062

「バフンをスラムのジュウニンにアツめさせろ!」


 ペシンッ!


「あはぁっ! はい、承知致しました!」

「アツめたバフンはマチのコウガイでハッコウさせてヒリョウにするのだ! ナノカにイッカイ、スコしのミズをかけてカきマぜさせろ!」


 パチンッ!


「いひぃっ! はい、承知致しました!」

「ヒトのフンニョウもアツめさせろ! ミチやアキチにスてるのはキンシだ! ビョウキのモトになる!」


 ペチンッ!


「うふぅっ! はい、承知致しました!」


 俺は何をしているんだろう?

 両手両膝をついた中年太りのオッサンの尻を枝で張り飛ばす。これ、大魔王の仕事か? 何か間違ってないか?


「ヒトのフンニョウはバフンとはベツにアナをホってそこへスてさせろ! それもハッコウするとヒリョウになる!」


 ピシィッ!


「おほぉっ! はい、承知致しました!」

「スラムのレンチュウへのシハラいをオしむな! カネがあればハンザイがヘる! マチのヘイワへのトウシだとオモえ!」


 パシィッ!


「くはぁっ! はい、承知致しました!」

「わかったらさっさとイけ! このブタヤロウ!」


 ビシビシビシィッ!


「んほぉおぅっ! イきます、イきますぅっ!」


 くそっ、どんどん従順なドM豚になりやがる! ビクビクしてんじゃねぇよ!


 ――調教を獲得しました。


 いまさら技能スキル!? 普通、調教師の称号と一緒に獲得するものじゃないの!?

 っていうか俺、技能無しで調教してたの!? 技能が必要ないくらい調教師の才能があった!? その方がショックだよ!

 くっ、技能があると支配は楽になるけど……俺のSAN値は下がりっぱなしだ。何の罰ゲームだコレ?


 はぁ。

 まぁいいか。これでこの街も少しは住みやすくなるだろう。フンの収集が習慣になるまで、まだしばらくは臭いかもしれないけどな。そうしたら、また大嵐で押し流すだけだ。

 あの豚領主は、あれで結構優秀な為政者らしいから、指示を出しておけば適切に処理してくれるだろう。多分。


 なんだかんだで、この街はもう俺の手の内だ。住民の知らない間に大魔王の占領下だ。世界はこうやって静かに変わっていくのだよ、フハハハハハ!

 となれば、ここはもう苗木ちゃんだけで十分。もうアーサーを張り付けておく理由はないな。次の街へ向かわせようかな。

 ここから次に近い街っていうと、川を南に下った漁業の街か、川を渡って南西へ向かった先の山裾の街か。皇都はこの山裾の街の更に南西だったな。遠い。

 んー、よし! 漁業の街にしよう。

 いきなり皇都占領っていうのは効率が良さそうだけど、何か防御機構があると面倒だ。魔法や技能がある世界だから、それへの対抗策が有っても不思議じゃない。

 たとえば治安維持専門の秘密戦隊が居たりとかな。悪の秘密結社の天敵。秘密にする気ゼロのカラフルな五人組。あ、それは砂漠にいたな。サボテンだったけど。

 俺は慎重派の大魔王。着実に確実に堅実に足場を固めていくのだ。なので、先ずは守りの緩そうな地方から攻めていく。

 いやいや、海魚や海藻類を食事のバリエーションに加えたいとか考えてないよ? カツオかサバかコンブで出汁を取りたいとか思ってないって。マジでマジで。占領のついでに入手できたらいいなぁって思ってるだけ。

 さぁ、いざ征かん! 更なる食材を求めて!



 ゼブ、お前どうした? なんでそんな超ゴリマッチョになってしまった?

 腹筋って、普通はシックスパックだよな? お前、一、二、三、四……テンパックになってるじゃん。ヘソの下に四つ盛り上がりが出来てるのはなんで? オークってそうなの?

 大胸筋もすげぇ。カップで言うとKカップくらいか? 左右で別々に動かせるのな。大胸筋が歩いてるよ。仕上がってる。

 広背筋もモリモリじゃん。鬼が睨んでるように見えなくもない? オークなのにオーガ背負ってどうすんだよ。息子とケンカでもするのか? バキバキしちゃう?

 上腕筋も大腿筋も太いな。足一本でネコ耳一人分くらいの重さがありそうじゃないか。その腿で膝枕したら絶対肩凝るよ。される方にしておけ。してくれる人が居るかどうかは知らん。

 ぶっちゃけ、格ゲーでグルグル回ってるレスラーよりもゴリマッチョじゃん。捻子巻きスクリューどころか電動ドリルなパイルドライバーで投げまくりそうだよ。


 たった数日で、なんでこうなった? これも成長促進の効果か? ちょっと極端過ぎない?

 確かに、時間があるときはアローズやライアンの動きを真似させたり筋トレしたりはしてたけど、それはアローズやライアンも同じはず。あいつらは普通なんだよな。ゴリマッチョにはなってない。せいぜいプチマッチョくらい。

 あいつらとゼブの違い……やっぱオークだからなのかなぁ?

 集落にいる奴らは、以前まえのゼブと同じような不健康デブな体形なんだけど……これが本来のオークの体形なのか? あいつらは栄養が足りてない、あるいは偏ってるからあの体形で、ゼブは十分な栄養を摂ってるから本来の体形に戻ったってこと?


 ふーむ。やってみるか。

 丁度いい称号も手に入ったしな。欲しくもなかった調教師の称号だけど、ほとんど野生動物なオークたちを躾けるのには役立つだろう。役立つと信じたい。

 で、ゼブをあの集落のボスにして乗っ取る!

 調教して餌付けして従順なペットにしたら、ちゃんとした集落と畑を作らせて自活させる。

 あいつら狩猟採取生活だから、放っておくとネコ耳の集落まで襲いそうなんだよな。なんでも喰っちゃうから、このままだとネコ耳たちが喰われて全滅しかねん。早めに手を打たないと。

 このゴリマッチョボディなら兵士にもできる? いや、オークもペット枠だからな。豚だし。ペットは飼うだけ。戦わせない。

 それに、もしヒト族が攻めてきたら、オークたちも虐殺されそうなんだよなぁ。今のうちに避難させるか自衛手段を持たせておかないと。


 街で豚領主を躾けて、山ではオークを躾ける……豚を躾けてばっかりだ。俺の人生っていったい……大魔王の仕事っていったい……。

 この分だと、海に行ったら海豚を躾けることになるかも……いや、それはアリだな! ぜひ躾けて背中に乗せてもらおう!

 よし、ちょっとSAN値が回復した! 俺はまだ頑張れる!

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