068
さてと。王都に潜入できたのはいいとして、ここからどうするかだな。
って、そういうのは潜入してすぐに考えろよ俺。もう十日も経っちゃってるじゃん。
いやぁ、あまりにもいたれりつくせりで、上げ膳据え膳を満喫しちゃってたよ。普段、エグジーと苗木ちゃん以外は全員が尽くす側の立場だもんな。あれ? 大魔王って何?
まぁいい、深く考えるのはやめよう。これ以上は精神衛生上良くない気がする。
最優先なのは、やっぱ賢者との接触だよな。
惑星崩壊の原因を探り出してもらって、その回避策も考えてもらわないと。俺だけ悩むのは不公平だ。一緒に苦労、いや、幸せになろうよ?
二番目が、討伐軍の動向調査かな。
可能であれば戦争は回避したい。戦争なんて時間と労力の無駄だ。やらないで済むなら、それに越したことはない。大魔王様は平和主義。
三番目は、食材や調味料の確保だな。
食材と調味料が限られてるから、そろそろバリエーションも限界だ。調味料、特に砂糖が欲しい。キキに甘味を食べさせてあげたいんだよな。薄味でいいんだ、甘い物を食べさせてあげたい。甘さ控えめプリンとか。
森の中に蜂は居るんだけど、赤ちゃんに蜂蜜は厳禁だからなぁ。ボツリヌスだっけか? 蜂蜜の中に何か細菌が居るらしいんだよな。抵抗力のない赤ちゃんだと命にかかわるんだとか。
この中ですぐに対応できそうなのは……三番かなぁ。一番優先度が低いことが一番手をつけやすいという、この現実の融通の効かなさよ。
賢者に会うのは勇者のコネがあれば可能だと思うけど、すぐに対応してもらうのは難しい……っていうか気が引ける。
ナオミは報告やら討伐軍の編成やらで忙しそうなんだよな。王都に帰ってきてから、ほとんど屋敷に戻ってきてない。戻っても、夜中に帰ってきて早朝には出ていくから、俺と顔を合わせる機会もほとんどない。相当ブラックな職場みたいだな、王国貴族。
そんなわけで、暇を持て余した大魔王様は家庭菜園を作成中です。有閑マダムっぽいザマス? マダムならガーデニングか。じゃあ定年後のお祖父ちゃん?
屋敷の庭の一角を借りて、まずは芋と麦を植えてみた。『俺の出身地の作物なんです、故郷の味を再現したくて』とか、適当な理由をつけて。
いや、間違ってないよ? 実際、俺が生えてた山の中の作物だし。今も育ててるし食べてるから、特に懐かしいって感じがしないだけで。
高地に適応した植物だからちゃんと育つかどうか心配だったけど、ちゃんと芽が出たよ。しかもたった三日で。流石は俺の眷属、生命力が強い。
こいつら、生命力が強いのはいいんだけど、強すぎて地力を吸いまくっちゃうんだよな。他の植物が育たなくなってしまうくらい。まさに特定外来種。バイオテロと言われても否定できない。
まぁ、俺としては問題ないんだけどな。眷属が拡散すれば、俺の行動範囲も広がるんだし。
いや待て? これって支配の手段に使えるんじゃ?
俺の眷属の芋と麦は、味が良くて収穫量が多い上に成長も早い。従来品種を駆逐するのは時間の問題だ。そして、俺の眷属を一度植えると、他の芋や麦はもう育たない。
俺の眷属しか育たないとなれば以後は俺の眷属を植え続けるしかないわけで、それは俺に生命線を握られるってことだ。『食料が欲しかったら俺に従え!』なんてことができてしまう。うん、悪役っぽい。でも大魔王というよりは小悪党な感じだな。俺にぴったり? うっせぇわ!
