074

 ロープで後ろ手に縛られて、ついでに目隠しまでされてしまった。


「すまねぇな。恩人のアンタにこんな事をしたくはねぇんだが、礼をするにもアジトへ連れて行かなきゃなんねぇ。けど、アジトの場所を知られるわけにはいかねぇんだ」


 そう言われちゃ、縛られるしかないじゃん。勝手に目隠しを外されたら困るだろうし。


 まぁ、無意味なんですけどね!

 ぶっちゃけ、この身体って形状変化で人型にしてるだけだから、変形させれば縄抜けなんてチョチョイのちょいだ。俺は誰にも縛られねぇ!

 さらに言うなら、目隠しにも効果はなかったりして。擬似知覚で目を瞑れば視界はなくなるけど、そうじゃなかったら何処を隠しても視界は閉じないんだよね。そこって、目に見えるけど目じゃないんだよ。目に見えるものがすべてじゃない。うん、哲学的だな!


 へぇ、湖のこっち側ってかなり入り組んでるんだな。リアス式海岸ってやつ?

 小島も多い。ってことは、浅瀬も多いんだろうな。ああ、海賊船がこんな小舟なのもそういう理由か。

 波はそれほどじゃないけど、風はそれなりにあるんだな。結構強い潮の臭いがするから、こっちの方が海側なのかも。海の幸。俺はまだ諦めてないぞ?


 おっ、あの湾が目的地か? 見たところ、港は無いように思えるけど……。

 おおっ!? 奥まったところに見えるアレは洞窟!? まさか、あの岩山をくぐっていくのか!?

 やっぱりか! すげぇ、どこぞの観光船みたいだ! 水面からの反射が洞窟内に作る光の模様がメチャ綺麗! 青の洞門ってこんな感じか?

 おおおおおっ!? くぐった先に空がある!? 屋外に通じていたのか! 洞窟じゃなくてトンネルだったんだな!

 向かう先はあの砂浜か。あそこに乗り上げて船を引き上げるんだな? 船を引きずったような跡があるし、多分そうだろう。奥にあるのは漁師小屋って感じ?

 アレ? この感じ、どこかで見たことが……ああ、アレだ! 空飛ぶブタさんの隠れ家! 『カッコいいとはこういうことか?』っていうあのアニメ!

 いいね、隠れ家! 男のロマンだね!


 ズザザザーッ!


 船が砂浜に乗り上げた。 思ったより揺れなかったな。それだけ海賊たちが船の扱いに慣れてるってことか。


「待たせたな、爺さん。目隠しと縄は解くけど、もうしばらくこの船で待っててくれ。おカシラを運んでおカミさんに報告をしなきゃなんねぇんだ。アンタへの礼はその後になる」


 縄と目隠しが取られた。拘束プレイは終了らしい。ジジイの拘束プレイなんて、マニアック過ぎて需要が全く見込めないしな。今回限りの期間限定。再販はありません。


「なに、構わんよ。じゃが、ただ待つのも暇じゃ。針と糸を貸してもらえるかの? 船尾で釣りでもしておるよ」

「ああ、船べりにかけてある竿に針も糸もついてる。好きにしてくれ。餌は……おい、船倉から干物を持って来い、何でもいい! すぐに干物が来るから、それを適当にちぎってエサにしてくれ。それじゃあな!」


 活きの良いおっちゃんが駆けていった。代わりにまだ細いニイチャンが干物を持ってきてくれる。これは煮干しか? イワシのような大きめの小女子こおなごのような、そんな干物。

 大きい小女子って、セクシー小学生? それとも合法ロリ? まぁ、俺はどっちも好物だから問題ない。ゆりかごから墓場まで、貴女を見守る大魔王です。なんて犯罪臭の濃いキャッチフレーズだ! 変質者なんて称号が付くはずだよ!


 さて、それじゃのんびり釣りますか。



 ……釣れねぇ。

 魚影はあるんだけどな。エサも突付かれてる。けど、針に掛からない。乗らない。

 おい、小女子に喰いつけよこのロリコン野郎。俺の仲間だろう?


 理由は分かってる。それは針の大きさと魚の大きさが合ってないから。そこにいる魚に対して、針が大きすぎる。もっと小さい針じゃないと、魚の口に入らない。

 ああ、またエサだけ取られた、くそぅ! エサだけじゃなくて針もちっちゃくないと嫌なのか? 真性だなてめぇら! 通報するぞ!


