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 とりあえず、避けられるものは避ける! ダメそうなら、形状変化で硬質化させた腕や足で受ける! そして相手の身体を盾にしつつ乱戦に持ち込んで、囲みを抜けて不利な状況から脱出する! あとは逃げながら各個撃破! うん、これだな、これしかない!


「攻撃は常に三人までだ! 残りは囲んで逃がすな!」

「「「はっ!」」」


 なんだとーっ!? なんて指示をするんだこのおっさん! いや、適切だけどさ、そんなところで有能さを発揮するなよ! バカ親父のままでいろよ!


「やめなさい! みんな、やめるのよ!」

「申し訳ありません、勇者様。我々は騎士。団長の命令とあれば手を止めるわけにはいかないのです」


 ナオミが叫んでる。騎士のひとりがそれに答えてるのが、囲みの向こう側から聞こえてくる。ちっ、これだから頭の硬い軍人は!


 むう、ヤバいな。無傷で抜けられる気がしない。

 いや、亜空間に逃げ込むなりコイツラを放り込むなりすればできるんだけど、魔法を使うと警戒されてしまうかもしれないからなぁ。

 普通の火とか水とかの魔法と違って、それ以外の魔法ってかなり特殊らしいからな。旅の間にナオミから聞いたんだけど、名持ちクラスが持つ魔法らしい。けど俺、名持ちになる前から覚えたけどな。

 そんな特殊な魔法持ちが誰にも知られずに傭兵をしてましたなんていうのは、相当に無理がある。もし使えることがバレたら、実は名持ちでどこかのスパイなんじゃないかと疑われてしまうかもしれない。いや実際、大魔王のスパイなんですけどね。というか大魔王本人なんですけどね。

 というわけで、使ったら軍に潜り込むのが難しくなってしまうかもしれない。使わずになんとか切り抜けないと。

 二、三発喰らうのを覚悟して、攻撃を無視して囲みを突破するしかないか……いや? そういえば俺も普通の魔法を持ってたな。


「仕方がない、奥の手を使わせてもらうぜ! 『爆風』!」


 ボフンッ!


「うわっ!?」

「ぬうっ!」


 ふははっ! 種飛ばし魔法こと風魔法だ! 家の断熱にも使えて便利ですよ? 攻撃に使ったことがなかったから忘れてたよ。

 吹き飛べ木っ端共! ユーキャンフライ、君たちは大空へ飛び立て! 俺はその間に囲みを抜ける!


「逃がすか!」


 なっ!? もう復活したのか、ザルバのとっつぁん! てめぇはもう俺に負けただろうが、邪魔するんじゃねぇ!


「フハハハハッ、これで終わりだ、死ねぇい!」


 やばい、騎士共が邪魔で避ける場所がない! 受け止めるにも槍がない!

 どうする俺様! 絶体絶命のピンチ!?


「やめなさいと……」


 ん? ナオミ?


「言っているでしょおぉーっ!!」


 ドカァーンッ!


「ぬおぉっ!?」

「「「うわぁーっ!?」」」

「うおぉっ!?」


 なんだ!? 衝撃波!? 囲みの騎士共とザルバが吹き飛んだ! ってか、俺も吹き飛んだ! アイキャンフライ!? 転生してから、飛ぶ機会が多くないか俺!?

 ぬおおぉぉっ、あいててっ! 転がる、目が回るぅ〜! ライクアローリングストーン! ていっ、横受け身! よし止まった! 俺は女王様クイーン派だ、私達は六級ウィーウィルでしょうロッキュー


 おー、皆伸びてる。騎士男きしめん茹ですぎって感じかな。ちょっと硬めのあの歯ごたえが美味しいのに、伸び切ったこいつらは全然うまそうじゃない。

 おっと、スーツがホコリまみれだ。これは紳士らしくない。パンパンッと。ついでに髪も整えて眼鏡も直してっと……よし、紳士OK。


「エグジー!」


 ナオミが駆け寄ってくる……踏んでるな、騎士。見えてないのか、それとも意図的か。女の心理は分からない。まぁ、踏まれてるほうも若干嬉しそうだからいいか。いいのか?


「ナオミ、助かったよ。ありがとう」

「ううん、私の方こそごめんなさい! まさかこんなことになるなんて……」

「気にすることはないさ。女のために体を張るのは男の役目だからな。ナオミくらい良い女のためなら、この程度はどうってことない」

「もう、エグジーったら!(キュンキュン!)」


 ふっ、また好感度を上げちまったらしい。俺が異世界の落とし神の名を継ぐ日も近いかもな。それがいつの日なのかは神のみぞ知る異世界。

 足元に転がる騎士共から嫉妬のオーラが立ち上ってるような気がするけど気にしない。まだナオミが踏んでるけど気にしない。


「しかし、凄い技だったな。騎士が皆吹き飛んじまった」

「『オーラバースト』っていう技なの。勇者の固有技能の『闘気術』を利用したものよ」

「へぇ、流石は勇者だな。やっぱりナオミは凄いよ」

「そう? うふふ、褒めても何も出ないわよ?」


 いやいや、誇らしげに突き出されたそのお胸様だけで十分ですとも。十分出てます。


 闘気術か。槍聖の槍聖術みたいなものだろうな。喰らった感じ、気合を物理的な力に変えて放出する技っぽい。

 練習すれば○動拳とか気功○とか撃てそうだ。もし覇○至高拳レベルまで鍛えられてたら、俺の光魔法も消されちゃう可能性がある。ヤバい。

 槍聖術も似たようなものだけど、槍聖術は槍に纏わせるくらいしかできないんだよな。使い勝手は闘気術のほうが良さそうだ。

 おい、負けてるぞ槍聖! クリスの尻を追っかけてる場合じゃない、鍛えるんだ!


「ぐぬぬぅ、なぜだ、なぜ邪魔をする、ナオミ!」


 ほう、もう動けるのか。やっぱり頑丈だな、ザルバ。回復力だけは名持ち並かも。


「当たり前でしょう! 大魔王討伐に彼の力は不可欠だわ! それを害しようだなんて言語道断、貴方の行いは陛下にしっかり報告しますからね!」

「それは違う! ワシはお前とサイモンの幸せを想って……」

「余計なお世話よ! 私の幸せは私自身の手で掴んでみせるわ! 行きましょう、エグジー」


 取り付く島もないとはこの事だな。オカンムリの女性には言い訳なんて通用しない。平謝り一択だ。まだまだ経験が足りんな、ザルバ君。

 ああ、帰りも踏んで行くんだね。相当オカンムリっぽい。踏まれた騎士たちが嬉しそうなのが救いか。救いか?


 さて、なんとか乗り切ったな。全く、ひどい目に遭った。やれやれだ。

 けど、ナオミの好感度は爆上がりしたみたいだし、どうやら副官の座も確保できそうだ。邪魔になる可能性のあったザルバも排除されるだろうし、終わってみれば、全てが最善の結果に落ち着いてめでたしめでたしってところか。自分の豪運が恐ろしいぜ。


 あとは賢者に渡りをつけて、惑星崩壊の原因究明を依頼すれば当面の任務はコンプリートだな。順調順調。帰る足取りも軽いってもんだ。


「ぐえっ!」


 おっと、俺も踏んでしまった。すまんなサイモン君。わざとだ、許せ。

 あ、でも槍は返してね。またスネ毛を抜くのは痛いから。

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