053

 奥さん、ご存知でした? チキングさん、ご家族九千人超えてるんですってよ。ナントカ子沢山って言いますけど、どれだけナントカなんでしょうね。オホホホホ!

 いや、びっくりだわ、俺の貧乏具合。

 じゃなくて、子沢山ぶりに。点呼取ってみたら、九千以上いるんだもんよ。家族ってレベルじゃねぇよ、一族だよ。

 って言っても、九割くらいはまだ種だけど。

 確かに、俺が最初に飛ばした種が十数個、次の世代と俺が翌年に今度はニ十数個ずつ、そして去年の秋にそれぞれがまた二十数個ずつ。計算すれば、確かに九千個くらいになる。

 ネズミ算どころじゃねぇ、豆算、いや大魔王算だよ。自分だけで軍隊作れちゃうよ。まだ種だけど。全世界が豆で埋め尽くされる日も近い?


 そして春だ。芽吹きの季節。

 南に送ったいくつかはもう芽吹いてる。あっちは常夏だからな。ある程度大きくなったら、皇国のあちこちに潜入させよう。

 砂漠に埋めたやつは、まだしばらく種のままで。あそこは土が死んでるからなぁ。発芽させても成長できん。

 それに種のまま発芽させなければ、そのまま何十年でも生きられそうだし。もしかしたら、惑星が破壊されても生き延びられるかも? 保険だな。

 地下都市に配置したやつとか、皇国の街に潜入させてるやつとか、一部を除いた残りは発芽だ。

 というわけで、俺の本体前に作った畑に埋める。さぁ、芽吹くがよい!

 行けハリー、芽吹きの舞だ! 英国紳士の力を見せてやれ!


「ん~~っ、まっ!」


 ポンッ!


「ん~~っ、ま゛っ!!」


 ポンッ! ポポポポポンッ!!


 よし、夢だけど夢じゃなかった! 英国紳士にガニ股で気張らせるとか、俺も大概だな。

 このままお庭が森になったら楽しいけど、ある程度育ったらこいつらも移動だ。人事異動じゃなくてリアルに移動。

 あっ、キキがなんか目をきらきらさせている。子供はこういうの好きだよな。

 まだ少し未発芽の種もあるし、やってみるか? そうか、やってみるか。

 うむ、畑の脇にチョコンと座った姿が愛らしい。うちの子は天使じゃなかろうか?


「う~~っ、だっ!」


 ポポンッ!


「きゃあ~っ、だうぅ~っ!」


 うむ、大喜びだ。可愛いさ大爆発だ。可愛さが溢れて大海になるレベル。溺れるのは俺。

 この子のためなら、俺は魔王だって倒せるかもしれない。あっ、俺が大魔王だった。

 仕方がない、魔王の代わりにヒト族の王様を倒して、キキを新しい国のお姫様にしてやるか。ごめんな、こんな些細なことしかできないパパで。



「名前が無い? 名前が無いってどういう事だ?」


 とりあえずこの村は放棄。

 オッサンやお姉さんたちは引っ越しの準備中。泣きまくっていたお嬢さんも諦めて荷造り中。

 で、早々に荷物をまとめてきた僕っ娘男の娘はパパイヤおれと雑談中。


「僕は望まれて生まれた子供じゃなかったから。そういう子はみんな『ナナ』って呼ばれるんだ。『ベーのところのナナ』『ゴーのところの男の方のナナ』って感じでね。だから僕もナナって呼ばれてたんだけど、僕自身を指す名前は持ってないんだ」


 ふーん。子は宝っていうけど、そんな風習の村もあるんだな。僕っ娘男の娘はナナシだったのか。

 そういや、衛生状態の良くなかった中世頃は、三歳頃まで名前を付けないって風習もあったんだっけ? 名前を付けると情が移るから、死んじゃったときに辛くなるって理由で。具体的に何時で何処かは知らんけど。


「だからさパパイヤさん、僕に名前を付けてくれない?」


 むう、またそんな上目遣いで媚を売って! けしからん、もっとやれ!

 おっと、危ない。石鹸香る襟脚に惑わされるところだった。白いうなじ、細い鎖骨。仕草も見た目も完璧な美少女。

 だが男だ。危ない危ない。


 名前なぁ。

 付けるのはいいんだけど、そうすると完全に眷属化しちゃうんだよな。名持ちになっちゃう。それが果たしていい事なのかそうじゃないのか。

 本人に確認してみるか。


「オレが名前を付けると、お前は完全に大魔王様の眷属になってしまうぞ? 名付けによって主従関係が結ばれてしまうんだ。それでもいいのか?」

「うん、いいよ! ずっとパパイヤさんと一緒に働くって事だよね? 全然平気!」


 うーん、意味が分かっているようないないような。

 まぁいいか。一応言質は取ったわけだし、後でゴネられたら『アナタ、あの時そう言ったじゃない!』と痴話喧嘩するバカップルみたいに言ってやろう。お揃いのTシャツ着せて。


「分かった、じゃあ少し待ってくれ。考えるから」

「うん、お願い!」


 うーむ、あのゲームから『ブリジット』……は無しじゃないけど、この世界の名前っぽくはないな。

 じゃあ、あの作品から『ゆきむら』……も無いな。そもそもあれは女だったし。

 やはりあの作品から貰ってきて『るか』か? いや、そのまま過ぎるか。

 うーん……あっ、そうだ!


「よし、お前の名前は『クリス』だ。お前の真名はクリスとする!」

「うん、わかっ、っ!?」


 あの作品のヒロインのひとり、クリスティーーーナッから貰ってきた。日本じゃクリスは女性名だけど、海外じゃ男性名だしな。男であり女でもある男の娘にはピッタリだ。

 お、動きが止まった。天の声が聞こえたかな? これでお前も名持ちの仲間入りだ。ようこそ、大魔王界へ!

 よしよし、眷属欄に追加されてるな。どれどれ、ステータスはどんなものかな?


――――

名前:クリス

種族:ヒューム(オス)

年齢:十三歳

HP:★★

MP:★★★

腕力:★

体力:★★

知能:★★★

敏捷:★

技巧:★★

技能:『魅了』『闇魔法』(『成長促進』)(『毒耐性』)(『言語理解』)(『病気耐性』)

称号:

眷属:

特記:『ボン=チキングの眷属』

――――


 ほほう、悪くないステータスだ。

 頭いいんだな。MPも高いし、魔法方面に適性がありそうだ。これは育てて魔法少女かな。僕と契約して魔法少女になってよ! 契約更新は自動です。

 男の娘で和装の魔法少女……ちょっと盛り過ぎか? しかし、男の娘と魔法少女は外せないからなぁ。外せるのは和装だけ……早着替えを覚えてもらって、魔法少女コスに着替えさせるか。

 光りながらクルクルもアリだな。光魔法の出番がまた増えちゃうね。有能な魔法だぜ。

 ふふふ、魔法少女コスか。俺の業がまた深まっちまうな。


 ……って、『魅了』に『闇魔法』!?

 魔法少女じゃなかった! 既に魔女になってる!? ちょっとキュー〇エ、どういう事!?

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