048

 草木も眠る丑三つ刻……深夜徘徊の時間だ。アーサーおじいちゃん、出番ですよ。

 隠密を発動させて、コソコソっと外壁の下まで……見つかってないな? うん、大丈夫。優秀な技能スキルだぜ、まったく。

 今度、全裸チャレンジしてみようか? 見つかるか、見つけさせるか、見られるか、見せつけるか! ドキドキだな! 全部見られる前提なのは気のせいだ。

 いや、それは流石に不味いか。変質者から、変態を通り越して露出狂になってしまう。軽犯罪者だ。変態までは性質だから仕方がないとして、犯罪はいかん、犯罪はいかんよ。

 見つからなければ犯罪じゃない? 見られなきゃ意味が無いだろう!


 月が出てるのに、妙に暗いな? ああ、外壁の上で篝火が焚かれてるのか。その陰になってるんだな。灯台下暗し、外壁すみっコぐらし。ここが落ち着くんです。

 見回りは居ないな。あそことあそこの塔に詰めてるだけか。明かりが漏れてるから寝てはいないんだろうけど、ちょっと警戒心が足りなくない? 今、大魔王おれと戦争中なんだよね? 攻められるとは考えてないわけ?

 まぁいいか、油断してくれてた方がやりやすい。面倒臭いより楽な方がいいに決まってる。あ、相手にされてなくて悔しいなんて思ってないんだからね!


 さ、ツンデレひとり芝居はこのぐらいにしてと。

 これなら潜入は楽勝だな。外壁の上に向かって、種をポイっと。着地は風魔法でフワッと。よし、完璧!

 次は種で亜空間を開いて、アーサーを外壁の上に呼んでっと。今度は街の中に種を落として、またアーサーを亜空間で移動っと。はい、潜入成功! 楽勝楽勝。俺を師匠と崇めてもいいよ、スネー〇君。


 ふうむ、街並みは中世ヨーロッパというより中東っぽいか? 四角いレンガ積みの家ばっかだな。

 これ、日干し煉瓦ってやつ? 角が欠けてるし、結構脆そう。これで作った家には住みたくないなぁ。地震で潰れそうだ。

 っていうか、既に潰れてるな。ああ、俺が生まれる直前に大地震があったらしいから、多分それだな。まだ復旧出来てないのか。地震怖い。

 道、狭っ! これ、太ってたら絶対詰まるね。パパイヤに来させなくてよかった。壁尻案件発生だよ。パパイヤの壁尻に需要は無いと思うけど。あったら嫌だ! そんな世界は滅びてしまえ!


 ふう、やっと広いところに出れた。ここは大通りっぽいな。って言っても、道幅五メートルくらいしかないけど。

 街全体がせせこましい感じだな。壁の中に鮨詰めって感じ。いや、区画整理されてるから松花堂弁当の方が近いかも? 俺はガッツリとんかつ弁当でいいんだけどな。

 大通り沿いにも崩れた家があるな。放置されてる感が凄い。レンガの上に草がチョロチョロ生えてる。

 ふむ、このレンガのひとつに種を擬態させておくか。サイズが丁度いい。大通りならいろいろ情報収集できるだろうし。


 大通りはみなとと直結か。ジャンク船みたいなのが泊ってる。

 帆船かぁ。魔法のある世界なのに、魔法機関で動いたりとかはしないんだな。なんて夢の無い。

 俺が作るか? 快速船とかタンカーとか。いや、いっそ飛空艇とか潜水艦とかな! ファンタジーの定番だよな! これは燃える!

 ……あー、いやいや。楽しそうだけど、今は戦争と惑星崩壊回避に専念しないと。個人的な趣味はそれが片付いてからだ。くそう。

 湊っていうか、川沿いには木が生えてるな。川にせり出してる。アーサーは擬態を解いてここに潜伏するか。湊には物と人と情報が集まるからな。情報収集には最適だろう。

 あとは、お偉いさんの情報も欲しいよな。この街の顔役とか、警備のトップとか。まぁ、何処に居るか分からないし、それは追々だな。

 急いては事を仕損じる。焦らず確実にいきまっしょい!



 おろ? なんか、サボテン軍団に追われてる奴等がいる。朝っぱらから追いかけっことは、元気な事で。

 こんな砂漠に入って来るなんて、物好きもいたもんだ。何かの調査かね?

 それにしては物々しいな。全員武器持ってるし、革製のアーマー? プロテクター? そんな感じの鎧着てるし。どっちかって言うと兵士だよな。もしかして、大魔王討伐隊だったり? けど、それにしては人数が少ないな。

 ひぃ、ふぅ、みぃ……八人か。追いかけてるサボテン軍団は……二十体くらいかな。相変わらずカラフルな奴等だぜ。カボチャパンツもキモい。

 おっと、絡まれると面倒くさい。伏せてやり過ごそう。応援くらいはしてあげるけどな。頑張ってー! さて、俺はどっちを応援したでしょうか?


