030
すうぅ~、はあぁ~っ。
深呼吸(してるつもり)で心を落ち着ける。
ハリーの足を前後に開き、持たせた木の槍を腰だめに構え、踏み込みながら突き出す! 引き戻して、突き出す!
シュッ、シュッ!
先日の巨鳥戦は、我ながらダメダメだった。アタフタヲタヲタしただけだった。ヲタクだからヲタヲタしてるのはしょうがないか。
基本、俺って後衛職なんだよ。魔法使いだからな。急なアクションには対応できない。そもそも、本来は動くことすらできない植物だからな、俺。
けど、これからはそうも言ってられない。未知の領域に足を踏み出すんだから、何があっても対処できるようになっておかないと。
これはその第一歩。まずは槍を使えるように訓練だ。物理的戦闘手段の追加だ。
普通は剣術なんだろうけど、俺は槍にした。朱塗りの槍で修羅に入るのだ。ヲタヲタしてるだろう?
ぶっちゃけ、剣よりも槍の方が強そうだしな。リーチ長いし、突き主体だから避け辛そうだし。戦国時代でも、強い武将は大体槍の名手だったらしいしな。現実的に考えるなら、剣や刀よりも槍だ。
とうわけで、槍の訓練だ。ひたすら突く、突く、突く!
シュッ、シュッ、シュッ!
で、と。これを並列思考で検討、問題点を洗い出す。ふむ、踏み込みと突き出すタイミングがずれてるっぽい? こうか? こうか。
ビュッ! ビュッ!
よし、修正できた。
けど、まだ全身の力が槍に乗ってないっぽいな。こう……こう? なんか違うな。一回ゆっくりやってみて……こうか!
ボッ! ボボボッ!
おおーっ、なんか凄い音が出たな。達人っぽい!
よし、次は薙ぎとか払いとか、色んな動きと合わせて……。
◇
ヒュンヒュンッ! ババッ! シュボボボッ!
うむ、キレッキレだな。我ながらヤバい動きだ。カンフー映画かよ。ワイヤーアクションも無いのに。ハリーたちの元になった映画でもここまでじゃなかったよ。
たった十日の訓練でこのレベルか。並列思考、恐るべし、だな。
そしたら、これをドドリアさんにも共有してと。
ババッ! シュボボボッ!
なんでだろう? 太った人がキレキレのアクションすると、皆サモ〇ンキンポーに見える。
おっと。いい加減、ドドリアさんの外見を変えておかないとな。このままではヒトに見えん。元々ヒトじゃないけどさ。
うーん、太くてキレッキレ……よし、パ〇イヤ鈴木にしよう! 声も変えてと。後でダンスも練習しないとな。
あらやだ、ネコ耳が似合うじゃないの。髭アフロにネコ耳はアリだな。スーツ姿も貫禄があっていい。英国紳士じゃなくてバラエティの企画っぽいけど。
よし、それじゃドドリアさん改めパパイヤさんには、引き続き川を下っての人里探しをお願いします。これ、今回の台本です。本番までに目を通しておいてください。アドリブでダンス入れてもいいですよ。放送は三週間後の予定なんで。なんてな!
いやぁ、結構使えるな、並列思考。
本来は複数の事を並行して処理するための能力なんだろうけど、ひとつの問題に集中して改善策を出させるような作業にも向いてる。
三人寄れば文殊の知恵って言うけど、俺の場合、百人以上の俺が居るんだもんな。文殊が三十三人以上だ。再処理核燃料だって燃やせちゃうかも?
よし、マーリンとエグジー、アーサーにも共有してと。次は盾と素手での格闘の訓練だな。それが終わったらオムツと産着の改良をして、ベビーフードの開発もしよう! 頼むぜ並列思考!
◇
変なのがいる。
いや、知ってる。アレ、サボ〇んだ。もっこりパンツ履いた動くサボテン。〇ボさん、みぃつけた!
まぁ、砂漠でファンタジーなら当然出てくるよな、サボテン型モンスター。ど定番だ。
ただ、なぁ……いや、サボテン型っていうのはいいんだ。群れで出てくるのもいいだろう。無駄に攻撃的なのも、モンスターなら仕方ないのかもしれん。色違いが居るのも亜種ということで納得できる。
しかし、しかしだ!
