061

「ああ、なんて美しいんだ……繊細な枝ぶりのなかにある力強さと色気……君に比べたら、これまで集めた美術品がゴミに思えてくるよ」


 無事、領主の屋敷へ潜入(?)成功!

 大きめの鉢に植え替えられて二階のベランダまで持って来られたんだけど……この鉢、もしかしてお高い? 蒼地に金色の唐草がピカピカなんですけど。ひょっとして、その部屋にある美術品のお仲間? おいくら万円?

 魅了ってすげぇ。元雑草の俺がこんなにチヤホヤされちゃうんだからな。調子にのってしまいそう。ほら、もっとかしずきなさい!


「はぁ、はぁ」


 お、おいオッサン、息が荒いぞ? 大丈夫か? 血圧上がってない?


「はぁ、はぁ、なんて、なんて妖艶なんだっ! もう我慢できん!」


 うぎゃあーっ、何ズボン脱いでんだ!? オッサンのナニなんて見たくねぇぞ!


「ああっ! 君に、君に私の全てをっ!」


 ぎゃーっ、やめてーっ! 変態に犯されるぅ―っ! 助けてぇー、寄るなぁーっ! 擦り付けないでぇーっ!


 って、


「いいカゲンにしろ!」


 ぺしっ!


「あ痛っ!?」


 あ、やべ。思わず叩いちゃったよ。声も出ちゃった。豊〇愛生の松ぼっくり風の声。愛される植物系ってことで練習してました。\コンニチワ/。

 もういいか。

 犯されそうになってまで潜入を続ける意味ないしな。サクッとこの街を大崩壊させてとんずらしよう。

 まぁ、その前に文句言ってやるけど。


「おマエ、いいカゲンにしろよ! ボクにはオッサンのチ〇ポをメでるシュミはないんだよ!」


 ペシペシペシッ!


「おうおうおうっ!?」


 往復びんた喰らわしてやったぜ! まぁ、苗木の小枝だから、ダメージは無いだろうけどな。むしろご褒美か?

 けどどうよ、動く植物、魔物だぜ? 街の中に魔物だぜ? ビビったろ? ビビったよな!


「……なんてことだ……なんという事だ!」


 よしっ、立ち去る前にビビらせてやったぜ! そうだよ、その呆然とした顔が見たかったんだよ! くくくっ、後は街を徹底的に……


「神よ、感謝致します!」


 は?


「私の愛の力で、この木が命を授かるという奇跡を御起こしくださりましたことに感謝致します! 私の! 愛の力で!」

「チゲェよ!」


 ペシィッ!


「あふん!」


 お前の愛なんて一ミリも絡んでねぇよ! 俺の誕生には見たことも無い親草と俺しか関係者はいねぇ!


「ああ、声も可愛らしいね。まるで妖精だ。ああっ、ごめんよ! 怖がらせてしまったんだね!? そんなつもりじゃなかったんだ! 君が可愛い過ぎたから思わず欲情してしまっただけなんだよ!」

「いいからハヤくそのミニクいイチモツをシマえ!」


 言い訳が何の言い訳にもなってねぇし! 身の危険しか感じねぇし!

 大体、いつまで振り回してるつもりだ! 自分のモノならともかく、中年太りのオッサンのモノなんて見たくねぇ! しかもまだガチガチじゃねぇか! 元気だな!



「……というわけだ! オドロいたか!」


 落ち着いたオッサンに俺が大魔王の配下(実は本人だけど)ということを明かした。どうだ、恐れおののけ!


「ああ、動いて話す君はやはり可愛いなぁ……」

「キけよ!」


 ペチィッ!


「あふん! ああ、ごめんごめん。そうか、君は大魔王様の配下なのか。小さいのに凄いなぁ」


 くそ、こいつ手強い! いくら叩いても全然こたえねぇ。それどころか喜んでやがる。

 顔は赤いし目も潤んで鼻息が荒い。メッチャ興奮してやがる。この変態め!


「そうだ! ジュウリンされたくなかったら、オトナしくダイマオウサマのグンモンにクダれ!」

「ああ、分かったよ。私は今日から大魔王様の、いや、君のしもべだ」


 あ、え? 即答?


「君への愛の前に、全ては等しく無価値なのさ! こんなにも満たされている私には、他の何も必要ない! 他の何も恐ろしくはない! 愛に生きる私は無敵なのさ!!」

「そ、そうか。そうか?」


 まぁ、本人がそう言うならいいんだけど。


 ――ヒューム(オス・四十三歳)を眷属にしました。

 ――領域支配権を獲得しました。


 おっ、このパターンは初めてだな。領域支配者エリアボスを直接仲間にしたらこんなメッセージになるのか。そしてオッサンは名持ちではないと。

 というか、領主を取り込むと支配権を自動でゲットできるのな。これは楽でいい。魅了だけじゃなくて話術の効果もあったのかも。


 隠密で潜入して魅了と話術のコンボで領主を攻略、領域ゲット! 完璧じゃないか!

 この方法でじわじわと皇国の領域を蚕食して、最終的に全土を属国化してやろう! 無血征服だ!


「はぁ、はぁ、だから私に愛のご褒美をっ!」

「キモい!」


 ペチィッ!


「あふん! ありがとうございます!」


 くそ、この変態め! 叩かれて喜びやがって!

 魅了はヤバいかもしれん、変態を量産してしまう可能性がある。このまま領域を広げていくと、皇国が変態の国になってしまう!?

 変質者の治める変態の国……なんて嫌な国だ!


 いや、それ以前に貞操の危機が! 嫌だ、男に掘られたくはない! 女に掘られるって状況は……アリかな? 美女なら? BBAはやだな。


 ――ボン=チキングは『調教師』の称号を獲得しました。


 ぎゃーっ! また変な称号がーっ! 変質者が絶対に持ってはいけない称号が―っ!

 天の声さん、貴女は俺を何処へ連れて行こうっていうんだーっ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る