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 お爺ちゃんアーサーの潜入報告のコーナーっ!


 〇月△日、晴れ。臭い。

 城塞都市に潜入して十日経過したけど、まだこの臭いに慣れない。臭い。

 潜入したときには気付かなかったけど、街のあちこちに糞尿が落ちてる。臭い。

 街中を馬車が走ってるから、そいつが糞尿を落としていくんだけど、それだけじゃなくて、街の裏路地とかには人の糞尿まで落ちてる。臭い。

 どうも、壺にため込んだ糞尿を裏路地に捨ててるっぽい。突然上から降ってきたりしてメッチャスリリング。臭い。

 中世のヨーロッパとかもこんな感じだったらしいけど、これは現代人の俺にはキツイ。無駄に有能な疑似知覚が恨めしい。臭い。

 中世ヨーロッパじゃ糞を踏まないようにハイヒールが生まれたらしいけど、この街ではまだ生まれてないっぽい。みんなサンダルか木靴だ。それで糞を踏みつけて生活してる。汚い。臭い。

 周りを城壁で囲ってるから風も通らない。臭いが籠って、なんなら熟成されてる気もする。臭い。

 川べりだけは風が通るから、少しだけマシ。臭いに耐えられなくなったらここに避難してる。臭い。

 これ、いつ疫病が発生してもおかしくないんじゃない? もしかして、あの村の疫病もこの街から持ち込まれたとか? 十分あり得るな。臭い。


 肝心の軍や貴族の動向だけど、大きな進展はないっぽい。臭い。

 大魔王討伐連合軍を派遣することは決定らしいけど、進軍ルートの決定で揉めているらしい。臭い。

 どの国も自分の国を通らせたくないっていうのがその理由。臭い。

 国内を軍が通ると、人馬の糧食やら燃料の薪やらの戦費を負担しなければいけなくなる。それが嫌で揉めてるらしい。この街を治める領主が言ってた。臭い。

 なんで勇者が砂漠の調査をしてるのかと思ってたんだけど、あそこならどこの領土でもない、ジャンボサボテンこと砂塵魔王の支配領域だかららしい。それなら戦費の負担は各国平等ということだな。臭い。

 そうしたら、今度は軍を出す事自体を嫌がる国が出てきたらしい。他でもない、この皇国なんだけど。戦費を出来るだけ出したくないってわけだな。せこい。臭い。

 どうせならこのまま連合軍が瓦解してくれると有難いんだけど、それは楽観的過ぎるかな? 臭い。

 アローズやライアンに聞いた限りでは、出来るだけ早く討伐するって方針だったらしいんだけどな。俺が先遣隊を殲滅しちゃったから、各国とも慎重になってるのかもしれない。結果オーライだったな。臭い。


 この国の文化についてもだいたい分かった。概ねアラビア~ンだ。臭い。

 暑くて臭くて、乾燥してて臭くて、男は髭モジャで臭くて、女は全身が隠れる服を着ていて臭い。マジで臭い!


 臭い、臭いよ! 臭過ぎる!!

 もう我慢できん! やってられるか! やってやる!

 出力全開、全分身全砲門開け! 超、水生成アンド風魔法発射!!


 ドッパーンッ! ゴゴゴーッ!


「うわぁーっ!?」

「きゃーっ!?」

「水が、水がーっ!」


 名付けて『グ〇ートタイフーン』! 嵐を呼ぶぜ!


「マイケル、マイケルが空にっ! 誰か助けて―っ!?」

「ママーっ!」


 おっとやりすぎた。子供に被害が出るのはいただけない。マイケル君、ごめんね。風魔法でソフトランディングだ。


 ふう、スッキリした。道は綺麗になったし、臭いもかなり薄くなった。

 街はボロボロになったけど、些細なことだ。何人か流されたのが見えたけど、大人は自力で解決しろ。糞尿ばら撒いた罰だ。

 しばらくしたらまた臭くなるんだろうけど、そうしたらまたグレート〇イフーンしてやろう。そう、俺は嵐を呼ぶ男、あるいは街の掃除屋。

 お、外壁が崩れてるな。風通しが良くなって臭いも籠り辛くなるだろう。良かった良かった。


「な、なんということだ……我がゴッツの街が……」


 おっ、お貴族様が屋敷から出てきた。珍しくというか、初めてだな、ひとりでいるのを見るのは。いつもは護衛とか取り巻きとか、誰かしらが傍に居るんだけど、今回は皆それどころじゃないのかも。

 あっ、これってチャンスか? 今なら魅了なり闇魔法なりで思うままにできるかも!

 よし、思い立ったが吉日! 苗木ちゃん、メロメロにしてやりなさい! 魅了でゴー! メロメロパーンチッ!


 ビクンッ!


 かかった? こっち見てるな。動きは止まってるけど……ええい、分からないときは重ね掛けだ! 魅了おかわり!


 ビクビクンッ!


 どうだ!? 顔が紅潮してるから、かかってるとは思うんだけど……お、こっちに来た。


「ああ、なんて美しい枝ぶりなんだ……幹の捻じれなんて色気を感じる程じゃないか……青々とした葉に光る水滴も艶めかしい。こんな庭の隅で放置しておくのは勿体ない。鉢に植えて、私の部屋の一番日当たりのいい場所に置いてあげよう」


 おう!? 魅了成功、か?

 盆栽愛好家、いや変態がひとり生まれただけのような気もするけど。

 いや、これで更に情報収集が捗るというものだ。良しとしよう。

 また一歩、野望に近付いた! 女児パンツと縞パンツを世界に広めるという野望が!

 あれ、俺何のために街へ潜入したんだっけ?



「臭い」


 キキ、出ちゃった?


「あぶぅー」


 うーん、まだパンツトレーニングは早かったかなぁ? 伝い歩きが出来るようになったから、もう始める頃かと思ったんだけど。アヒルのおまるも用意したのに。

 まぁいいか。それじゃオムツを交換……


「だぁーっ!」


 あっ、こら待て、何故逃げる!? オムツを替えさせなさい!


「きゃあーっ!」


 待て、待ってぇ! 遊んでるんじゃないの、オムツを替えさせてーっ! 臭いのぉーっ!

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