050
「う……んぅ……」
お、目が覚めたかな? 最初はお姉さんか。なかなかに色っぽい声だ。ちょっと萌える。思わず前かがみ。
「目が覚めたかい? ああ、まだ起きないでいいよ。病気は治ってると思うけど、体力は回復しきってないだろうからね」
「……ここは……あなたは?」
「オレはパパイヤ。偶々この村に通りすがってね。おせっかいかと思ったけど、手を出させてもらったよ」
なるべく軽い口調でお
なにしろ、美女とお近づきになるチャンスだ! 頼むぜ話術
女勇者? あっちはエグジーの担当だ。こっちはこっち。欲張るぜ、俺は。
パパイヤは髭面アフロデブだけど、親しみやすいキャラだからワンチャンあると思うんだよね。
「あなたが? そういえば、夢の中で何かを聞いたような……っ! みんなは!? お父さんとお母さん、弟たちは!?」
おおっと、急に起き上がっちゃいかんよ。吃驚するだろう、俺が。
「キミは外で倒れていたよ。近くの家の中に居た人たちは……すまない、オレが来た時にはもう……助けることが出来たのは、この部屋に居る四人だけなんだ」
「そ、そんな!? うぅ……お父さん、お母さんっ」
うー、きついな。掛ける言葉が見つからない。けど、大魔王様にもできないことはある。っていうか、出来ない事だらけだ。
俺の技能に『死者蘇生』とかがあれば……いや、たぶん病気まみれのゾンビが量産されるだけだな。バイオでハザードになって、不幸が拡大するだけだ。
今の俺に出来るのは、膝に顔を
本当に撫でたいのは背中じゃなくてその反対側なんだけど、それはまたいずれ。今は紳士なので! 焦るな俺!
「っ……」
「むぅ……」
「ううん……」
おっと、他の三人も目を覚ましたみたいだな。
はぁ、また説明しなきゃいけないのか。きっと泣かれるんだろうなぁ。早くも気が滅入ってきたよ。はぁ~っ。
◇
「それで、キミたちにはもうひとつ重大な話をしなきゃならないんだ。辛い経験ををしたばかりでいっぱいいっぱいだと思うけど、知っておいてもらわなきゃいけない話なんだ」
やっぱり泣かれてしまった。まぁ、だろうなと思っていたから、それほど滅入りはしなかったけど。またお姉さんと、今回はお嬢さんの背中も撫でられたし。むふふ。
オッサンと男の娘――どう見ても美少女だよなぁ――が泣かなかったのは気になる。それが男だからなのか、それとも村の人達に思い入れが無かったからなのか? 何か確執があったりした?
まぁ、俺が気にすることじゃないか。もう村は無いも同然なんだし。
それよりも今後の話だ。
まだお姉さんとお嬢さんはしゃくり上げてるけど、これは本当に重要な話だからな。早めに知っておいてもらわないと。
「今回、病気からキミたちを救うために、キミたちにはあるお方の支配下に入ってもらったんだ。覚えてるかな?」
「えーっと、
「……?」
「そういえば、そんな事があったような……」
「はいっ! 僕、覚えてますっ!」
おう、病み上がりなのに元気がいいな。
男の娘の一人称は『僕』なのか。男の娘で僕っ娘……いや、男の子だから僕でいいのか? なんか分からなくなってきた。
「キミたちを救うには、それしか手段が無かったんだ。
「っ!」
「なっ!?」
「そんな!?」
「おーっ、凄いっ!」
だよねー、ビックリするよねー。でも本当なんです。貴方たちはパンツ大魔王の配下なのですよ、残念ながら!
男の娘だけ、ちょっとリアクションが違うのは気になる。この年頃の男の子特有の短絡思考か? カッコよければ、面白ければそれでいい的な。でも、パンツ大魔王だぞ? いいのかそれで?
見た目が美少女なだけで、中身は普通の男の子だったりする? それにしては、所作が女の子のソレなんだよなぁ。よく分からない子だ。
「命が助かってすぐにこんな事を言うのは酷かとも思うんだけど、敢えて言わせてもらうよ。それしか手段が無かったとはいえ、キミたちは人類の敵になってしまったんだ。もう、これまでの生活には戻れないと思って欲しい」
「そんなっ!? 酷い、あんまりよ!」
「……ふぐぅっ」
「……これも運命か……」
「うん、分かった! 僕、大魔王様のために頑張るね!」
温度差が酷い。なんなの、この男の娘のポジティブさは?
お姉さんとお嬢さんはまた泣きだしたし、オッサンは目を閉じたまま天を見上げて何かに耐えてるっぽいのに、男の娘だけはニコニコしながらキラキラした目で
おおう、まつ毛長いな。眼も大きい。唇も桜色でぷっくりだ。襟口から見える鎖骨のラインがエロい!
やばい、可愛い! このままではいけない扉が開いてしまう!
駄目よ、ダメ! わたしには妻(ヤギ)と娘(ネコ)がいるの! そっちには行けないの! どっちならいいんだ!?
人、人、人、ゴックン! 人、人、人、ゴックン! よし、落ち着いた。大魔王らしく人を飲んでみた。もう少しで男の娘に飲まれるところだったな。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。そういう訳で、もう後戻りはできない。その覚悟をしておいて欲しいんだ」
いや、俺的には嫌なら出て行ってもらってもいいんだけど、残念ながら眷属から解放する方法が分からないんだよね。一度嵌ったら抜け出せないヲタク沼的な? まぁ、嵌ったっていうか、追い落としたんだけど。ごめんね。
「こんな事があった後だし、しばらく心の整理をする時間が必要だろ? 明日の朝に今後の話をするから、それまでじっくり考えるといい。大丈夫、大魔王様は寛大で情け深いお方だから」
自分で自分を褒めてみた。うん、嘘臭さしかないな。俺くらい卑小で心の狭い奴もいないだろう。頼むぞ話術技能、お前だけが頼りだ!
言う事は言ったし、それじゃ退散するか。俺が居たら、纏まる考えも纏まらないだろうしな。ゆっくり考えてくれ。
俺もまだこの村の全体把握が出来てないし。まったく、やる事が多くて参るね。
ぽふっ
おっと、腰に抱き着いてきたのは……男の娘か。
「パパイヤさん、助けてくれてありがとう! 僕、大魔王様のために頑張るね!」
おおう、そんなキラキラおめめで俺を見て……耳が小さいな。手首も太腿も細くて……。
はっ!? いかん駄目だ、このままではいけない世界に引き込まれてしまう!
入、入、入、ゴックン! 入、入、入、ゴックン!
おおう、入ったらダメじゃないか! その沼は入っちゃいかん、底なし沼だ! 入ったら抜け出せなくなるぞ! 耐えろ俺、前かがみで耐えるんだ!
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