077

 ――南部米亜種を眷属にしました。


 よしよし。

 一時はどうなるかと思ったけど、無事お米ゲットだぜ!

 けど、味の方は……やっぱり日本のお米は美味かったんだなぁ。あの味はもう味わえないかもしれないのか。ああ、懐かしの銀シャリ……。


 いや、諦めるな俺!

 昔から日本人は、理想の米を追い求めて品種改良を繰り返してきたんだ! 何世代も交配を重ねて、味が良くて病害虫に強い米を作り出したんだ! 寒さに強い米を作り出してきたんだ!

 俺には成長促進という心強い味方がいるじゃないか! 二期作どころか、条件次第で十二期作くらいできるはず!

 そう、俺には美味しい米を作るための手段がある! 美味しいお米の味を知っている! 美味しいお米を作るための情熱がある!

 作るぞ! あの美味い日本の米を、この世界で!! この一握りが始まりだ! この世界のお米の未来は俺の両肩にかかっているのだ! 肩ないけど!


 ――南部米亜種は日本米魔王種に進化しました。


 するのかよ!? さっき決意したばかりなのに!

 もしかして、もう日本のお米と同じ味? 俺的にはひとめぼれが好みなんだけど? 俺の決意は空回り?

 そんなにあっさり完成しちゃったら、あの番組で頑張ってたアイドルグループの立場がないじゃん。リーダー泣いちゃうよ?


 見た目は……変わらんなぁ。

 まぁ、こいつは種籾だしな。芋と麦の時も、最初の世代は変化が見えなかったもんな、こいつもそうなんだろう。俺は学習した。

 これから塩水選して育苗して田植えして、そこから収穫できた米で、初めて特徴が見えるはず。それまでのお楽しみだ。


 うーむ、眷属の進化条件ってなんだろう?

 俺自身の進化は一定以上の支配領域拡大とボス撃破が条件っぽいけど、芋も麦も、それにこの米も、そんなの関係なしであっさり進化しちゃったんだよな。

 俺の眷属の進化条件……名付けか?

 あり得るな。芋も麦も、俺が名前をそう呼んでたら進化したもんな。

 クレソンっぽいのだけはまだ進化してないけど、それはずっとクレソンっぽいのとしか呼んでないからかも。

 よし、実験だ。あのクレソンっぽいのは、今日から盆地クレソンと呼ぶことにする。略してボンクレ。


 ――ハエトリカラシナモドキは盆地クレソンに進化しました。


 おーっ、成功だ! 植物系は名付けで進化するっぽい。なるほどなー。


「爺さん、どうしたんだい、黙りこくって? 何か気に入らなかったかい?」


 おっと、お米に意識が飛んでたな。フライス・・・ルーしてた、米だけに。

 おカミさんに心配させちゃったか。大丈夫、まだ呆けてないよ。ボケもツッコミもできるけどね!


「おお、すまんすまん。どうやったら故郷いなかでこれを育てられるか考えていたんじゃよ。ここと違って、少々寒い地域なのでな」

「へぇ。少々寒いくらいなら平気だって話だけど、アタシたちゃ漁師だからねぇ。詳しいことは分からないんだよ。すまないねぇ」

「いやいや、籾付きの米を貰えただけで十分じゃよ。なに、故郷にも百姓はおるでな。任せておけばなんとかなるじゃろう」


 はい、私がその百姓のボンちゃんです! 主に農業と畜産、料理、被服の研究をしています! 大魔王だそうですが、あまり大魔王っぽいことはしてません! 大魔王ってなに?


 でも笑い話じゃないんだよなぁ。

 最近扶養家族が増えたから、とにかく食料の消費が激しい。

 芋と麦とクレソンばっかりってわけにもいかないし。野菜とタンパク質の安定供給は喫緊の課題だよなぁ。

 今は鹿肉と川魚、カニとエビとアノマロカリスでなんとかやってるけど、狩猟や漁業じゃ頭打ちになるのは目に見えてる。どうにか畜産か養殖を……養殖か。内海ここならいけそう?


「おカミさんや、この辺りではどんな魚が獲れんじゃね?」

「魚かい? そうだねぇ、昨日爺さんが釣ってたシルバスだろ、他にはギンアジ、アカマレ、白鯉、食えないけどドクマリとかかねぇ?」

「ふむぅ?」


 全然わからん。かろうじて白鯉が白い鯉なんだろうなってくらいだな。あとアジの仲間?


「あー、どう言えばいいのかねぇ……っ、そうだ、見れば分かるよ! 今朝揚がったのがまだ台所にあったはずだよ! 一緒に来ておくれ!」

「おうおう、そんなに急がんでもええ……って、おおおっ!?」


 おカミさん、ちょっと、引っ張らないで! ついていく、ついていくから!



