035
おおーっ、これは気持ちいいな! ちょっと足元が心許ないけど。
けど、寒い! 超寒い! 上空ってこんなに寒いものなんだな!
「むっ、ガンモ、あちらへ向かって飛んでくれるかの? そう、あの突き出た岩のところじゃ」
ようやくアーサーも地上に出られたよ。思った通り、針葉樹林の南側だったね。
この針葉樹林、思ってた以上に広そうなんだよな。まぁ、ガンモとその眷属が生きていける、その巨体を維持できるくらい豊かな森なんだから、広くて当たり前なんだけど。
けど、そこを探索するのは大変だ。僅か数体の分身じゃ手が足りない。もう人型になれるから、枝じゃなくて手で合ってる。でも足りない。
というわけで、ガンモ航空の出番だ。アーサーと種を足で掴んでもらって、空から人里を探す事にした。ガンモ、役に立つじゃん。ちょっと足元がブラブラしてて怖いけどな。こんな絶叫マシンがどっかにあったな。ズドドーンとかビビューンとかいうやつ。
ガンモは人を見たことが無いらしい。というか、仲間以外は全部エサにしか見えないっぽい。区別出来てない。さすが野生動物。なので、それを探すのは俺の役目だ。丁度いい
千里眼。
単に視力がアップするだけの技能なんだけど、これがメッチャよく見える! マジで一キロ先の砂粒が見分けられる。
これもガンモから貰ったものだ。ガンモ、マジ役に立つじゃん。荒鷲魔王の名は伊達じゃないね!
というわけで、この技能で先ず上空から人の痕跡を探して、そこから探索範囲を絞って行こうというわけだ。
パパイヤさんじゃなくてアーサーな理由? そんなのウェイトに決まってるじゃないか。重いより軽い方がいいに決まってる。アーサーは小柄な初老のお爺ちゃんだから軽いのだ。ペットを虐待してはいけないのだ。虐待ダメ、絶対。
パパイヤさんは引き続き、漁をしながら川下りだ。キキやガンモのご飯集めでもあるから、存在の重要度はハリーと同じくらい高い。けど、一番異世界を満喫してるのはこいつかもしれない。自然と戯れまくりだ。パパイヤさんも俺だけど。楽しいからいいのだ。
ときどきでっかい鹿に襲われてるけどな。ヘラジカじゃなくてカモシカのでっかい奴。でっかい狼や熊も居るんだけど、あいつらは木に戻ると襲ってこないから安心だ。気を付けるのは鹿だけ。アフロを齧るあいつらは敵。
おっと、目的の岩に着いた。ガンモ、降ろして。うん、ありがとう。これ、ご褒美の鱒の切り身な。美味いか? そうかそうか。
ふーむ、やっぱりか。これ、焚火の跡だな。石で囲んで竈っぽくしてある。間違いなく人の痕跡だ。
ひゃっほぅーっ! ついに見つけたぜ、人の存在証明! 我々は孤独じゃなかった!
いや、ヒトならネコ耳たちがいるんだけどさ、それ以外にも居るのが分かったのは、素直に嬉しい。
正直、不安だったからな。もし、盆地の外に人が居なかったらどうしようってさ。
村も街もなくて、知的生命体があのネコ耳たちだけだったらどうしようって。もしそんな事になっていたら……俺が惑星消滅を回避させなきゃいけなくなるじゃないか!
やだよ、そんな責任負いたくないよ! 俺は大魔王なんだよ、救済する側じゃねぇよ!
ということで、この発見は素直に嬉しい。責任は他の人に負わせるのが一番だ。姑息? 何を言ってる、大魔王を舐めるな! 俺の姑息さはこの程度じゃねぇぞ!!
さて、ここから次の痕跡探しだな。
この岩の周りには……川があるな。生き物の痕跡を探すなら、やっぱ水場だよな。川沿いに何かないか……おっ、あそこに木を切った跡があるな。枝が切り払われてる。
ふむ、この川を下ってみるか。
「ガンモ、あの川沿いに飛んでくれるかの?」
アーサーは外見に合わせて爺ちゃんっぽい口調にしてみた。まぁ、現実でこんな口調の爺さんに会ったこと無いんだけどな。のじゃ姫やロリババア並みに居ないんじゃないかな? 未確認生物だ。UMA爺ちゃん。
まぁ、この世界にはネコ耳や動く豆の木が居るんだし、こんな口調の爺ちゃんくらい、きっとどこかに居るだろう。別に居なくても構わないけど。でも、のじゃ姫とロリババアは居て欲しいな!
さて、それじゃ探索を再開するか。のじゃ姫とロリババアの。
◇
居た!
いや、のじゃ姫でもロリババアでもないけど、人が居た!
けど、集落じゃないな。アレは野営か? 川原に焚火っていうか、かがり火が燃やされてる。もう夕方だしな。夕飯の準備も必要だろう。
じゃあ、早速接触……って、待て待て! アレ、ちょっと変じゃねぇか? ほとんどが揃いの鎧と槍持ってるじゃん。アレ、兵隊じゃね?
兵隊がこんな森の中に集団でいるってことは、何かの軍事行動か演習だよな。演習ならいいけど、軍事行動ならヤバい。巻き込まれたら面倒だ。
ここは、先ずは様子見だ。ガンモ、そこらの茂みに降ろしてくれ。よし、それじゃお前は亜空間経由で本体のところへ戻ってな。あいつらに見つかったら面倒だからな。
さてと。俺はコッソリ近付いて観察だな。
むっ、この辺りは針葉樹と広葉樹が混じってるな。枯れ葉が積もって足音を隠しにくい。音を立てないように抜き足差し足……並列思考も駆使して、出来るだけ静かに、自然と一体化するつもりで、そうっと……。
――隠密を獲得しました。
うおっ、びっくりした! 空気読めよ、天の声! 心臓が飛び出るかと思っただろ! 心臓ないけど!
まぁ、役に立ちそうな技能が手に入ったのはありがたい。まさに今から必要だからな。じゃ、改めて……おお、凄いな。ちょっと意識するだけで、音の出ない歩き方が自然に出来る。枯れ葉の上を走っても音が出ないし、風も巻き起こらない。ファンタジーすげぇな。
さて、と。
野営地まではあと百メートルってところか。様子を窺うにも、もう少し近付きたいな。会話が聞こえないことには、情報収集が出来ない。けど、これ以上近づくのはちょっと難しい。気取られそう。
あっ、そうだ、木に戻ればいいのか。森の中に木が一本増えても気づく奴はいないだろう。正に『木を隠すなら森の中』だ。それじゃ、木に戻って、そろりそろりっと。
うーん、あと三十メートル。これ以上は近づけん。周りに木が無い。突然野営地に木が生えたら、さすがに怪しまれるだろうからなぁ。
仕方がない、ここで聞き耳を立てるか。耳、無いけど。
さて、どんな話が聞けるかな?
「(…………)」
くっ、聞こえねぇ。もっと耳をすませば……バイオリンの音をよく聞いて……カントリーロードを口ずさむつもりで……
――聞き耳を獲得しました。
うわっ、びっくりした! だから空気読めよ、天の声!
でもありがとう。耳無いけど。
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