「くそっ、この針人形め!」

「ばっ、やめろ!」


 ドカーンッ!


 あ、やっちゃった。駄目だよ、剣で切っちゃ。倒した瞬間に爆発しちゃうんだから。高速でヒットアンドアウェイか、遠距離攻撃で倒さないとね。サボテン狩りの第一人者である俺が言うんだから間違いない。


「ドノバン! ヤザン!」

「駄目ですナオミ様、走ってください! 彼らが稼いだ時間を無駄にしてはいけません!」

「しかし、まだ生きているかもっ!」

「だとしても! 貴女はこの国に必要なお方です! 名無しの我らとは違うのです!」

「そ、そんな、そんなことがあるかっ! 人の価値に優劣など無いっ!」


 ほう、なかなか熱いお姉ちゃんだな。しかも、どこかの国のお偉いさんと見た。

 ふうむ……ここで恩を売っておけば、情報収集のたすけになるかも? 人の街へ潜入するのも楽になったり?

 よし、介入するか! べ、別にあなたの為じゃないんだからねっ!


「助太刀するぜ! そのまま走りな!」

「っ!? 誰だ!? いや、しかしそれではお前が!」

「心配ご無用! 任せな!」

「ナオミ様、ここは彼の言う通りに!」


 おう、地味顔君、そのお姉ちゃんを連れて行ってくれ。邪魔だから。

 ま、サボテン狩りは砂漠の横断中に散々やってきたからな。二十体程度なら軽い軽い。

 先ずはダッシュで間合いを詰める! そして先頭の黒サボテンを槍の柄でフルスイング! よし、センター強襲! その青サボテンと一緒に寝てな! 遠隔攻撃が鬱陶しいんだよ、青。

 そして黄色、お前もいつものボールポジだ! 白と一緒に転がっていけ! クリーム色になってしまえ!

 よし、敵対心タゲエグジーに移ったな? じゃ、ここからはいつも通りで。

 サボテン共から付かず離れずの距離を取りつつ、弧を描くように走る! こうすると、サボテン共が集まって団子に……よし、集まったな。

 もうちょっと引っ張って、赤が外側に出てくるように……よし、いまだ!


「喰らえ! 牙突、九十九式!」


 はい、突きじゃありません。只の槍投げです。名前を付けたらカッコいいかと思って。

 けど、槍聖術を貰ってから、なんか妙な光のエフェクトが絡みつくようになってるんだよな。マジでカッコいい。必殺技っぽい。


「わ、私もたたか


 おいぃ!? お姉ちゃん、お前なんでそんなところにいるんだよ! 走れって言っただろう! 地味顔君、仕事しろ!


「くっ!」


 不味い、もう槍は赤に刺さってる、爆発まで時間が無い! ええい、しょうがない! 全開ダッシュ!


「伏せろ!」

「きゃっ!?」


 これは緊急措置だからな! 押し倒したからって、性犯罪じゃないからな! 可愛い声を出されても、興奮したりしないんだからな!

 ごめん、嘘。ちょっと興奮した。うひっ。


 ドガガガーンッ!!


 うはっ、来たーっ! 大爆発!

 おお、空に吹き飛ばされたサボテンが空中で爆発してる。きたねぇ、いや、綺麗な花火だ。あ、クリーム色。

 あいてっ! 小石が、巻き上げられた小石が! いてててっ! あだだだだっ!?


 ふう、ようやく収まったか。あー、痛かった。毎度のことながら迷惑な奴等だぜ。全身砂だらけだ。


「大丈夫か?」

「……」


 うん? お姉ちゃんの様子がちょっと変だな。俺の顔に何か付いてる? 爆発のショックか? なんか放心状態になってる。

 っ! 今ならおっぱい揉んでも気が付かれないんじゃないか!? チャンス!?

 いやいや、それは紳士じゃないな。紳士は揉んだりしない。そっと撫でるのみ、それが変態紳士。

 っていうか、革鎧着てるから揉めねぇよ。撫でても楽しくねぇよ。変態紳士もがっかりだよ。


「おい? 耳やられたのか?」

「……はっ!? だ、大丈夫だ。庇ってくれてありがとう……」


 うむ、どうやら大丈夫みたいだな。ちょっと顔が赤いのは……俺に惚れたか? なんてな!

 このお姉ちゃん、近くで見ると整った顔してるな。ちょっと彫りが深くて俺の好みじゃないけど、普通にハリウッドで主演してそうな美人だ。おっぱいもデカい。革鎧は特注だな!

 あれだ、ドレスアーマーを着せるとメチャハマりそう。〇イバーのコスプレさせてぇ!


「単なる気まぐれだ。余計なお世話だったか? オレはエグジー。流れの傭兵だ」

「いや、正直危なかった。助けてくれてありがとう。私はナオミ=コナーズ、今代の勇者をやらせてもらっている」


 ……。

 ……えっ、勇者? 女勇者?

 この世界の勇者っておっぱい付きなの? 撫でていい?

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