「……でありまして、皇国としては先の偵察隊の損失を補充するためにも、今しばらく時間をいただきたいと考えております」

「何を悠長な! こうしている間にも大魔王は勢力を拡大しているかもしれんのですぞ! 一刻も早く討伐軍を編成せねばならぬと、これほど申しておるというのに!」


 はーい、エグジー君でーす。只今壁の花やってまーす。もう一時間くらい、不毛な言い合いが続いてまーす。根が生えそうでーす。


 いやさ、円卓で会議が進んでる(?)んだけど、マジで護衛にはすることがないのな。俺、必要?

 それに話し合ってるのは教国と皇国の代表だけだし。ってか、言い合いしてるし。仲悪いの、この人たち?

 たまに勇者ナオミが意見を求められてるけど、話の内容は全然進展がない。会議は踊るって、こういうことなのね。


「しかしですなぁ、勇者殿の報告にあった通り、ノイン大砂漠を通過する案はいささか以上に困難が予想されます。となれば、必然的に我が国の『走竜の狩場』か貴国の『囁きの森』を通過するしかありません。ですが先程も申し上げた通り、我が国は名持ちと将軍を失ってその戦力が大きく落ちております。とても狩場の間引きなどできる状況では……貴国の森は如何がなのですかな? それほど申されるのでしたら、多少は間引きも進んでおるのでしょうな?」

「ぐぬぅ、それは……あの森は特殊であり……軍による間引きが出来るような場所ではなく……」

「なるほど、貴国も我が国と同じというわけですな! これは申し訳ない、余計なことを聞いてしまいましたかな?」


 うわぁ、皇国の代表、小太り爺さんのあの顔! 『ねちゃあぁ』って擬音が聞こえてきそうなくらい粘着質な笑顔だな。めっちゃ油ギッシュだし。顔洗うだけで石鹸一個使い切りそう。


「ふむ、行軍予定が立てられないままでは埒が明きませんな。賢者殿、何か妙案はございませんか?」

「ふむ。戦ならともかく、行軍に奇策はないのじゃ。確実な兵站、堅実な移動しかあるまい」


 賢者。賢者? 賢者かぁ。

 いや、まさかここでテンプレとは思わなかったなぁ。

 のじゃロリだよ、まさかののじゃロリ。銀髪オカッパで、見た目は十歳くらいの女児。いや、マジの十歳だってナオミが言ってたな。生まれついての名持ちらしい。ナチュラルボーン賢者。


 けど、まだコンタクトはできてないんだよなぁ。ナオミの紹介で顔合わせはできたんだけど、そこから先が進められてない。早く惑星崩壊の危機に巻き込みたいんだけどなぁ。


「ならば以前からの提案通り、教国と王国の兵でもって狩場の間引きを行いつつ進路を確保するのが最善じゃ。どうじゃ、皇国の?」

「そうですなぁ。しかし前回も申しました通り、他国の兵に魔物相手とはいえ軍事活動をさせることに、領主どもが難色を示しておりまして。これを宥めるのに難航しておるのですよ」


 要は、金をよこせってことだよな。前回もそうやってかわされて、金額で折り合いがつかなくて持ち越しになってた。皇国はがめついな。

 何処の国も余計な金は出したくないから、いつもここでもの別れになる。

 まぁ、討伐対象の俺としては、こうやって無駄に時間が費やされるのは歓迎だけどな。いいぞ、もっとやれ!


 今日もここでお開きっぽいな。やれやれ、また無駄な時間を使ってしまった。まぁ、数ある分身の一体が休んだところで、俺の活動自体への影響は殆ど無いんだけどな。

 むしろ、潜入諜報活動をしていると思えば時間の無駄ですらない。退屈なだけ。


「ふう、今日も何も決まらなかったわね。いつになれば進軍できるようになるのかしら?」

「『船頭多くして船山に登る』って言うからな。このままじゃ大魔王討伐どころか、国家間の紛争にもなりかねないんじゃないか?」

「そんな! それじゃ私はどうすれば……」

「さてな。とりあえず、いつでも動けるように備えることと、大事なものを守れるように準備しておくくらいしかできないんじゃないか? 傭兵おれたちはいつもそうしてるぜ?」

「そう、そうね! うん、ありがとうエグジー。やっぱり貴方がそばに居てくれてよかったわ!」

「ふっ、どういたしまして」


 うむ、今日もナオミの好感度は上昇傾向のようだ。話術バンザイ。


 さて、不毛な会議の後は庭の家庭菜園の手入れだ。まぁ、眷属の芋と麦だから、放っておいても育つんだけどな。


「ナオミ、ちょっと良いか? 話があるのじゃ」

「リズ? どうしたの?」


 おっと、賢者様からのお声がけだ。

 これはもしかして、接触のチャンスが来たか?

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