですな。お屋敷のソファに座った途端、猛烈に愚痴りはじめた。ネコ耳だったら尻尾がブワッてなってるところだな。向かいに座ったナオミも困り顔だ。俺は壁際に立ったまま。身分的には平民だから仕方がない。

 でも、ちっちゃい子が怒ってるのって、見ている分には微笑ましいんだよな。頭撫でて落ち着かせてあげたくなる。ほっこり。

 まぁ、内容は人類滅亡やら大魔王やら、剣呑なんですが。ってか、俺が当事者なんですが。そうです、私が大魔王です。


「まぁ落ち着きなさいよリズ。愚痴をこぼしたかったから私に声をかけたんじゃないんでしょう?」

「ふぅ、すまんのじゃ。しかし、おぬしは随分と落ち着いておるのじゃな? 遠征前はあんなにピリピリしておったというのに。それはそこの男の影響か? ん?」


 ほほう、小さくても賢者でも女の子か。恋バナに興味があると見える。

 ニヤニヤ顔で俺を見るけど、ちっちゃい子のそういう仕草は可愛いだけですよ? やっぱり頭撫でようか? 撫でていい?


「ちょっ!? そんなんじゃないわよ! エグジーは私の副官、ちゃんとした実力があるのは貴女も知ってるでしょう!? まぁ、安心して背中を預けられるという信頼はあるけど、その、そういうのは……私だけじゃその……ゴニョゴニョ」


 うーん、ナオミも可愛いなぁ。このふたりの頭を撫でてるだけで小一時間は過ごせそう。

 おっと、最近お爺ちゃんプレイを並行してるせいで、ちょっと年寄りくさい思考になってるかも。気をつけないと。俺はまだ若い。なんてったって、まだ三才だもの。いや、若すぎるな!

 普通、大魔王って『何百年も生きてる』とか『大昔に封印されていたのが目覚めた』とかじゃないの? なのに俺は生まれて三才で大魔王って……パンツ作りはそこまで罪深かったのか。

 そういえば、アダムとイブは知恵の実を食べたから羞恥心を覚えて、葉っぱをパンツにしたのだとか。そしてそれが神の怒りに触れてパンツ一丁でエデンの園を追い出され、世界初の変質者になったらしい。

 つまりパンツは罪と変質者の象徴ということか!? なるほど、納得だ。謎は全て解けた!


「ふむぅ、顔色ひとつ変えんのじゃ。ナオミ、こいつに脈は無いのじゃ。諦めて他の男を探したほうがいいのじゃ」

「そ、そんな事ないわ! じゃなくて、エグジーは副官なの! そういうんじゃないの!!」


 おっと、考え事をしてて表情を変えるのが疎かになってた。鉄面皮っぽく見えたかな? まさか、その無表情の下でパンツのことを考えていたなどとは、露ほども思うまい。

 まぁ、確かに脈はないな。心臓も血もないから。呼吸だけはしてるっぽく見せてるけど。


「まぁよいのじゃ。それよりも大魔王なのじゃ。このままではいたずらに時間が過ぎるだけなのじゃ。ならば、儂らでなんとかするしかないのじゃ」


 やめて!? 真面目か、お前! 適当にサボっとけよ! それでも偉い人か!?

 偉い人が偉そうにサボってて、それなのに高給を貰うから、平社員は偉くなろうと思うんだよ! 俺も偉くなってサボろうと思うんだよ! だからお前もサボれ賢者! 世界の平社員のために!


「そうは言うけど、具体的にどうするのよ? 私たちだけで大魔王のところまで行くのは難しいわよ? 無理ではないでしょうけど」


 そうだそうだ! もっと言ってやれナオミ! もっと楽して生きましょうって言うんだ!


「うむ。儂も少人数では難しいと思うておるのじゃ。場所が中央大山塊で相手が大魔王じゃからの。適切な補給を受けた、万全の勇者と軍を送り込まねば、おそらく勝てないのじゃ」

