054

 『魅了』の効果は……対象を虜にするのか。そのまんまだな。

 パパイヤにはかかってない。

 かかってないよな? うん、大丈夫。怪しい気もするけど、多分大丈夫。怪しいのは変質者だからいつも通り。

 アレかね、時空間魔法と同じで、同じ技能スキル持ちにはかからないとか? 俺にも使えるようになってるからな、魅了と闇魔法。

 もしくは、俺には『並列思考』があるから効かないとか。魅了されてない分身で修正されちゃう感じ? 某第三新東京市の三博士スーパーコンピュータみたいな? いや、アレってほとんど全部汚染されちゃうじゃん。ダメダメ。

 けど、流石に九千も居たら大丈夫か? ひとつ汚染されても九千で対抗できるんだから。

 あのコンピュータも、九千台用意しておけばピンチにならなかったかもな。三台なんてケチるからいけないんだよ。俺を見習え。


 『闇魔法』は……アカン、コレはアカンやつや。

 呪いとか精神汚染とか、ソレ系だ。魔力を込めただけ威力が上がるっぽい。

 いやいや、試してみない事には、本当にアカンやつかどうかは分からないよな。何かいい実験体は……オーク(仮)でいいか。

 おっ、おあつらえ向きに、単独で狩りに出てる奴がいるな。ではキミが不幸な被検体第一号だ。科学、じゃない、魔法の発展のための礎となってくれ。

 それじゃ軽ーく小手調べで、えい!


「ふごっ!?」

 びくんっ!


 おっ、なんか効いたっぽい。ん? 岩の前に座り込んだ?


 ゴン。

 ゴン。ゴン。ゴン。


 あ、頭を岩に……アカン、やっぱりこれはアカンやつや。精神汚染どころか、精神破壊しとるやないかい! 似非関西弁も出るっちゅうもんや! なんでやねん!


 うぬぅ。流石に良心が痛むけど、科学、じゃない、魔法の発展のため、もう少しだけ付き合ってくれ、オーク(仮)くん。ごめんね。

 では、強めに闇魔法、てい!


 ビクンッ!

 ……。

 …………。


 おや? 動かなくなったぞ? おーい、もしもーし?


 パタンッ。


 あ、倒れた。

 むう。瞳孔が散大して視点が合っていない。呼吸はしてるし、心臓も動いてるな。でも、つついても叩いても反応無し。

 これは、心が死んでますね。植物人間、いや植物オーク(仮)です。


 ヤバい! 闇魔法、マジヤバい!

 魅了と効果が被ってるなー、死にスキルかもなーなんて思ったけど、むしろ魅了の方が優しかった! 百倍優しい!

 っていうか、どっちも駄目だろ! これはどっちも封印待ったなし!


「あー、クリス。お前が獲得したふたつの技能スキルな、滅多矢鱈使わないように。ヤバいよ、その技能」

「えっ、そうなの?」

「うん、持ってることがバレたら、問答無用で殺されるくらいヤバい」

「そんなに!? ……そうか、残念。これでパパイヤさんの役に立てるかもって思ったのにな」


 おうふ、なんていい子なんだ。オジサン、ちょっとグッと来ちゃったよ。寂し気に目を伏せる仕草もエロいよ。オジサン、結構グッと来ちゃったよ!

 生い立ちを聞く限りでは、じくれまくっててもおかしくない境遇なのにな。俺は物理的に捻じれてるけど。豆だから。

 そうだよ、こんな技能スキルが生えるくらい、クリスは辛い生活を送ってたんだよな。技能って、そいつの行動とか経験が反映されて生えてくるんだから。闇魔法が生えるくらい、クリスは心に闇を抱えてたってことだ。

 魅了だってそうだ。愛されたいっていう心の飢えが技能になったんだろう。

 クリスは何も悪くないのに。この国、この村の次男に生まれたってだけなのに。迫害される理由なんて何も無いのに。

 ヤバい、泣けてきた。

 なんで世界ってやつは、こんなにも弱者に優しくないんだ? 前世の世界もそうだったけど、ここは異世界だろう? もっとファンタジーでいいじゃんか。メルヘンにいこうよ。半分は優しさでいいじゃない!


「ぐすっ、いいんだよクリス。子供は役に立とうなんて考えなくていいんだ。楽しく明るく生きているだけでいいんだ!」

「ちょ、ちょっとパパイヤさん、何で泣いてるの? 何か悲しい事があったの? 僕、何かしちゃった?」


 おおう、優しいのう! こんないい子が迫害される世の中は間違ってる!

 大丈夫、間違ってるのが世界なら俺が変えてみせるから! 大魔王だし、そのくらいは出来る、はず!

 眷属になったからには、俺の娘も同然! うん? 息子か? まぁ、どっちでもいいか。

 子供が安心して暮らせる世の中を作る、それは親の、大人の責務だ。

 いいだろう、キキのため、クリスのため、パパ頑張って世界を変えてみせるからね! そのためなら世界だって征服してみせる! 制服はセーラー服だ! 

 ようし、やったるでぇ!


 槍聖たち? そんな子供は知らない。

 あいつらは子供じゃない、オッサンだ。



 さて、このオーク(仮)くんをどうするべきか。

 このまま放っておいたら死んじゃうよなぁ。衰弱死。

 栄誉ある被検体だし、無碍にはできないよな。かといって、回復させる手立ても無いし。

 とりあえず亜空間に入れておいて、スポドリと流動食で延命しておくか。そのうち復活させる方法も見つかるだろ。


――ハイランドオーク(オス・八歳)を眷属にしました。


 お?

 なんか久しぶりに聞いたな、天の声さんの声。

 けどなぁ、植物状態のオーク、あ、ハイランドオークか。それを眷属にしたところで……うん?

 植物状態? それって?

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