049

 信じられるか? 麓の森を出てからまだ一日しか経ってないんだぜ?

 疫病村の救出に街への潜入だろ、それで女勇者との出会いだよ。

 ちょっとイベント盛り過ぎじゃね? 最終回クライマックス直前のイベントラッシュかよ。

 あ、いや、むしろゲーム開始直後のストーリー導入部か? 運命に導かれるように、シナリオライターの掌の上でもてあそばれる的な。だって、まだ最初の村を抜けたところだもんなぁ。

 ってことは、ようやくチュートリアルが終わったってこと? 長すぎだよ、三年もかかってるじゃねぇか!

 なんてクソゲーだ。ってか、草に転生してる時点でクソゲー確定だけどな!

 いや、ポケ〇ンでフ〇ギダネ貰ってスタートと思えば悪くない、か? 俺も〇っぱカッター覚えようかな? 覚えられるかな? ポ〇モン全部言えるかな?


「どうかしたの、エグジー殿?」

「ん? いや、何でもない。こんな美人が勇者だなんて、天も依怙贔屓をするんだなと考えていただけだ」

「そ、そんな、美人だなんて……♡」


 照れてる照れてる。どうやら女勇者はチョロインさんらしい。褒めておけば仲良くなれそうだ。後ろからついてくる地味顔君たちには睨まれてるけど。


「そういや、オレの聞いた話じゃ勇者様は大魔王討伐に向かったってことだったんだけど……ちょっと人数が少なくないか?」


 勇者を入れてもたったの八名。実は超精鋭だったり? こんな地味顔で? あ、ごめん、睨まないで。


「勇者様だなんて呼び方はやめて! 貴方は私の恩人なのだから、特別に『ナオミ』と呼び捨てにしていいわ!」

「あ、ああ。それじゃ、俺の事もエグジーで頼む」

「ええ、分かったわエグジー、よろしくね!」


 ぐ、グイグイ来るなぁ。なんか懐かれたっぽい? もしかして、噂に聞く『吊り橋効果』ってやつか? フィクションだと思ってたよ。まさか自分で実践する日が来るとはなぁ。


「大魔王討伐の話だったわね。ええ、その通りよ。つい数日前まで、軍を率いて中央大山塊に向かっていたわ。けど、私たちが出発した後に方針変更があったらしいの。なんでも、皇国が派遣した調査隊が全滅したらしくて」


 あー、それ、心当たりがある。私がやりました。

 でも、調査っていうより威力偵察って感じだったけどな。情報操作されてる? まぁ、政府なんて自分に都合のいい事しか言わないもんだしな。世界が違ってもそれは変わらないってことか。


「それで、大魔王は予想より手強そうだってことで、各国合同の討伐軍が組まれることになったのよ。教国から強い要請があったらしいわ。だから私たち王国軍単独の遠征は中止。率いてた二百名は一旦国元に帰したわ」


 なにぃっ、合同討伐軍!?

 状況悪くなってるじゃん、なんでだよ! あっ、俺が調査隊を全滅させたからか。自業自得だった! 得してねぇよ!

 全滅はやり過ぎだったかなぁ? いや、多少残したところで一緒か。仕方なかった。うん、仕方なかったんだよ。


「合同討伐軍の編成と準備には時間が掛かるって話だったから、私たちは先行調査に出てきたの。このノイン砂漠は、かつて猛獣大魔王が本拠にした地だから。新しい大魔王ボン=チキングとの関連性の調査ね」


 おっとぉ? ここでまた心の同志とも、猛獣大魔王の名前が。

 このだだっ広い砂漠に街を作ってたのか、やるじゃないか。いや、昔は砂漠じゃなかったのかもしれないけど。

 うん、今は見事に何も残ってない。砂と岩ばっかりだ。あとサボテン。


 っていうか、たった千年っぽっちでここまで何もかも無くなるもんかね? もしかして、そうとう念入りに破壊されてないか、これ?

 うーむ……当時の人たちには、ケモナーは受け入れ難かったのかもな。前世でもニッチな市場だったし、市民権を得ているとは言い難かったもんな。

 ましてや、猛獣大魔王はガチのケモナーだ(※推定)。保守的であったであろう昔の人たちには、到底理解できなかったはず。異端中の異端だ。

 それで街ごと潰されたんだな。痕跡すら残したくなかったんだろう。

 『つはものどもが夢の跡』、か。今や、夏草じゃなくてサボテン共がワラワラと跋扈してるけどな。カボチャパンツ履いて。


「……最初は二十名居たんだけど、カクタスマンにやられちゃって……」


 サボテン共の名前はカクタスマンなのか。まんまだな。なんとなく戦隊ヒーローっぽい? 砂漠戦隊カクタスマン!

 うーん、あのカボチャパンツさえなければ……いや、パンツを脱いだら放送コードに引っかかるか。戦隊ものじゃなくて変態ものになってしまう。日曜朝から子供に見せてはいけない番組だ。深夜のTX系ならなんとか?