 沖の方なら、この針に合う大きい魚がいるんだろうけど、この辺は小魚ばっかりだ。この仕掛けじゃ釣れないよな。小さい針の仕掛けはないかな〜? ……無いなぁ。お、手釣りの糸巻きがある。

 ピーン! 閃きました!

 亜空間から鉛を少々引っ張り出して糸に巻き付けて……よし、できた! 糸を全部糸巻きから出して、端を手首に巻きつけてっと。よし、準備完了!

 針にエサを付けたら、重りの重さを利用してぶん回す! そして放す!


 ピュー……チュポンッ!


 よし、遠投成功! 余った糸を糸巻きに巻き直してっと。糸の長さ的には、これがほぼ限界かな。まぁ、あそこまで飛べば、そこそこの大物がいるだろう。あとは待つだけ。

 それじゃ、のんびり空でも見ながら釣れるのを待ちますか。


 あー、あの海鳥は何だろうなー。カモメじゃないよな、ウミネコかなー。飛び方はチョウゲンボウっぽいなー。


 ツン


 おっ、ダイブした。おー、水中まで突っ込んだ。んー、あっ、あんなところに出てきた。魚咥えてる。へー、上手いもんだ。俺も飛び込んで捕まえようかな。


 ツンツンッ


 おっ? おお、喰い付いた! フッキング! よし、乗った! ついにかかったか、ロリコン野郎! 逮捕する!

 うおおっ!? でかい、こいつでかいよ! 大きいお友達だよ! 引っ張られる!

 ぬう、負けるか! 俺だって大魔王で変質者だ! 知り合いに勇者だっている! 闇の深さじゃ貴様らより一段も二段も上だぜ! 変態マウントなら負けない!

 うぐうっ、走りやがった! 大きなお友達は運動が苦手なはずなのに! いや、限定品のためなら全力ダッシュするやつらだ、潜在的な体力はある!? 弱虫でもペダルを踏めばヒーローになれるというのか!?

 くっ、頑張りすぎると糸が切れるかもしれん! 膝と腕で上手く力を吸収しないと!

 ムッ、糸がたるんだ!? こっちに突っ込んでくるつもりか! 大きなお友達の常套手段、ボディプレスだな! 『手は出してませーん』ってやつだ!

 望むところだ、受けて立つ! うおおっ、全力糸巻き! 腹は弛ませても糸は弛ませない!

 ぬあっ、急に方向転換しやがった! 糸が切れる!? くうっ、形状変化ぁっ! 伸びろゴムゴムの腕!

 ふう、危ない危ない。やつの策に嵌まるところだったぜ。日頃から転売ヤーと戦ってる大きいお友達は知恵も回るからな。なかなか侮れん。

 おっ、抵抗が弱くなってきたな。大きなお友達は持久力が弱いやつが多いからな。こいつも体力が尽きたとみた! 攻めるなら今だ! ぬおおおっ、巻け巻けぇっ!

 よおし、寄って来た! でけぇ! これ、二メートル超えてるんじゃね? 玉網たも、玉網って、玉網じゃコイツは入らねぇよ!

 しょうがねぇ、再びのゴムゴムの腕! アンド鈎状変化! 背びれの付け根にぶっ刺す!

 うおりゃあぁっ! 一本釣りぃっ!


 ドスン!


 よっしゃぁ、取り込んだぜぇーっ! 大きいお友達、獲ったどーっ!

 これは……スズキか? サイズはメチャでかいけど、フォルムはヒラスズキっぽいな。ムニエルにすると美味いやつ。よろしく、ロリコンの鈴木さん。


 ビッタンビッタン!


 おっと、まだ鈴木さんは生きていた。さっさと絞めないと逃げられてしまう。ロリコンが世に放たれてしまう。確か、目と目の間からエラの上端あたりを狙って針を刺すんだっけか? 針が無いから槍でいいか。プスッとな。


 ビクンッ!


 よし、上手く絞められたっぽい。あとは亜空間にぽいっと。さようなら鈴木さん。ストレージのコレクションは消しておいてあげるから迷わず成仏してくれ。

 ふう、いい汗かいたぜ。いや、実際は汗なんて一滴も出てないけど。木だから樹液? いや、樹液も出てねぇよ。


「……じ、爺さん、今のは?」


 あ、おっちゃん、帰ってきてたのね。そちらの恰幅のいい女性がおカミさん?

 ……。

 ……。

 ……もしかして、見てた? 全部?


 やばーいっ! バレちゃった!


――釣りを獲得しました。


 いや、今それどころじゃねぇんだよ天の声さん!!

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