034
砂漠、砂漠、砂漠。
何処まで行っても砂漠、何処まで行っても未来。ヒトは私をキャプテンボンちゃんと呼……ばない。
いやぁ、マジで果てが無いわ。ずっと同じような石と砂ばっかり。『あれ? ひょっとして同じところをグルグル回ってる?』って錯覚するレベルで代わり映えしない。
まぁ、
うーん、今日のっていうか、今期の砂漠横断はこれにて終了! もう飽きたよ。支配権もゲットしたし、マーリンは別ルートで探索続行してるし、春まで休憩してもいいでしょ。いいよね? うん、いいよ!
ということで、種一個残して、エグジー君たちは本体の洞で休息です。
「やあ、キキちゃん。初めまして、エグジーお兄さんだよ?」
ちらっ……プイッ。
おう、見事なスルーだ。ちょっと寂しい。なんでだ、イケメンなのに。そんなに積み木が楽しいか? そうか、楽しいか。それ、パパがスネ毛を毟る思いで作ったものだからな。目一杯遊んでくれ。
むっ、なんだ急に嫌そうな顔をして? あっ、こら、投げ捨てるんじゃありません! パパのスネ毛が!
ふーむ、時々出るこの『言ってることを理解してます』的な行動は、やっぱり『言語理解』の効果なのかね? まだ赤ちゃんだけど、言葉の意味を理解してるって事なんだろうなぁ。
きっと、それがステータスにも影響を与えてるんだろう。知能に星がひとつ付いてたのはそれが理由だと思う。技能の隠し効果ってところかな? 同じように、成長促進の効果でHPに星が付いてたんだろう。
地味だけど、こういう検証は楽しいな。世界の秘密を解き明かすみたいで、ヲタク心がくすぐられる。
世界の謎を解き明かす、それが科学の使徒ボンちゃんの使命だ! けど、科学より魔法の方が便利だよな。あれ? 科学、要らなくね? 使徒やーめた。
とりあえず、今は赤ちゃんのためのご飯について解き明かさねば。新レシピの開発だ。食材が少ないからなー。組み合わせが限られちゃってるんだよなぁ。
今のところ、キキが一番好きなのは、ヤギ乳で作るフレッシュチーズだ。ヤギママのミルクを温めて、超すだちの汁を入れて濾すだけのお手軽チーズ。おやつによく食べている。
けど、これは俺が食っても超美味い。ヤギ乳独特のクセを、超すだちの香りが上手く抑え込んでくれている。温めた超すだちの仄かな甘みもたまらない。メッチャ白ワインが飲みたくなる逸品だ。最近の疑似知覚さんはいい仕事をしてくれている。
次に好きなのが、鱒のすり身の超すだち風味。また超すだちだ。何気に超すだちの発見は生活を豊かにしてくれている。感謝感謝だ。
作り方も難しくない。焼いた鱒の身をペーストにして、生の超すだちの汁をほんの数滴、そして摩り下ろした超すだちの皮も少々。これを混ぜ合わせるだけ。
それだけなんだけど、これがまた実に上品な味で、鱒の旨味と超すだちの酸味が絶妙なハーモニーを奏でてくれる。超すだちの皮はちょっとしたアクセントだ。辛口の日本酒に合う事間違いなしの絶品に仕上がっている。
同じ材料でしんじょうが作れそうだな。キキの歯が生え揃ったら、作って食べさせてみよう。
けど、残念ながら、この二つ以外はあまり好きではないらしい。ネコ麦で作るミルク粥も、ジャガイモのポタージュも、あまり熱心に食べてくれない。ヤギ乳そのままの方がまだ飲んでくれる。
まだ赤ちゃんだから味付けの濃いものは食べさせられないし、歯が生え揃ってないから硬いものは食べさせられない。基本、煮込むか擂り潰すしかないんだよなぁ。
現代は店に行けばいろんなベビーフードが売ってたからな。大体お粥プラス白身魚や鶏肉だったけど、グラタンやドリアもあったっけ。姉貴が山盛り買ってた。
レトルトパックでチャーハンって書いてあるからパラパラなのかと思ったら、チャーハン風味のお粥だったんだよな。あれには騙された。
あっ、アレはどうだろう?