まぁ、いくら成長促進があっても、一年や二年で国の農業事情を変えられるほどの拡散は難しいだろうけどな。でも、やらないよりやったほうがマシか。打てる手は打っておこう。
というわけで、その第一歩だ。小さな事からコツコツと、小さな畑からボチボチと。暇つぶしが意味のある行動になって良かった。
苗木ちゃんの街でも育てるか? あっちは俺の支配領域だから、大大的に栽培しても問題ない、はず。
川があるから水は問題ないし、肥料を作らせてるから地力が無くなっても補充できる。うん、アリだな。
よし、早速豚領主に作らせよう! 大規模プランテーションだ! ついでに牧場も作って家畜も増やす! もう鹿肉は飽きた、牛肉が食いたい!
「エグジー、少しいいかしら?」
「うん?」
おや、いつの間にか帰ってきてたんだな、ナオミ。まだ昼間なのに珍しい。土いじりに夢中になってたから気付かなかった。
「あのね、その、すごく申し訳ないんだけど……貴方にお願いがあるの」
うん? 話を振ってきた割に、なんか言いづらそうにしてるな。頼み事って、何か面倒な問題でも起こったか? 俺は傭兵ってことになってるから、もしかしたら戦争参加の要請だったり?
「その、実は、貴方に遠征軍への参加をお願いしたいんだけど」
「ああ、そんなことか。俺は傭兵だからな。適正な報酬を貰えるなら願ったり叶ったりだ」
戦争への参加要請だったか。まぁ、これは予定通りだ。遠征軍の内部に潜り込むなら、それが一番手っ取り早いからな。
なんなら無報酬でもいいくらいなんだけど、それだと傭兵らしくないから怪しまれるかもしれないし、貰えるものはもらっておく。一石二鳥だ。
「そ、そう! ありがとう! 貴方ならそう言ってくれると思ってたわ! それで、その、実はもうひとつお願いがあって……」
ふむ? ナオミがモジモジすると、その大きなお胸様も擦り合わされてモジモジされるので、とても眼福ですよ? じゃなくて?
「その、貴方と騎士団長で立ち合いをしてほしいの……」
……はい?
「あのね、貴方を是非私の副官にって推薦したんだけど、そうしたら『得体のしれない、実力も分からない輩を軍の中枢に入れることはできない』って騎士団長が言い出して……」
「ああ、それで俺の実力を自分で計りたいと」
「そうなの。騎士団長は剣の腕で上り詰めた人だから」
体育会系かぁ、苦手なタイプだな。近くに居ると暑苦しそうだ。
けど、ナオミの副官っていうのはありがたいな。遠征軍の中心になる勇者の副官なら、軍の動向が手にとるように分かるはず。立場的には最高だ。
「いいぜ。俺も実力を見せておかないと、報酬を値切られるかもしれないしな。腕を高く売りつけるいい機会だ」
「もう、冗談じゃないのよ! 騎士団長の剣の腕前は私以上なんだから! 怪我したらどうするの!」
「けど、俺がナオミの隣にいるためには必要なんだろう?」
「えっ……そっ、それはそうだけど……」
どうよ、この切り返し? 伊達に長年ヲタクをやってたわけじゃないぜ! ギャルゲーにアニメ、コミックを読み漁っていれば、このぐらいのセリフは軽い軽い。
まぁ、ぶっちゃけ並列思考のおかげなんですけどね。
けど、効果は抜群だったみたいだな。ナオミのほっぺたが赤くなってる。モジモジも更にモジモジで、お胸様はムニュムニュがムニュムニュだ。あの谷間に挟まれたい。
「それで、その手合わせはいつどこでやるんだ?」
「そ、そうね! 急で悪いんだけど、これから騎士団の練兵場でお願い!」
いや、マジで急だな!
ってか、既に決められてるとか、最初から俺に拒否権はなかったわけね。流石はお貴族様、庶民の都合は関係なしですか、そうですか。
いいんですけどね! どうせ暇してたし! 畑耕してたし!
けどその騎士団長、勇者よりも腕が立つっていうなら、その実力を肌で知っておくことは無駄じゃない。肌じゃなくて木の皮だけど。
王国の騎士団長さんよ、どうやら腕前を試させてもらうのは俺のほうみたいだぜ? ニヤリ。
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