038

『ヒューム(オス・二十六歳)』


 やっぱセクションは無いか。名前を付けないとダメなんだろうなぁ。

 うぬぅ、オッサンではなくニイチャン……まぁいい、立派なオッサンになるまで育ててやるのも一興だ。

 プリンセスならぬオッサンメーカーか……まさか、最終的にはパパのお嫁さん!? オッサ〇ズラブ展開!? それはちょっと勘弁! 微妙に需要がありそうなところが嫌だ!


「アナタの名前を教えていただけますか?」

「オレは『ライアン』だ。タルボット村のライアンで通してる」

「家名は無いのですか?」

「平民だからな。他の国には平民でも家名を持ってることがあるって聞いたことがあるけどよ、ラスタ皇国の平民にはぇんだ」

「なるほど」


 そうそう。こういう情報が欲しいんだよ。俺、外の世界の事を何も知らないからな。何も知らないうぶなネンネなのさ。

 庶民っていうのもいい。いずれ俺が支配するのは庶民だからな。その考え方や生活を知っておけば、懐柔するのが楽だ。『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』なんて事を言って反感を買うのは得策じゃない。パンが無ければ芋を食べればいいじゃない?

 王族や貴族はぶっ潰す! 幼気いたいけな大魔王に討伐軍を送り出すような外道は許さん! 天に代わっておしおきよ!


「それで、アンタの名前は?」

「おっと、自己紹介がまだでしたね。失礼しました。わたくしは大魔王様配下のひとり、マーリンと申します。お見知りおきを」

「ああ、よろしく頼む」


 はい握手。

 さてと。それじゃ自己紹介も終わったことだし、やってみますかね。

 命名、『ライアン』!


「っ!?」

「どうかなさいましたか?」

「い、いまのは神言? オレが名持ちに?」

「神言? 名持ち?」


 神言ってなに? 名持ちって、俺がさっき名前を付けてあげたことか? いや、でもお前、最初から名前持ってたじゃん。

 どれどれ、ステータスの方は?


『▼ライアン』


 よしよし、ちゃんと登録されてるな。今日から君はライアンだ。昨日までもライアンだったけど、今日からは新しいライアンだ。未来のライアンだ!


「魔物、いや、魔族には無いのか? 偉業を為したりその道を極めると、どこからか声が聞こえてくるそうだ。それが神言で、さっきは『固有名『ライアン』を獲得しました』っていう神言が聞こえたんだ」


 ほうほう。神言って天の声さんシステムメッセージのことね。俺も知ってるよ。固有名うんたらっていうのも聞いたことがある。俺のは嫌な家名付きだったけどな。わざわざ二回も言われたけどな!

 俺が名付けをすると、相手にはそんな天の声が聞こえるんだな。きっと、キキやヤギママ、ガンモにも聞こえてたんだろうなぁ。喋れないから報告が無かっただけで。

 けど、そんなに天の声って珍しいものなの? 俺、結構頻繁に聞いてるよ?


「ふむ。その神言や名持ちというのは珍しいのですか?」

「ああ。まず、神言自体を聞けるやつがあまりいない。生まれつき技能スキルを持っている奴か、修行してその道を極めた奴しか聞けないらしい。大体、千人にひとりくらいって話だ」


 む? 俺は最初から聞けたぞ? あっ、あの最適化ってやつか! 俺は生まれつき技能を持ってたパターンってことか。


「アナタは今まで聞いたことがなかったのですか?」

「ああ、初めて聞いた。あんな感じなんだな。もっと神々しいのかと思ってたよ」


 そうだね、俺も天の声さんはちょっと事務的過ぎると思うよ。もっと遊び心があってもいいのに。『お兄ちゃん、支配領域ゲットだよ! やったね!』とか『ごめんね、激甚災害指定しちゃった。てへっ』とかさ。そしたら、大きなお友達が萌え擬人化してくれるよ。

 今のままだと『黒髪ボブでタイトスカートのビジネススーツのメガネ美人』にされちゃうよ? いや、それはそれでアリだな、アリアリだな! 罵倒されたい!


「名持ちに至っては更に珍しいらしい。俺が知ってるのは各国の国王と英雄たちだけだ」

「英雄?」

「ああ、あの槍聖様や教国の聖者、エルダインの勇者と賢者なんかだな。庶民にも何人かいるそうだけど、俺は知らん」


 勇者! やっぱりいたのか! よし、責任の押し付け先が見つかった!

 エルダインってところにいるんだな? くっくっくっ、待ってろ勇者! 貴様には俺の重責を肩代わりさせてやるからな! いま、会いに行きます!


「名持ちは世界に認められた証だって話だ。自分の力量が星の数で分かるようになって、特別な力が与えられるらしい」

「ほう」


 あー、ステータスが見られるようになったのは、名前が付いたからだったのか。喋るのは関係なかったのね。

 特別な力ってなんだろう? 俺は名前付きになったときに何か貰った記憶はないぞ? それまでに技能はいっぱい貰ってるけどな。前借してたって事なのかね?


「ほう、ではアナタも自分の力量が見えるようになったのですか?」

「ああ、確かめてみる。ステータスオープン」


 こっちでも見てみよう。ポチッとな。


――――

名前:ライアン

種族:ヒューム(オス)

年齢:二十六歳

HP:★★

MP:★

腕力:★★

体力:★★

知能:★★

敏捷:★

技巧:★★

技能:『剣術』『盾術』『槍術』(『成長促進』)(『毒耐性』)(『言語理解』)

称号:

眷属:

特記:『ボン=チキングの眷属』

――――


 ステータスは低いな。いや、こんなものか。ヤギママたちと比べるのが間違ってるよな。ああ見えて元領域支配者や魔王だし。ああ見えて。

 ほう、剣術や盾術を持ってるな。さすが兵士。

 むっ、槍術持ってるじゃん!俺でも持ってないのにズルいな!

 いや、こいつを眷属にしたってことは、もしかして……あっ、ある! 俺にも槍術が生えてるよ! 剣術も盾術も生えてる! ラッキー! うむ、やっぱ異世界転生モノはこうじゃないとな。チートとは斯くあるべきだよ。

 そうだよ、自分で頑張ってあれだけ動けるようになったのに、槍術も体術も生えなかったもんな。モンスターには生えないのかと思ったよ。

 もしかしたら取得条件に期間とかがあるのかもな。ある程度の期間訓練しないとダメって感じで。

 あれ? でもこいつ、技能取得の声を聞いたことないような事を言ってたな? 天の声を聞くための条件が他にもあるのかね? まぁ、こいつで確かめればいいか。

 こいつは実験台だ。アレなことやソレなことをしてもらって、どうやったらスキルが生えるか、生えたスキルが俺にも使えるようになるのか、じっくり試させてもらう。

 俺は自分じゃ頑張らない。ボンちゃん@頑張らない。だって面倒くさいから。

 任せたよライアン君! 大魔王様の強化は君に掛かってるのだ! しっかり育成してあげるからね! 俺は指示するだけ、頑張るのは君だ!

 むっ? ということはやっぱりオッサンメーカーか? いやいや、パパのお嫁さんは絶対にダメ! それだけはダメ、ゼッタイ!!

 そう、プリンセスにしてあげるから! パパが立派なオッサンプリンセスにしてあげるからね!


「うおっ!?」

「どうかしましたか?」

「いや、今一瞬寒気が?」


 勘のいい奴め。

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