「じゃ、どうしようっていうの? 何か考えがあるんでしょう?」

「うむ。まずは走竜の狩場を我らで開放するのじゃ」

「っ! 『大顎魔王』を私たちで倒そうってこと!?」

「そうじゃ。いままでは他国の領土ゆえ放置しておったが、事ここに至ればそうも言うておれんのじゃ。大顎魔王を倒し、南回りで中央大山塊へ行くルートを開拓するのじゃ」


 ほほう。あそこの領域支配者は魔王の称号持ちなのか。大顎トカゲなのね。

 だったら、倒すか調教するかすれば、何か技能スキルが手に入るかもな。ガンモのときも『千里眼』っていう便利な技能が手に入ったし。女王ガエルはしょぼかったけど。

 できれば調教だな。今ならいけそうな気がする。もう豚の尻を叩くのには飽きた。他の尻を叩きたい。いや、尻は叩かなくてもいいんだ。もう尻は十分。

 いや? 美女美少女の尻なら……ありだな。ニヤリ。


「ほほう? 魔王討伐の話なら笑うのじゃな? ナオミ、こやつは何やら危険な匂いがするのじゃ。やはり他の男を探したほうがいいのじゃ」


 おっと、今度は顔に出てしまったか。

 いや、魔王と戦うのが楽しみとかじゃないから。俺、戦いにワクワクするような戦闘民族じゃないんで。人参じゃなくて豆なんで。

 単に美女のお尻を想像してただけ。だって男の子だもん。


「もうっ! そんなんじゃないんだったら! でも、皇国がそれを許すかしら? 他国の戦力を自国に入れるのよ?」

「許すのじゃ。むしろ、早くやってほしいと思っておるはずなのじゃ」

「どういうこと?」

「あの国は芯から腐っておるのじゃ。あの広大な領域が魔王から開放されれば、活用できる領土が大幅に増えるのじゃ。しかし、自国の軍を使えば兵が減るし子飼いの名持ちが死ぬかもしれんのじゃ。じゃから、この大魔王出現を利用して他国の軍、つまり勇者に開放させようと考えておるのじゃ。大魔王討伐という名目なら報酬や領土の割譲という話も出ないからの。自国の力は温存した上で広大な領土を手に入れる。そういう小狡いことを考えておるのじゃ」

「……なるほど、会議でのあの態度はそういうことだったのね。他国から兵力を出して狩場を開放させるという案を引き出すために、『皇国だけでは』と言っていたのね」

「そういうことじゃ。自分から言い出せば、他国に借りを作ることになるからの。他国から言い出すのを待っておるのじゃ」


 ははぁ、なるほどねぇ。こんなにちっちゃいのに賢いなぁ。やっぱり機会をみて頭を撫でてあげよう。

 会議ってやつがどうしてあんなに進まないのかと思ったら、そういう思惑があったからなんだな。政治って面倒くさい。もっと腹を割って話し合えないものか。


「もちろん、陛下もそれは分かっておられるのじゃ。しかし、我が国の最高戦力である勇者ナオミを失う可能性がある以上、おいそれとは口に出せんのじゃ。教国は……あれはアホなのじゃ。頭はいいかもしれんが、そのあたりの裏に気付けん愚か者なのじゃ。じゃが、これは儂の予感なのじゃが、もうそろそろ危険なのじゃ。これ以上時間はかけておれんのじゃ。そろそろ茶番はやめて、本格的に動かなければ危ういのじゃ」

「それは賢者の予言ってことかしら?」

「いや、女の勘じゃ」


 うはっ! こんな子供が女の勘とか、ちょっと微笑まし過ぎるんですけど! もう、背景に点描リングが飛びまくっちゃいますよ!


「じゃから、明日の会議で儂から大顎魔王討伐隊の話を切り出すのじゃ。その場合の主戦力はナオミ、お主になるじゃろう」

「それは構わないけど、陛下はお許しになられるかしら? それで悩んでおられるのでしょう?」

「うむ。そこで、その男じゃ」


 え? 俺?


「その男、お主が認めるほどの腕なのじゃろう? ひとりで魔王を倒すのが難しくても、ふたりでなら可能なのではないかの?」

「それは、確かにエグジーとなら大魔王だって倒せるとは思うけど……」


 美女と美少女に見つめられる俺。でも色っぽい話じゃないから全然嬉しくない。あと、大魔王は倒さない。自殺、ダメ、絶対。


「それに『魔物に対して強い攻撃補正が入る代わりに領域支配者にはなれない』という勇者の特性も、その男が領域支配者を倒せば問題ないのじゃ。その男が領域支配者になるのじゃから」


 へぇ、そんな特性が勇者にあるのか。それは、為政者にとったら使い勝手がいい駒だよな。王様が出し惜しみするのも納得だ。


「おそらく、皇国はナオミが魔王を討伐したときに備えて皇子を同行させてくるのじゃ。皇子の持つ『次期領域支配者になる』という特性を利用して、領域支配権を奪うためにの。じゃが、領域支配権はその男のものになる。儂らをいいように利用しようというのじゃ、ひと泡吹かさせるくらいはいいじゃろう」

「……そうね。全て終わった後でエグジーが王国貴族になれば、飛び地だけど狩場が王国領になるわ。それで陛下にご納得いただきましょう」


 おっと、ふたりとも悪い笑顔だ。ダメだよ、ふたりとも可愛いのにそんな顔しちゃ。


 さて、それじゃ俺はどう動こうかね? 相手の動きを見てからの後出しジャンケンだ。負けるわけにはいかないよな。のじゃロリ賢者との戦略勝負、受けて立つよ!


 あ、パパイヤはちょっと待機ね。まだ活躍の場は先っぽい。

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