052
「あぶぅ、だぁっ!」
「やめなさい、邪魔をしてはいけない」
「だぁ? だぁっ!」
畳むために床へ広げた服の上に、キキが寝転がっている。お嬢さん用のグレーのブレザーだ。皺が寄ってしまう、やめて?
ネコって、よくこういう事するよな。新聞や雑誌広げてると上に乗って来るの。構ってちゃんなんだよな。可愛いけど困ったちゃん。悪いネコちゃんめー。
普通に人の赤ちゃんだと思ってたけど、こういうところはネコっぽいな。そのうち爪とぎとか始めたり? メスだからマーキングはしない、はず。多分。
むっ!? ネコの爪とぎって柱や壁を使うよな? つまり、俺の身体だ。
赤ちゃんに引っ掻かれる俺……スネ毛毟りの痛みより気持ちよさそうだな。クセになったらどうしよう? ウフッ。
「だー……」
うん、どうしたキキ? もうゴロゴロしないのか? 何処へ行く? なんでそんな醒めた眼で
むう、赤ちゃんというか、ネコは気まぐれだな。まぁいい、服を畳むか。
とりあえず、現状を整理しよう。こういう単純作業というのは、考えをまとめるのに丁度いい。雑念が入り込まない。
重要な順に、まずは惑星崩壊の危機からだな。これは残念ながら進展が無い。原因も何も分からない。調査継続。
うむ、美しいブティック折りだ。マルキューの店員になれそう。次はチェック柄のプリーツスカートだ。こだわりのミニ。
そして対周辺諸国。これは皇国とやらの先遣隊を全滅させて、名持ちの槍聖と兵士ひとりを引き抜いた。このふたりは
うーん、プリーツって折り辛い。けど、変なところで皺になったら見栄えが悪いからな。妥協はできない。こだわる。
全滅させたせいで各国合同の討伐軍が組まれちゃってるらしいんだよなぁ。まったく、なんで俺を目の敵にするんだか。まぁ、大魔王だからだろうけど。
ハッ!? まさか、俺のパンツコレクションを狙って!? 駄目だ、これはキキや娘さんたちに穿かせるために作ったんだ! 誰にもやらん! オッサン用のトランクスならやる。かぶれ。
よし、綺麗に畳めた。タカキューの店員に以下略。
これへの対策は、討伐軍の中核になるであろう勇者に接触出来たから、以降は適時対応だな。というか、情報を集めないことには何もできん。討伐軍内部に潜り込んで、対応はそれからだ。
ブレザーにはやっぱ丸襟白ブラウスだな。……うーん、なんだか、なんでか艶めかしく感じてしまうんだよなぁ。これと紺白のレジメンタルリボンタイの組み合わせは……いいね! 萌える!
しかし、まさか勇者が女だったとはねぇ。しかも妙齢の美女ときた。ぐふふ、頑張れよ、
次はセーラー服だ。白い半袖で紺襟白ライン二本というこだわりの逸品。
勇者一行は一度王都に戻るらしいから、そこで新たな情報を得ることもできるはず。賢者とやらも王都にいるらしいし、やっぱり成り行き任せだな。
セーラー服にはスカーフ。これもこだわりの臙脂色。ササっと折って終わりっと。
気になるのは教国とやらだよな。なんか、俺を目の敵にしてるっぽい。っていうか、大魔王を目の敵にしてる? 我が心の友、猛獣大魔王もこの教国って奴等に倒されたらしいし。要注意だな。
紺無地のプリーツスカートも念入りに皺を作らないようにっと。うむ、やはりプリーツスカートはいい。敢えてひざ下丈にして正解だな。ミニもいいけど、セーラー服はやはりひざ下丈だ。
最初に偵察隊を出してきた皇国には目立った動きが無い。全滅したから慎重になってるのかも。こっちも潜入捜査中のアーサーからの続報待ちだな。
さて、次は……お姉さん用のナース服か。まぁ、なんちゃってナース服なんだけど。本物なんてまじまじ見たことないからな。通報されてしまう。だから、まじまじ観てたAVみたいな衣装になってても仕方がない。淡いピンク色がいやらしい。破廉恥ですわ!
その破廉恥なお姉さんがいる村は……どうしたもんかなぁ。あの村はもうお終いだよな。四人じゃ再建できないだろう。となると、槍聖たちに合流させるしかないか。
ナース服ならミニのタイトスカートだよな。パンツスタイルは認めん! もちろんスリット付き。破廉恥ですわ! 大事な事だから二回言った。大事なんだ。
地下都市は空き家ばっかだから、住まわせるのに問題は無い。まぁ、いつまでも地下暮らしだと病気になりそうで怖いけど。いや、病気耐性があるから身体は平気だろうけど精神的に病みそう。近いうちに盆地へ移動させるか?
