057
亜空間経由で地下都市へ。
一瞬見えた巨大サボテンに全員驚いてたけど、まぁ、アレはそういうものだと納得してくれ。牛久に行ったら大仏が見えるだろう? アレと一緒。亜空間名物巨大サボテン。
けどなんか、ちょっと大きくなってる気がするんだよなぁ、あいつ。暴れられたら困るから日光浴と水やりは欠かしてないけど、もしかしてやりすぎか? ちょっと水の量を減らしてみるか。水をやり過ぎると腐るっていうしな。霧吹き程度にしておこう。
「はーい、ツアーの皆さんは離れずついてきてくださいねー。迷子になったらその場で動かないでくださいねー。知らない人についていったら駄目ですよー」
「はーい!」
返事をしてくれたのはクリスだけか。ノリが悪いな。いや、オッサンに『はーい!』とか言われてもキモいだけだな。これでいいのだ。
まぁ、迷子になんてなりようがないんだけどな。亜空間から出たらすぐに居住区に使ってる宿屋っぽい建物だし。
「パパイヤさーん、ラナさんが居ませーん!」
「なにぃっ!?」
マジか!? マジだ! 亜空間から出たのは一緒だったのに、この一瞬で迷子になっただと!? あの巨乳姉さん、何者だ!?
しかし、各所に配置した俺の分身街灯監視網からは逃げられないぜ。お、居た居た。この建物の裏か。流石にそう遠くへは行ってなかったな。
珍しそうにキョロキョロしてる。ははぁん、物珍しさにフラフラしてて
まぁ、ここにはチンピラも警察も居ないから、そんな心配は無用だけどな。
分身街灯で亜空間に拉致! そしてパパイヤの亜空間から出す!
「あら、またサボテン? じゃなくてパパイヤ様?」
「オレはサボテンじゃないよ。お帰り。街を散策するのは宿に着いてからにしてもらえるかな?」
「も、申し訳ございません! 珍しくてつい……」
ワザとじゃないみたいだな。どうやら天然っぽい。
……天然が一番困るんだよなぁ。予測が出来ん。
……まさかこのお姉さん、妙な
そうだよな、今までプラスな技能ばっかりだったけど、可能性としてはあるよな、マイナスの技能。『不器用』とか『メシマズ』とか『意識高い系』とか。
いらんぞ、そんな技能! 迷子になって泣きながら交番に連れて来られる意識高い系の大魔王とか、どんなシチュエーションだよ!
『僕が迷子になったのは人の混雑が原因だから、街の人口を減らすために粛清しなければなりません』なんて言われたら、犬のお巡りさんじゃなくても困ってしまうわ!
……お姉さんは名持ちにはすまい。危険だ。今後は名持ちにする前によく観察することにしよう。そうしよう。
「じゃ、マーリン、あとはよろしく」
「引き受けました。お気をつけて」
待っていたマーリンにバトンタッチ。パパイヤの仕事はここまで。本来の周辺調査任務へ戻らないとな。
随分と長く寄り道してしまったから、予定よりかなり遅れて……はいないんだけど。苗木たちが代わりにやってたし。
けど、人里への侵入はやっぱりヒト型の分身が行かないと、出来ることが限られてしまう。今回がいい例だ。
マーリンへの引継ぎ事項は特にない。だってパパイヤもマーリンも俺だもん。情報は常に共有されてる。ホウレンソウは完璧。
そう、お前の事は何でも知ってるぜ。PCの隠しフォルダに入ってるあのファイルの事もな! イヤーッ、それだけは見ないで―っ! 誰かあのデータを消してきてーっ!
「えっ!? パパイヤさん、何処かに行っちゃうの!?」
「ん? ああ、そろそろ本来の仕事に戻らないとね」
「そんな、それじゃ、僕……」
おおう、そんな涙を溜めた眼で俺を見るなよ。思わずグッと来ちゃうだろ? いかんいかん、こいつは男なんだ。正気に戻れ俺!
まさか、魅了ってパッシブだったりしないよな? ちょっと実験。
ハリーでヤギママの頭を撫でてみ
ガブッ!
