046

 いかん、いかんいかんいかんいかん!


「陛下、陛下はいずこか!」


 ええい、無駄に広い宮殿じゃ! むっ、ここも行き止まりか! さっさと修理すれば良いものを……いや、宮殿よりも市井の復旧を急いだ結果じゃ、致し方あるまい。

 おお、近衛がおる。近衛ならば陛下の居場所を知っておるじゃろう。


「これ、そこの騎士殿よ」

「はっ、これは『賢者』様、如何為されましたか?」

「陛下はいずこじゃ、早急にお伝えせねばならぬことがあるのじゃ」

「ははっ、陛下に置かれましては、只今教国よりお越しの使者殿と面会中にございますれば、謁見の間におわしにてございます」

「左様か、ではしばし待つしかないのう。呼び止めて済まなんだな」

「いえ、賢者様もお勤めご苦労様にございます」


 流石は近衛じゃ。頭を下げる所作ひとつをとっても無駄がないの。自らの身体を隅々まで把握出来ねば為せぬ動きじゃ。日頃から厳しい鍛錬を積んでおるのじゃろう。感心感心。

 いや、この国は王家からして怠惰とは無縁じゃ。常に国のため民のためにと心を砕いておる。現国王陛下も正に名君。わしも安心して仕えられるというものじゃ。

 その分、貴族共は腐っておるがな。あ奴らはいずれ排除せねばなるまい。いまに見ておれよ、腐れ外道どもめが!

 しかし、今はあのような小物共にかかずらわっている場合ではない。


 大魔王、ボン=チキング。


 名持ちの魔王、魔王殺しの大魔王。

 なんという恐ろしい存在か。魔王というだけで脅威であるのに、名持ちでもある。それは即ち、わしらヒトを大きく超える力の持ち主であるという事。

 ヒトの暗黒時代、かの猛獣大魔王の再来じゃと言われておる。しかし、その正体は杳として知れぬ。魔境の奥深く、中央大山塊に居るらしいということしか分かっておらん。


 じゃからこそのわしじゃ。

 わしが名持ちになったときに授かった神力『天心通』。それは世の名持ちに関する事柄を居ながらにして知ることのできる技能スキル

 もっとも、全てを知ることができるわけではない。過去に起こったことは分からぬし、得られる情報も断片であったり無意味なものであったり。

 じゃが、賢者たるわしは、その断片からある程度の全容を推測することができる。それこそが賢者たるわしが持つ技能『超理解』よ。これがあればこそ、わしは四大魔法を極めることができたのじゃ。


 その天心通が得た情報は、大魔王が『槍聖』を従え『変質者』となったということ。

 最初は何のことやら意味がわからんかったわい。しかし、超理解がこれにひとつの答えを出しよった。


 それは世界の変革。今の世の在り方を変える者。

 知恵と力、技と畏れを以って世界を従える恐怖の大魔王。

 それはこの国の、いや、世界の終わりを意味する!


 なんという事じゃ、もう何度目かもわからぬというのに、震えが止まらん!

 陛下にお伝えせねば!

 国の威信などどうでもよい、国の枠を超えて協力せねばならぬ!

 持てる全ての力でもって、大魔王を討ち果たさねばならぬ!


 謁見の間に着いてしまったの。ではそこの控室で待たせてもらうとするか。

 わしの言葉ひとつで世界が終わるやもしれん。なんという重圧か。

 しかし、やらねばならぬ。国を挙げての大魔王討伐、それしかこの国に未来はない。



 くくくっ、これで世界が変わる。いや、俺が変える、ここから変わるのだ!


 ♪パッパパァ~ン! ブラジャー!


 作っちゃった。てへっ!

 ああそうさ、変質者呼ばわりされようがなんだろうが、あのお嬢さん方の美乳が崩れるのは我慢できなかったのさ! これは世界に与えられた俺の使命だったのさ!

 ええ、何カップかはわからなかったので、実測で作りましたが何か? いえいえ、触診は必須だったんです、他意はありませんよ。ええ、もちろん、もちろんですよ。ぐふふ。

 ふはははっ!

 世界に認められた変質者に、怖いものなんてもう何もないぜ!

 ふははははっ!

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