何故あいつらは攻撃する度に揃ってポーズをとるんだ!? 戦隊か? スーパーヒーロータイムなのか!? 合体変形巨大ロボに乗るのか!? 燃えるな!
うおっ、針が飛んできた! とうっ、エグジー飛び込み前転! いや、攻撃前に必ずポーズをとるから、タイミングはモロバレなんだけどな。
サボテンのくせに動きは意外に機敏だ。植物型モンスターじゃねぇのかよ。俺がこのキレキレアクションを身に着けるためにどれだけ苦労したと思ってるんだ!
ぶっちゃけ、ほんの数時間だけどな。並列思考、マジ有能。
まぁ、近接戦の実戦デビューとしてはアリか。いきなり対複数っていうのはハードルが高いけど、現実はいくらでも過酷な状況を押し付けてくるからな。これ以上のハードシチュなんて、今後いくらでもやって来るだろう。来る、きっと来る。井戸の中から這い出て来る。出てくる前に埋めてやる。
このくらいは軽く乗り越えられないと、この先が思いやられる。なんてったって、惑星崩壊という特大の難関が待ってるんだからな。
おっと、そんな見え見えの飛び蹴りは喰らわないよ、緑くん。それは誘いだろう? ほら、黄色が避けた先を狙ってパンチを出してきてる。いい連携だ。でもそれも喰らわない。ボディががら空きだぜ? 槍の払いで吹き飛べ。
おっと、残念だったな、ピンク君。その回し蹴りはその黄色にくれてやってくれ。
ってか、他のはボディより濃い色パンツなのに、なんでお前だけ白パンツなんだよ? 何を狙ってるんだ?
そして青。お前、針飛ばし過ぎて禿になってるぞ? 遠隔攻撃に拘るなよ。
更に赤。お前はさっきからポーズ取ってるだけだな。戦う気無いのか?
連携してくるのは黄色、緑、ピンクだけだな。まずはこの三匹から
それじゃ、最初はピンクから。いいわね、いくわよ?
ダッシュ、そして突きの連打、連打、連打!
はい、おしまい。全身穴だらけにしてやったぜ。防御力はあんまり高くないな。パンツまで穴だらけだ。全然そそらないけど。誰得?
ボカーンッ!
うおっ、爆発しやがった!?
やられて爆発するなんて、こいつらヒーローポジじゃなくて怪人ポジだったのか!? そういやモンスターだったな。怪人っていうか、怪物ポジだった。
エグジーのスーツにちょっと焦げ目がついちゃったじゃないか。後で作り直さないとな。
けど、倒すと爆発するっていうのなら、それを利用させてもらうか。
緑の足底蹴りを槍で捌いて、返しの石突で殴る。そのまま円の動きで後ろの黄色を薙ぎ払い、青にぶつける。黄色、お前はドッジボールのボールポジだ。
そして更に吹き飛ぶ黄色を追いかけ突きの連打! 素早く離脱!
狙い通り、黄色の爆発に巻き込まれて青も爆発する。誘爆は対戦の基本テクニックですよ。
あっという間に残りは二匹だ。攻撃してくるのは緑だけだから、実質一匹だけとも言える。
一匹だけならもう脅威ではない。えいっ。槍で突いてお終いだ。素早く距離を取って爆発を避ける。あっけない。
これで残りは赤一匹だけ……って、アレ? 赤は何処だ? あっ、あんなところに! あいつ、仲間がやられたのを見て逃げ出しやがったな!? なんて薄情な!
逃がすかよ! うりゃっ、槍投げ! そして風魔法で誘導!!
よし、命中! 砂漠に縫い付けてやったぜ!
チュドーンッ!!
うおおぉっ!? メッチャ爆発した! うわわわわっ!? 転がる、転がるよ!?
うおぉおぉ……。
ふう、やっと止まったぜ。なんて威力だ。
そうか、もしあいつがやられたら相手だけでなく味方もダメージを負うから、戦わないで後ろに控えてたんだな。赤は最終自爆兵器だったわけだ。
うん? 今回は何のアナウンスも無いな。こいつら領域支配者じゃなかったのか。こんなに変わった生態なのにな。
ということは、こいつらみたいなのが雑魚扱いで砂漠にはうようよしてるってことか?
やっぱ油断ならねぇな、砂漠……いや、ファンタジーってやつは。
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