いてぇっ! 駄目だ、パッシブじゃねぇ! 全然魅了されてねぇよ!
もっしゃもっしゃ。
喰ってるし! 剥がれた俺の手の皮喰ってるし! くそ、流石ディアボロス=ゴートだ、悪魔の名に恥じない鬼畜っぷり! いや、家畜だけども。ヤギだし。
まぁ、魅了がパッシブスキルじゃないのは確認できた。つまり、クリスのこの可愛さは元々ってことだ。天然だな。ほんと、天然が一番困る。
「そんな顔するなよ。オレたち幹部は、大魔王様の御力で支配領域内なら何処へだって行けるんだ。いつだって会えるさ」
「本当に?」
「ああ。困ったことがあればそこのマーリンに言えよ? そしたらオレに伝わるからさ」
「……うん! ごめんね、困らせて。僕待ってる。お仕事頑張ってね!」
「おう! じゃ、またな!」
おおう、なんていい子だ! マジで天使だな! キキもこんな娘に育ってくれないかな?
けど、なんでここまでパパイヤに懐いてくれてるのかね? デカいから? アフロだから? ヒゲ?
まぁ、嫌われるよりはいいか。喰われるわけじゃなし。
じゃ、あとはマーリン、よろしくね。どっちも俺だけど。
「さて、皆さん初めまして。私はマーリン、この地下都市『メトロシティ』の管理を任されております。これから皆さんのお世話をすることになりましたので、どうぞよろしく」
「よろしくお願いします!」
「……よろしく」
「よろしくおねがいします」
「よろしく……おねがいします」
うーん、お嬢さんとはまだちょっと壁があるな。まだ納得できてないんだろうなぁ。まぁ、納得できようができまいが、従ってもらうしかないんだけどね。
「さて、実はこの街には私以外にふたりの先住者がおります。紹介しましょう。アローズ、ライアン! 表に出てきてください!」
今日は訓練は休みにしたから、ふたりとも部屋に居るはず。部屋には分身のランプを置いてあるから、見れば居るかどうか分かるんだけど、オッサンのプライベートなんて覗きたくない。だから意識をカットしてある。
「……なんだよ旦那、何かあったのか?」
「話し声が聞こえましたが、もしかして来客ですか?」
ライアン、いくら休みだからって、ちょっとだらしないぞ? ちゃんと服を着てるところは評価するけど、髪も無精ひげもボサボサじゃないか。ピシッと決めてるアローズを見習え。
「ええ、これからこの街で一緒に暮らす方々をお連れしました。皆さん、自己紹介を」
突然の自己紹介タイムってテンパるよな。けど、外野だとそれが面白い。さあ皆さん、張り切ってどうぞ!
「えっと、クリスです、十三歳です! まだ大魔王様の眷属になったばかりですけど、精一杯努力してお役に立ちたいと思ってましゅ! よろしくお願いします!」
ちょっと噛んだな。でもそこがいい。狙ってないところがいい!
「……ギーだ。鍛冶屋をしていた。大魔王様には恩がある。返すまでは裏切らないことを誓う。よろしく」
「私はラナです。裁縫が得意ですので、そちらでお役に立てたらと思ってます。よろしくお願いします」
「マナ、です。よろしく」
うーん、やっぱりお嬢さんは硬いな。時間が解決してくれることを祈るしかないか。若い娘さんに下手なちょっかいを出したら、余計に
「あー、オレはライアンだ。皇国軍の兵士だったけど、大魔王の気まぐれで眷属に引き抜かれた。今は身体の鍛えなおしをしている。よろしく」
「……」
「……アローズ? どうしました?」
「……」
アローズが固まってる。なんだ、どうした? 口を半開きにしちゃって、いつもクールに決めてるお前らしくないじゃないか。
「……可憐だ」
は? え?
あっ、そう言う事!? なんだよ、斜に構えたお前も人並みに人を好きになるんだな!
まぁ、オッサン以外は美人ばかりだしな。どれ、お相手はどの子だい? おっちゃんに言ってみそ?
んー、視線の先は……。
えっ、クリス? マジで?
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