047
「マーリン殿、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」
「なんでしょう、アローズ殿? 私に答えられる事であれば」
夕食はもうちょっと待て。まだ準備中だ。ハリーが鋭意制作中。
今日は川エビと鹿肉のアヒージョだ。料理技能が生えてからというもの、作るもの全てが美味そうで、我ながら困ってしまう。天才かな!
つっても、俺は食えないんだけど。味見だけ。うぬう。
ニンニクと唐辛子は軍の物資にあったやつ。こいつら、俺の眷属に出来ないかな? そしたら味付けのバリエーションが増えるのに。ちょっと植えて試してみるか。
捨て駒にされたのはそれが原因かもな。貴族に嫌われたんだろう。上辺を取り繕うのも、社会で生きるには必要な技能だよ? ゴマを擂るのだ、俺に!
「大魔王ボン様は、かの猛獣大魔王に連なるご出自なのでしょうか?」
猛獣? 誰それ?
うちは由緒正しき庶民の出だぞ?
まぁ、父ちゃんはアニメヲタク、母ちゃんは漫画ヲタク、そして俺はアニメとゲームヲタクという、ヲタク一家ではあるけどな。
唯一、姉貴だけが普通のJCからJKを経てJD、そしてOLから主婦になった。全く普通だ。
うちの先祖にも大魔王は居なかったと思うぞ? 家系図は見たことないけど、先祖に大魔王がいるって話は聞いたことが無い。父方のひい爺ちゃんが海軍の少将だったって事しか知らん。
今の俺の親も、きっと違う。多分、草。俺が草だったし。
だとしたら、もう枯れてこの世にはいないはず。そこら辺で、俺や他の草の栄養になったんじゃないかな?
というわけで、心当たりは全くない。
「ふむ、何故そう思うのですか?」
ザ・質問の質問返し! 意図の分からない質問には、真意を問う質問で返す。誤解したらいけないからな。察しが悪いんじゃない、堅実なんだ!
「私が最初に会ったアーサー殿は、ワーキャットに見えました。
「ふむ」
ネコ耳たちって、いわば平家の落ち武者だったのね。追われて盆地に逃げ込んだのか。
ってことは、あの盆地は四国の山奥みたいなもんか。そういや超すだちもあったしな。徳島あたりなら秘境というのも納得できる。日本三大秘境とか言ってたし。
その平家の落ち武者が味方してるんだから、俺も平家の血筋なんじゃないかって考えてるわけか。徳島県民じゃないかと、そうめんつゆにすだちを入れるんじゃないかと言ってるわけだ。
うん、推理としては筋が通ってる。答えは間違ってるけど。
そうか、槍聖は迷探偵ポジなんだな? そのうち麻酔針で眠らせてやろう。そして寝ている間に、お前のめんつゆにすだちを搾っておいてやる! 美味いぞ!
「マーリン殿、アナタも
おっ、鋭い! そうだね、俺は
これも全てパンツのせいか……仕方あるまい。只の布切れに過ぎないソレに道を求めた者の宿命だ。甘んじてその
もしくは
猛獣大魔王か。そいつはどんな罪科を背負ってしまっ……まさか! いや、有り得る! むしろ、それしかあるまい!
猛獣大魔王、そいつは『ケモナー』だったに違いない!
モフモフした動物的特長に性愛を抱くケモナーなら、その業の深さによって大魔王と呼ばれても不思議じゃない。
そうだよな。俺もネコ耳たちは朴訥で可愛いと思うし。
爺ちゃんやオッサンも居るけど、年寄ネコやブサネコだと思えば許せる範囲だ。愛でようとは思わないけど。
なんか、猛獣大魔王ってやつに親近感が湧いてきたな。一緒にケモ耳談議で盛り上がれたかもしれない。
けど、もう千年も前に死んじゃってるのか。惜しい奴を亡くしてしまった。俺がもっと早く生まれていたら。
……いや待て、その程度の業で大魔王なんて呼ばれるか? それならネコ耳たちに出会った時点で、俺が大魔王になってるはずだよな。
大魔王と呼ばれるほどのケモナー……いや、まさか……まさかとは思うけど、動物そのものもイケる口か!?
地球でもサルとかヤギとかとヤってる奴が居たし、有り得る! むしろ、そこまでイケば大魔王と呼ばれてもおかしくない!
くっ、ジャ〇リパークはOKだけど、ビース〇ーズでは興奮できない俺には無理だ!
すまん、猛獣大魔王、俺はそこまでイケない! 俺を置いて先にイケ!
っていうか、そもそもウサギやシカは俺の敵だったわ。あいつらとは仲良くできない。ウサ耳ならイケるけどな。バニーさんは別腹。ただし美女に限る。
「当たらずとも遠からず、というところでしょうか。私たちは大魔王様の御力で変質しております。生粋のヒュームやワーキャットではありません」
豆だ。変質者だから変質もしてる。変態まではもう少し?
「そして、大魔王様の出自については、私も存じておりませんし、彼の猛獣大魔王との関係性も存じません」
マジで知らん。千年前の種が芽吹いた、って可能性が無いわけじゃないけど、多分関係ないと思う。
「ただ、大魔王様の御考えは分かります。世が平和であること。大魔王様はそれのみを求めておいでです」
キキやネコ耳たちが安全で穏やかに生活できたら、それで十分だ。そして俺は、パンツやタイツを作ってのんびり暮らす。ときどきブラ。あっ、シュミーズとスパッツも要るな。ヤバい、また業が深まってしまうぜ。
「まさか!? 大魔王、様が平和を!?」
「おかしいですか? 大魔王様はお強い。非常に強い力をお持ちです。強い力を持つ者は、無用な争いなどせぬものですよ」
「そ、それはそうでしょうが……」
「大魔王様は、些細な事をお気になさりません。ヒュームだとかワーキャットだとかは、
今でも豆とネコ耳とヤギの家族だからな。種族の違いなんて鼻で笑っちゃうぜ。
おっ、なんか槍聖が吃驚したような安心したような顔してる。心に響いちゃったかな? いい仕事してくれるね、話術技能。
ヒュームを滅ぼすのか否か。
槍聖が訊きたかったのは、多分ソレだろう。戦争になったとき、ヒュームの国の軍隊を全滅させるのか否か。その国の民を絶滅させるのか否か。
やだよ、そんな面倒臭い事。後に残るのは廃墟と死体だけじゃん。この地下都市の掃除だけでも大変だったのに、国単位で掃除とか有り得ない。無理!
「疑問の答えになりましたか?」
「……はい。誠心誠意、この身の朽ち果てるまで大魔王様にお仕えする覚悟ができました」
「それは良かった。では夕食にするとしましょう。今日の夕食は絶品ですよ」
「それは楽しみだ」
ちょっとは忠誠心が上がったかな? いい笑顔だ。美味い飯食って、もっと忠誠を誓うがいい。
やれやれ、中間管理職は辛いね。部下のメンタルケアまでしなきゃいけないなんて。
まぁ、俺がトップでもあるから、意見は確実に上まで届くよ。素晴らしい組織だな。っていうか、下っ端も俺だけどな。
トップから下っ端まで全部俺。それって個人営業じゃね? もしくは自由業。
そうか、これがリアル『今日から〇のつく自由業』というやつだな! 納得した!
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