071

騎士団長ザルバとサイモンはしばらく謹慎になったわ。閉門蟄居ね」


 翌日、珍しく昼前にお城から帰ってきたナオミ。ってか、昨日は泊まりだったみたいだけどな。俺だけ先に帰ってきて、今日は朝から庭の畑で土いじり中だった。

 徹夜明けっぽいな、ちょっとおデコがテカってる。お疲れさまです。一筋だけ乱れた髪が首に絡んでて、なんか艶めかしい。

 俺のために頑張ってくれたんだろうと考えると頭が下がる思いだけど、普段強い美人が見せるちょっとした隙には下半身の頭が持ち上がりそうになる。うーん、俺ってゲス。

 まぁ、持ち上がらないんですけどね。ただの飾りなので。くそう、早く人間になりたーい!


 確か、閉門蟄居って単なる自宅謹慎じゃないんだよな。外部との接触は禁止、見張りも付いてて、謹慎というより監禁に近い罰だったはず。要は、やや緩めの禁固刑だ。実刑判決ってわけだな。

 事件の翌日に刑が執行されるとか、流石は異世界。しかも騎士団長なんていう上級国民でも忖度なしってところがス・テ・キ。

 まぁ、勇者からの糾弾だからな。平民の俺からの訴えだったら、きっと揉み消されてた。むしろ、俺が処罰されてた可能性すらある。勇者様々だな。ス・テ・キ。


 けど冤罪でも即日執行だと思うと、ちょっと怖い。再審とか無さそうだし、一度判決が下ったらそれで終わりかもしれない。無実の罪で処罰された人がいっぱい居そうだ。異世界怖い。身の振り方には要注意だな。


「それで、私の副官はエグジー、貴方で決まったわ。騎士団相手にひとりで大立ち回りをできるなら、私の背中を任せるに足りるってことね」

「うーん、最後はナオミに助けてもらっちまったからなぁ。俺的にはまだまだ力不足を感じてるんだけどな」

「何言ってるの、素晴らしい身のこなしだったわ! それに、私と貴方なら騎士団にだって勝てるってことよ! 自信を持っていいわ!」


 うん。ぶっちゃけ、騎士団だけなら俺ひとりでも勝てそうかなとは思った。あの程度なら亜空間コンボで楽勝。でも、大魔王としては勇者ナオミに助けてもらったって点がなぁ。

 多分、ナオミにはまだ隠してる奥の手があるはず。だって、闘気術だけなら槍聖と大差ないもん。勇者の勇者たるに相応しい力を、まだ隠し持ってるに違いない。あの戦いではそう感じた。

 まぁ、闘気術だけでも見れたってことで、得るものはあったかな? それに晴れて副官になれたんだから、まだナオミが隠してる力を知る機会はあるはず。


「そうだな。まだ始まったばかりだ。全てはこれからだよな」

「そうよ! これからふたりで頑張りましょう!」


 ナオミの笑顔が眩しい。いい子なんだよなぁ。

 そのいい子を騙して誑かして敵の中枢に潜入か。スパイだな。俺って悪人。まぁ、大魔王ですし? 悪人筆頭ですし?

 でも、スパイは大魔王のする仕事じゃないよな。その配下の、せいぜい四天王クラスまでがやる仕事だと思う。それも一番最初に倒される四天王。『クククッ、奴は四天王の中でも最弱』とか言われちゃう奴。

 俺の場合は大魔王だから『クククッ、奴は大魔王の中でも最弱』とか言われちゃうんだろうか? 誰に?


「それで、これからは私の護衛として一緒に行動してもらうことになるわ。最初は明日から連合軍の会議ね。席も発言権もなくて壁際に立ってるだけになるんだけど、各国代表に顔を覚えてもらわなきゃいけないの。ごめんね」

「壁の花ってわけか。いいぜ、せいぜい大輪の豆の花になってやるさ」

「ぷっ、なんで豆の花なのよ?」

「いや、豆っては役に立つし花も派手じゃないだろう? 影に徹する護衛にはぴったりじゃないか」

「あら、言われてみればそうね。ふふっ、いいわね。私、なんだか豆の花が好きになりそうよ」


 子供に嫌われる野菜常連、豆の地位向上に尽力する大魔王です。俺も本質的に豆の木ですので。

 でも俺、実は豆類があんまり好きじゃないんだよね。焼売にグリーンピースは要らない派。あのボソボソした食感がちょっとね。


「それじゃ、明日は一緒に登城しましょう。会議には陛下や賢者様も参加なされるから、ご無礼のないようにね」


 おおっ! ついに賢者との初顔合わせか!

 思えば、王都ここに来た最大の目的が賢者との接触だったんだよな、忘れかけてたぜ。畑いじってる場合じゃねぇ。

 しかも、この国の王様まで一緒か。多分、他の国の軍の指揮官クラスも一緒だろう。

 だったら、そこを魅了と闇魔法で一気に……いや、最初は様子見したほうがいいな。どんな技能スキル持ちがいるか分からないし。焦ってこれまでの積み重ねを無駄にするのは勿体ない。

 蒔いた種を育てるように、じっくりと丁寧に、だ。


「ところでエグジー。この畑って数日前に種を蒔いたばかりよね? どうしてもう青々と葉を繁らせているの? 麦よね、これ?」

「ああ、特別な麦でね。成長が早いんだよ」


 俺の眷属で成長促進があるからな。光と栄養と水があれば数日で収穫できちゃう。この庭の栄養と水、日当たりなら、多分二ヶ月くらいで収穫できるんじゃないかな?

 種を育てるようにじっくり? 丁寧? うん、ソウデスネ。



 ほほう、あれが皇国最大の漁業の街ヤマーンか。港町なのにヤマーン。

 水辺だけに木が育ちやすいのかね? 石造りじゃなくて木造の家が多いな。周囲の山にも緑が多い。

 おっ、桜みたいな白い花が満開の木も生えてるな。湖水に反射して綺麗だ。


 ってか、ここ海じゃないじゃん! 湖じゃん! 対岸見えてるじゃん!

 はるばる船に乗ってやってきたというのに、これじゃ海産物が入手できないじゃん!

 カツオにサバにアジにサンマ、マグロにホタテにアワビにサザエ! ワカメにコンブにノリにモズク! 俺の海産物パラダイスは何処だ!?

 ちっ、しょうがねぇ。ここは湖の水産物で我慢してやるか。もしかしたらワカサギくらいはいるかもしれないしな。天ぷらにして食ってやるぜ!


 ふーん、海岸線、じゃないな、湖岸線は結構入り組んでるっぽい。広い湖と思ったけど、街の対岸あたりから奥にはまだ湖が広がってるみたい。先が見えない。

 あ、あっちの先にも街があるのかな? 岬の影から船が出てきた。三隻か。ジャンク船っぽい小型船だな。漁師か? こっちに向かってくる。

 あー、マストの先に黒い旗がついてるな。大漁旗……じゃないな。舳先に曲剣を持った男たちが見える。ってことは、もしかして?


「か、海賊だ―っ!」


 やっぱりか!

 って、湖なら湖賊じゃねぇの? どっちでもいいって? うん、そうだね。

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