まずはジャガイモを摩り下ろす。たっぷり摩り下ろす。頑張れエグジー!
休暇? ははは、俺は大魔王だぞ? ブラックに決まってるじゃないか。まぁ、エグジーも俺なんだけど。主夫に休みなんて無いのよ!
このおろし金も木製なんだよなぁ。もっと丈夫な素材、金属とか欲しいよな。アルミとかステンレスとか。ステンレスって鉄と何の合金だったっけ? ガンダリウム?
なんかこう、そういう
摩り下ろしたジャガイモに水を加えてよく混ぜて濾す。必要なのはこの白い汁の方。搾りかすの方はヤギママのご飯にしよう。干し草も少なくなってきたし、丁度いい。
しばらく汁を寝かせてと。続きはちょっと後だな。
さてと、他には……出汁が必要だな。
まずは魚の骨、カニ、エビをカラカラに乾燥させる。アノマロカリスは……やめておこう。あれを食材にするのは勇気が要る。
喰らえ、光魔法と風魔法の合わせ技、熱風魔法! 温度を下げればドライヤーにもなります! ヤギママのお気に入りです!
うむ、いい感じだ。異世界のエビとカニも、熱が通ると赤くなるんだな。
これを適当な大きさに砕いてっと。砕いて、エグジー君。こういうのはアシスタントの役目だから。さ〇いシェフは味付けとか盛り付けとか、クリエイティブな作業の担当なのだよ。星三つ、いただきました!
砕いたのを布に入れて、お湯に投入して煮出す。どのくらい煮ればいいかね?ちょっと色が付いたくらいでいいか。うん、こんなもんかな?
どれどれ、お味の方は……うーん、大人なら美味しいかもだけど、赤ちゃんはどうかなぁ? ちょっとカニとエビの風味が強い気がする。ミソ入りだからかね?
あっ、赤ちゃんにエビカニは駄目じゃん。魚の骨だけにして作り直しだな。じゃ、これはエグジー君が飲んでいいよ。って、俺なんだけど。美味いからいいか。
それじゃ魚の骨だけで作り直して……うん、いいんじゃないだろうか? カツオ出汁に比べるとちょっと薄い気がするけど、赤ちゃんだからいいだろう。
おっと、寝かせた汁が落ち着いたな。この上澄みを捨てて、底に残った白い粉だけを残す。これに温風を当てて乾かせば澱粉の完成だ。
さて、ここからが本番だ。
さっきの骨出汁に砕いた麦を入れて煮る。ひたすら煮る。ネコ麦は粒がデカいからな。砕かなきゃ煮えない。大きいのも善し悪しだ。
麦がトロトロになったら、ほぐした焼き魚の身と少量の水で溶いた澱粉を入れてもうひと煮立ちさせる。とろみが出てきたら摩り下ろした超すだちの皮を少量入れてと。
出来た! 異世界産純和風鱒麦粥・超すだち風味! 異世界ベビーフードの新風だ!
――錬金術を獲得しました。
錬金術かよ! そこは調理技能じゃないのかよ! 俺のは食い物じゃないってか!?
あれ? 今回はいつもとパターンが違う?
いつもは必要になると技能がもらえてたけど、今回は必要な作業が終わってからスキルがもらえたな。もしかして、自力で頑張れば獲得できる技能があるってことか? 槍とか格闘とかも、頑張れば技能が付くってこと?
おおっ、これは素晴らしい! 頑張り甲斐があるな! よし、目指せスキルマスター! スキル、ゲットだぜ!!
それはそれとして、今はキキのご飯だ。
エグジー君、これを食べさせる栄誉は君に与えよう。って、俺なんだけど。
「ほら、キキちゃん。俺の作ったご飯だよー、あーん」
あーん、ぱくっ。もぐもぐ……。
どうだろう? どきどき……。
ニヤリ。
おおっ! 気に入ってもらえたみたいだ! 男前な笑顔、星三ついただきました! ニッコリじゃないのが気になるけど、子供が笑顔なのはいい事だ!
――調理を獲得しました。
今更かーい!
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