ナース服にはやっぱりガーターベルトとストッキングだよな。ストッキングとミニスカートの間から見える絶対領域は男のロマンだ。破廉恥ですわ! 超大事な事だから三回言った。超大事なんだ。
そうなると、元から居る原住民のネコ耳たちとの顔合わせが問題か。言葉の問題もあるけど、より深刻そうなのが感情面での軋轢だよな。どうも、ヒトがネコ耳を怖がってるっぽい。槍聖もライアンも、アーサー見て超ビビってたし。メッチャ素朴なんだけどなぁ、ネコ耳たち。
お姉さんの二着目は黒のキャビンアテンダント風スーツ。V字の襟元が大きく開いてるタイプ。けど、これだけだと只のジャケットだな。思ったより破廉恥じゃない。
それ以前に、ネコ耳たちに俺の存在を明かさないとな。まだ『命の樹』だもんな。けど、そうなると必然的に周辺諸国と戦争中であることも明かさないといけなくなる。いきなり戦争って言われても、納得できるのかねぇ?
はい、ジャケット終わり。次はミニのタイトスカート。これもスリット入り。でもなんでだろう、やっぱりエロくない。色か? ピンクが肝か?
いっそ、ネコ耳たちには全部伏せておくか? 何も知らない間に全部終わらせて……いや、出来なかったときのリスクが大きいな。やっぱり知らせるべきか。
キャビンアテンダントは中身が入ってないとエロくないのかもな。はい、ブラウスも終わり。臙脂と白のストライプネッカチーフも終わりっと。スピード上がってきたな。慣れてきたか?
けど、知らせた後が問題だよな。どこかに避難させないと、戦いが始まったときに巻き込んでしまう。うーん、今ふたつに分かれている集落をひとつにまとめるか。元々ひとつの村だったのが、水を求めてふたつに分かれただけだもんな。だから水と食料があれば問題ないはず。ついでに住処も用意してやれば完璧だな。
いよいよ男の娘の巫女服、先ずは緋袴から。和装って造りはシンプルなんだけど、畳むのが難しいな。どう折ればいいんだ、これ? 自分で作ったのに折り方がわからん。
場所は……あの元湿地の池辺りでいいか。土が肥えてるから農業にも適してるしな。俺が作った池にも水が溜まってきたし、集落をつくるには適してるんじゃなかろうか?
ネコ耳たちの集落か……いいね! 子供たちのお昼寝タイムは心和みそうだ。そうと決まれば、
男の娘の二着目は浅葱色の着物にしてみた。和装縛り。縛っちゃうの!? 縛っていいの!? SですかMですか? いいえ、Hです!
石垣は廃材利用のブロックが大量にあるからいいとして、鉄筋コンクリは難しいなぁ。コンクリって石灰が必要だったよな? そんなもんねぇよ。しょうがない、家は今まで通り草ぶきのテントで我慢してもらおう。
うーん、着物の畳み方はよく分からん。まぁ、これでいいか。畳むのが難しければ衣紋掛けに掛けておいてもいいしな。
そういえば、オーク(仮)も居たな。あいつらは……放置でいいか。っていうか、会話が通じないんだよな。『言語理解』持ちの俺でも奴らの会話が理解できない。ってことは、あれは言語じゃなくて鳴き声ってことなんだろうな。
あとはオッサンの甚平か。萎えるわぁ。やる気出ねぇ。
んー、東の森はどうしようかな? 全くの未開地らしいんだよなぁ。けど、支配領域が広がれば俺の力も増すって考えると、行けるところまでは行った方がいいような気もするし……行くか、行っちゃうか! 惑星崩壊の危機を回避するのに、どの程度の力があればいいか分からないもんな。強くなれるなら、限界まで強くなっておいた方がいい。よし、決まり! 冒険はまだまだ続く!
はい、鼠灰色と濃紺終わり! オッサンの着る物なんて、多少皺が寄ってても構わん! 知らん!
ふう。まったく、世界は問題だらけで困っちゃうね。しがない主夫が抱えるには大きすぎる。
うん? そういえば、うちの暴れん坊はどうした? やけに静かだな。
あー、ヤギママと一緒に寝ちゃったのか。実に幸せそうな寝顔だ。これを見れば疲れも吹き飛んじゃうね。
うん、今ここだけは平和だ。何の問題も無い。
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