043

 翼よ、あれがパリの灯だ!

 いや、全然パリじゃないし、そもそもまだ昼間だけど。

 この辺はもう針葉樹林じゃないな。針葉樹林が広葉樹林になって常緑密林になってる。

 言葉だけだと長距離を移動したみたいに聞こえるけど、実際は山岳地帯から平野部に降りてきただけ。そこそこの距離を移動したのは確かだけど、それほどじゃない。


 で、アレがこの『荒鷲のエサ場』最寄りの村か。初めて見る『ヒト』の村。

 木の骨組みにバナナっぽい葉っぱを葺いた屋根。家に壁が無くて吹きっさらし。メッチャ南国風だな。この辺って、実は緯度が低かった?

 いや、ここは魔法のある世界だ。なんかソレっぽい不思議パウワァーでチェンジ・ザ・ワールドされてる可能性はあり得る。エリックだって居るかもしれん。その力、うちの盆地で発揮してくれねぇかなぁ? 雨を降らせてくれるだけでいいから。日光サンライトは足りてるから。

 家の中では……ちょっと色黒なヒトたちが昼寝してる? 昼間は暑すぎて仕事にならんってか? 風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みか? いいご身分だな! 俺も混ぜろ!


 とか言っても、この村に用はないんだけどな。俺たちが目指すは皇国の皇都。っていうか、その手前の街あたり。

 とりあえず、この村の近くに一個だけ種を落としておくか。ポイッと。これで良し。

 それじゃガンモ、更に南東へプリーズ。

 お、森を越えたら支配領域の外になった。分かりやすいな。ここからはヒトの領域ってことね。やっぱ領域支配者エリアボスは王様なのかね? 倒せば俺が領域支配者か?


 ふと思ったんだけど、この絵面、遠目には巨鳥に攫われるお爺ちゃんっぽく見えてるんだろうなぁ。思いっきり足に掴まれてるし、アーサー。勘違いした正義漢が救助に来たりして?

 いや、その場合はお爺ちゃんじゃなくてお姫様だよな。ガンモは魔王だし、お姫様はさらわれるのとさわられるのが仕事(?)だし。そして勇者にお持ち帰りされて『昨夜はお楽しみでしたね!』される。うひょっ!

 ん? あれ? 大魔王おれの出番が無いな? 触れるのは魔王ガンモと勇者だけか? 俺もお姫様をお持ち帰りしたいぞ!

 なんてことだ! くそ、ファンタジーめ! どうあっても大魔王おれに美味しい思いはさせないつもりかっ!? なんて悪辣な!

 そうか、物語の大魔王は、こうして世界に対する恨みを募らせていくんだな。

 世界の全てが敵……望むところだ! 俺が全てを滅ぼしてやる、俺が世界の敵だ! 俺にも触らせろ!

 いや、でも惑星を崩壊させるほどではない。可愛いお姫様ひとりで手を打つ。ご希望なら三々七拍子で。だから惑星崩壊は俺が原因じゃない、と思う。はぁ、早く原因究明しないとなぁ。


 まぁ、目下のところの敵は皇国だ。既に兵を送り込まれてるからな。宣戦布告もなしに。その報復はしなきゃならない。

 舐められっぱなしで済ませていいのはワンコ相手だけだ。アレは親愛の表現だからな。ベロベロのグチャグチャになっても文句を言ってはいけない。『ほら、もっとお舐めなさい! この犬畜生!』くらいの気持ちで。女王様ノリで。

 けど、国相手なら話が別。文句っていうか、抗議はしておかないと。舐められてたら、すぐにまた攻めて来られてしまう。ここはガツンと行くシーンだ。

 けど、そのためにはこちらの力を見せておく必要がある。力の無い相手の抗議なんて無視されて終わりだからな。こっちは覇王様ノリで。


 無視できないくらいの力、それはどの程度なのか。

 それが分からないんだよなぁ。時空間魔法と光魔法、風魔法をほどほどに使えば大丈夫だと思うんだけど。世紀末覇者くらいか? ぬうぅんっ、ドオォン、ゴゴゴゴゴ……な感じ? 余計に分からんな!


 最初は、皇国全土を毒浸しにして全滅させるつもりだった。他の国への見せしめにもなるかなって。

 けど『逆に、意固地になったヒトが絶滅覚悟で向かってくる可能性もあるなぁ』と思ってやめた。別にヒトを絶滅させたいわけじゃない。


 理想は皇国の従属化だ。王家やら貴族やらがいるらしいから、そいつらを排除または隷属させて皇国を乗っ取るのが一番。

 けど、それにはそいつらを奴隷化する技能スキルる。書面や恫喝、監視だけでは縛り切れないだろうからな。

 けど、そんな技能覚えてねぇよ! というわけでボツ。


 次善策は、やはり武力による示威行動だろう。というわけで、今それを実行中だ。というか、準備中。

 今回のガンモ航空もソレ。皇都近郊で情報を集め、皇国のウィークポイントを探す。そしてそこを突いて大魔王軍の脅威を知らしめる! 大魔王軍と言っても、実質俺だけだけどな!

 ガンモ? ガンモはペット枠だから戦争になんて参加させない。せいぜい運搬くらい。ペットを戦わせるなんてとんでもない! ヤギママも同様。

 野郎ふたりも、今は戦わせない。技能開発要員だからな。実験体モルモットともいう。戦争に行くより過酷な目に遭ったりは……ふふふ。


 おっ、アレが城塞都市ゴッツかな? ソレっぽい街が川の傍にある。結構でかい、城壁が。

 城壁は半円状だな。川に面したところは壁が無い。

 ライアン曰く『皇都へ向かう途中で一番大きい街』だそうだけど……確かに、城壁は大きい。高さ二十メートルくらいあるんじゃない? 厚みもそれなり。

 けど、街自体は小さくね? あの面積だと、せいぜい二、三千人くらいしか住めないんじゃないかと思うんだけど。人口密度が極端に高いとか?


 まぁいいか、あそこから始めよう。まずは情報収集だ。

 俺って、この世界のヒトの国の事を何も知らないからな。野郎ふたりからの聞き取りだけじゃ限界がある。あのふたり、傭兵と下っ端兵だったから、経済や政治についてはサッパリだしな。

 百聞は一見に如かず、習うより慣れよだ。実体験に勝る情報なし!


 よしガンモ、あの辺の草っ原に降ろして……って、違う! それは『降ろす』じゃなくて『落とす』だ! こんな上空で放すな!

 うおーっ、落ちるーっ!? 地面が、地面がっ!

 うぬぅっ! 逆噴射、風魔法だ! どりゃっ!


 バフッ! ズドンッ!!


 ふうっ。

 アーサーワシは舞い降りた。比喩無しで、なんとか。

 まったく、お爺ちゃんに対して、なんて酷いことをするんだ! ガンモは後でお仕置きだな。胸毛ワシャワシャの刑だ。モコモコモフモフで俺が気持ちいい刑。


 さて、それじゃ夜を待ってコッソリ街に潜入するか。そして情報収集、スネークミッション開始だ。この世界にメタ〇ギアは無いと思うけど。

 多分、段ボール箱もな。

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