「そうだったのか。オレはしばらくこの砂漠をウロウロしてたけど、サボテンしか見てねぇぜ?」

「ええ、そのようね。でも砂塵魔王が居ないのは気になるわ。走竜の狩場か囁きの森方面に移動しているのかしら? 砂漠を迂回進軍したときに出くわすと厄介ね。それとも、まさかボン=チキングの仲間になってる?」


 走竜の狩場? 囁きの森? それ何処よ? 後でライアンかアローズに聞いておこう。

 砂塵魔王ってアレだよな、でっかいサボテン。嵐を呼ぶ男(?)。

 仲間じゃないけど、俺の亜空間の中に居るよ。魔法の光と魔法の水で水耕栽培中。

 あいつ、眷属になる気配が一向にないんだよなぁ。顔はあっても表情がないから、何考えてるのかもさっぱりだし。

 仲間にならないなら早いとこ処分したいんだけど、下手に爆発させたら地形が変わっちゃいそうなんだよなぁ。かと言って放置も出来ないし、しばらくは亜空間で飼い殺しにするしかないか。


「勇者様、あまり部外者に情報を話すのは……」

「心配無用よ。エグジーには私たちの仲間になってもらうつもりだから」

「えっ!?」「は?」

「まるで槍聖のようなあの槍捌き、見事な体術、瞬時の状況判断。これほどの逸材を遊ばせておく手は無いわ、きっと大魔王討伐でも活躍してくれるはずよ」

「そ、それはそうかもしれませんがっ」

「陛下に進言して、私の直属にしてもらおうかと思ってるの。きっと対大魔王戦での切り札になってくれるはずよ」


 いや、ちょっと待て、本人オレの意向を無視して話を進めるなよ!

 俺が勇者の直属? 大魔王が勇者の仲間になって大魔王討伐に行くの? どんなマッチポンプだよ。俺は惑星崩壊の危機を押し付けたかっただけなのに。

 

 うん? ……いやいや、案外悪くないかも?

 討伐軍の内部、それも中枢になるであろう勇者のそばにいられるなら、討伐軍の動きが手に取るように分かるはず。情報は筒抜けだ。

 討伐軍の裏をかいたり、誘導して罠に嵌めたりもできるかも。本体おれの危険を減らせそうだ。

 それに、例の賢者とやらに接触する機会も得やすくなるだろうしな。

 サボテンに苦戦するようじゃ、惑星崩壊の危機を勇者に任せるには不安が残る。俺自身で対処・・するしかないだろう。けど、対策・・は賢者に任せたい。俺には何が起きるのか想像もつかないからな。


 いいね、いいじゃないか!


「そうだな。オレは傭兵だし、討伐軍に参加するのはやぶさかじゃないぜ。条件が合うなら、だけどな」

「そう、じゃあ決定ね! 心配ないわ、ちゃんと私がもぎ取って来るから!」

「お、おう。頼むよ」


 近い近い、胸(の鎧部分)が当たってる。

 おおう、上から見てもすげぇボリュームだ。ありがたやありがたや。撫でたいところだけど、ここはぐっと我慢だ。紳士だからな。


 これは、マジで惚れられたか?

 いや、まさかな! 自慢じゃないけど、生まれてこの方、モテたことなんざ一回もねぇし。キモいって言われた事は何回もあったけどな。本当に自慢じゃねぇ! 記憶の彼方に封印だ!


 いや待て? 

 どんな時代でも『スポーツのデキる奴』と『イケメン』はモテる。

 転生前の俺にはどちらも無縁だったけど、今の俺はイケメンだ。しかも強い。モテる要素は揃ってる。

 いや、そりゃあ、今の俺の見た目は借り物だけどさ、女が化粧して化けてるのと大差ないじゃん? 本当に化けてるかどうかの違いだけ。


 これ、可能性あるんじゃね? モテ期来たんじゃね?


 ひゃっほう! 俺にこんなラブコメ展開が来るなんて! 異世界万歳! 転生して良かっ……いや、良くねぇ!

 今の俺、チ〇コ無いじゃん! 何も出来ねぇよ! ナニが出来ねぇよ!

 いや、疑似的に作ることはできるし、疑似知覚で感覚もあるんだけど……木製なんだよなぁ。言わば大人のオモチャみたいなもんだ。ナニすると流石にバレる。

 くそう、こんなたわわな果実を目の前にして我慢するしかないなんて拷問だよ、もう絶望しかねぇよ。


 いや、まだだ! まだ希望を捨てるな、諦めるにはまだ早い! ここは異世界だ、まだ完全な人化技能スキルという可能性が残っている!

 のぞんでのぞんだその先に、明るい未来が待っているかもしれないじゃないか! 諦めたらそこで試合終了ですよ!


「あら、何か雰囲気が変わったわね。すごくやる気に満ちてる感じがするわ」

「おう、オレはヤるぜ! 未来のためにな!」

「そう、そうね! 一緒に頑張りましょう!」


 おう、一緒にな! 是非!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る